憧れのリア充ライフ
上機嫌で部室のドアを開けると、2人の部員が怪訝そうな目を向けてきた。しかし、今の俺には取るに足らない問題だ。
何故なら、今日、さっきの時間を持って俺は、ついに、満を持してリア充の仲間に、
「いつまでもそこでブツブツ言わないで早く入ればいいのに」
「志乃ちゃん、突っ込んだらダメだよ。後から面倒なことになるのは目に見えてるんだから」
おっと、少し気分が上がりすぎていたようだな。反省反省。リア充たるもの、いつだって心に余裕を持たなければならない。
「全部聞こえてるんだよな。そもそも、リア充足るものって、」
「志乃ちゃん、これ以上言うのは奏汰くんが可哀そうだよ。舞い上がって周りが見えてないんだからそっとしておこう?」
「おい!和樹が何気に1番酷いこと言ってるからな?」
「ご、ごめん、そんなつもりはなくて、」
「いや、図星だからって八つ当たりするなよな」
「ぐぬぬ」
先ほどから冷たい視線を隠そうともせずに言葉の刃を振りかざしてくるのは、風早志乃。部活仲間で恐らく部内ではしっかりしている方だろう。綺麗な長い髪に可愛らしい顔立ちをしているが、騙されてはいけない。口は悪いし、怒らせると怖いし、何よりスマホの画像フォルダはゲームやアニメのキャラクターをいくつもフォルダ分けしているオタクである。
深く関わらないとこの部分が見えてこないため、こいつのクラスメイトは 風早志乃 という人物は品行方正で大人しくて可愛らしい女子と認識しているらしい。哀れなことだ。
「なんか、失礼なことを思われている気がする」
「まあまあ、志乃ちゃん落ち着きなよ」
志乃を宥めているのが日吉和樹。こいつはとにかく優しい。だが、たまに猛毒を吐いてくるため注意する必要がある。志乃と同様に整った顔立ちをしている。優し気なイケメン、と言っても過言ではない。
志乃とは幼馴染らしく、女子力が高い。志乃の優しさと女子力はこいつが全て奪ったのではないだろうか。最初は「イケメン滅びやがれ」と毎日のように心の中で呪詛を吐いていた俺だったが、関わるうちにそんな気も失せて友好関係を築けている気がする。
「奏汰くん、どうしたの?いつも以上に変だけど」
「それ、俺がいつもおかしいって言ってるのか?」
「事実だろ」
「毒を吐きながら周回しない!ミーティングするんじゃないのか?部長は?」
「さっき職員室の呼び出された」
な、ということは、もう少し小滝さんと話すことができたのではないか?なんてチャンスを俺は、
「奏汰くん大丈夫?なんでそんな悲嘆にくれた顔をしてるの?」
「今日はいつもより感情の起伏が激しいな。まあ、落ち着いてこれでも飲めよ」
俺を見つつ引き気味に志乃はそう言った。珍しいパッケージのジュースだな。
志乃の珍しい優しさに感謝しつつ、俺はジュースを飲み、落ち着きを取り戻した。
「それで、どうしたの?緊張した顔で部室を飛び出したと思ったらにやにやして戻ってくるんだもん」
「よくぞ聞いてくれたな、和樹よ!」
「う、うん」
「実はな、小滝さんに告白されて付き合うことになったんだ」
「そうなんだ。おめでとう」
「そうだろ?いいだろ?羨ましいだろ?これで俺もリア充の仲間入りだ」
「という妄想をしているのか。いや、夢を現実だと思い込んでるのか。哀れだな」
おい、まて。可哀そうなものを見る目をするな。
「いや、現実だわ。小滝さんが、俺に告白したんだぞ?美少女だぞ?羨ましいだろ?」
志乃は慥か、美少女ゲームにも手を出していたはずだ。羨ましがるに違いない。
「いや、べつに。というか、小滝さんて誰?」
「な、お前、小滝さんを知らないのか?美少女愛好家だろ?」
「変態臭い呼び方をするな。それで、誰?」
「うちのクラスで1番可愛い女子なんだぞ」
「女子の可愛さを比較して順位をつけるのはどうかと思うけど」
「ぐぬぬ。とにかく、可愛いんだよ」
こいつ、常識人ぶりやがって。こちとら推しキャラの衣装について散々語り尽して引くほど分析してるのも知ってるんだからな。スカート丈について聞いてもないのに細かく語りやがって。
「小滝さんか。結構目立つ人だよね」
「和樹はわかってくれるか。でも、俺の彼女だからな」
「わかってるよ。それで、一緒に帰る約束とかはしてるの?」
「え?}
「え?ほ、ほら、恋愛小説とかでよくある展開で。あ、付き合い立てだもんね。部活とかあるし、メッセージのやり取りとかでの打ち合わせとかが先だよね」
「一緒に帰る?メッセージ?打ち合わせ?」
「え?奏汰くん?どうしたの?奏汰くん!?」
テンパりすぎて連絡先を交換することを忘れたといったら確実に志乃にバカにされる。いや、ちょっと待てよ?連絡先ってどうやって聞くんだ?
相手は女子、だよな?ど、ど、ど、どうやって。
その後、無事連絡先を手に入れた俺は部内で引くほど自慢した。
和樹の指導の下、小滝さんともっと仲良くなるための作戦を練り、連休明けから実践することとなった。
その時の志乃の笑いをこらえた顔は一生忘れないし立派なリア充になっていつか見返してやると心に誓った。
ただ、俺のリア充ライフがこれから困難を極めていくことを誰も予想していなかった。