始まりの歌
新連載始めました。更新遅くなりますが、宜しくお願いします。
「冒険者ギルドへようこそ。シュメルさん。本日は納品ですか?」
「あぁ。今日は久しぶりに新しい罠の魔方陣も発見出来たし、とても良い日だった。張り切って魔物の素材を採取しすぎて、帰りは大変だったよ。では鑑定をお願いするよ」
「ではお預かりして査定しますね。少々お待ち下さい」
そう言って受付嬢は後ろに下がっていった。
今日は久しぶりに新しい魔方陣を発見出来た。これでまた研究が捗ると良いんだけどな。
私は生まれた時から体が弱く、魔力も少なかった。私の生まれは辺境の田舎で、両親は農民で食べる物にも苦労した。それに俺は次男だったから、畑を受け継ぐことも出来ないため、将来冒険者に成るために体を鍛えた。
15才になって家を追い出されてからは、直ぐに冒険者になった。冒険者にさえ成れれば、魔物を倒して魔力を上げて強くなれると思っていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。どんなに体を鍛えても、食べ物にも困る生活では、中々体は成長しなかった。どんなに魔物を倒しても、魔力も上がらなかった。成長限界ってやつだ。魔力の上限は、生まれた時から決まってるらしい。そして最悪な事に、私の成長限界は直ぐにやってきたのだ。まぁ簡単に言うと落ちこぼれってやつだ。それを知った時は荒れたね。努力は報われるって言葉を作った奴を呪い殺したくなったね。努力して報われるのは才能がある奴だけだ。俺みたいな落ちこぼれは、努力したって何の意味もなかったのだから。
それから私は努力する方向を変える事にした。魔方陣の研究だ。魔法を発動するには、魔方陣が必要だ。例えば指先に光を灯す魔法を発動するのに、必要な魔方陣を何処かで購入する必要がある。そしてその魔方陣を隅々まで見て、正確に暗記する必要がある。そして発動する時には、その魔方陣を思い浮かべながら魔力を込める。するとイメージした所に魔方陣が浮かび上がり、魔法が発動する。
まぁ魔方陣を丸暗記するのは大変なので、手に刺青を入れたり、魔方陣の羊皮紙を持ち歩いたりするのが一般的だ。まぁ魔力の高い者は例外として。
詳しい話は置いといて、とにかく私はこの魔方陣のパターンを研究して、新しい魔法を作れないか研究している。
昔一度魔法ギルドに研究内容の発表をしたんだが、まさかのギルド支部長名義の研究として発表され、私には全くお金が入ってこなかった。まぁ簡単に言えば研究成果を奪われたのだ。
それ以来私は魔法ギルドから距離を起き、細々と研究を続けている。
「お待たせしました。こちらが査定金額となります。宜しければサインをお願いします」
「大分良い金額になったな。また魔石の買い取り金額が上がったのか?」
「はい。魔道具の需要が増え続けているので、いくら有っても足りない位ですよ。そう言えば明後日の大規模探索にも参加されるんですよね?今回の大規模探索はこの町の魔石需要を満たす為に、領主様からの依頼らしいですよ。それに未到達エリアまで探索する予定らしいので、また新しい発見が有ると良いですね」
「そうだな。普段は浅い階層にしか潜れないからチャンスだな。この金額で問題ない。全額預けるよ。それじゃあ」
「ありがとうございました」
それから大規模探索に参加し、私は今未到達エリアに来ている。このエリアは罠となる魔方陣が沢山あった。新しい発見も沢山見つかった。私は興奮が押さえきれなかった。いつの間にか1人離れて探索していたのだ。
油断していた。
気がついたら罠の魔方陣の上に立っていた。
魔方陣が私から魔力を感知し、魔法が発動する。
すると私は見知らぬ場所に立っていた。
「ここは・・・」
周りは薄暗くてよく見えない。すると突然前方に巨大な魔方陣が現れた。
「なんだこれは」
見たこともない魔方陣が目の前に。そして魔方陣を発動している黒い影。そして私は意識を失った。
苦しい。気持ち悪い。だるい。そして体が上手く動かない。私は我慢出来ずに思いっきり叫んでいた。
「元気な女の子ですよー」
「やっと会えたわね。愛凛」
こうして私は生まれ変わった。
「愛凛ちゃん。今から貴方のお父さんや、お祖父様が会いに来てくれますよ。お祖父様は厳しい方ですが、良い子にしてるんですよ」
私は今一所懸命ミルクを飲んでいる。何となく言葉の意味は分かるけど、ずっと意識に靄がかかったみたいでハッキリしない。上手く考える事が出来ず、ただ欲求に流されている。
暫くすると、沢山の人達がやってきた。
「ふん。ダークブラウンか。使えんな。やはりカエルの子はカエルか。女の子と聞いて来てみれば、時間の無駄だったな。帰るぞ」
来て早々沢山の人達が帰っていった。私はただそれをぼけーっと眺めていた。
「お父様はいつもあんな感じだから気にしちゃだめよ。あなた」
「分かっているよ。でも顔を見に来てくれただけでも良かったよ。まぁ実際は髪の色を確認しに来ただけなんだろうけど」
「そうね。でもこの子の髪色が黒に近くて良かったわ。もし薄かったら本家に連れていかれてたかもしれないし」
「そうだな。私達の子供だ。大切に育てよう」
この時の私は、ただただそれを聞いているだけだった。