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第八話 水瀬碧、登場

 状況は、昼休みになっても続いている。


 四時限終了のチャイムが鳴ると同時に教室がとたんに騒がしくなり、クラス中の注視の中、恵梨香とエミリが二人して俺のところへやってきた。


「光一郎。食堂へ行きましょう。今日のAランチは和風ハンバーグだから早くいかないと売り切れるわ」


「エミリは二階のカフェテリアがいいなぁ。ちょっとお高いけれど、その分すいてるしー」


 むうという膨れっ面の恵梨香と、ニコニコとした笑みを崩さないエミリ。


 俺はどう返答してよいのかわからなくて、うめくばかりだ。


「光一郎」


「光一郎君」


 冷え冷えの、有無を言わせないという恵梨香の声音と、俺を柔らかさで絡め取ろうというエミリちゃんの抑揚。


 北風と太陽を思わせる二人の視線。いや、関係ないんだけど。


 イソップ童話では太陽に軍配が上がるのだが、俺はどちらを選ぶわけにもいかず、逃げの一手を打った。


「ごめん! 今日、担任にテストの成績の事で呼び出しを受けていて! 叱られに行かなくちゃいけなんだ。俺は恵梨香やエミリちゃんと楽しい昼食を楽しみたいんだが、そうなるとテストがヤバイことになる」


 恵梨香は「うーん」と不満顔を浮かべ、エミリはそのにこやかな顔を「ざんねんだなぁ」というちょっとガッカリという表情に変える。


「まあ仕方がないわ。明日は必ず付き合ってもらうから」


「明日はエミリといちゃいちゃしてもらいますから」


 二人はそう言い残して、部屋を出て行った。


 突風の様に教室と、特に俺に対して甚大な被害を及ぼして。


 俺は机に突っ伏す。


 この状況がこれから続くのか……


 二人とつかず離れずという関係を続けながら解決策を探ろうとしていや矢先の先制パンチだった。


 疲労がどっと押し寄せてくる。


 俺、もう家に引きこもっていいよね、充分頑張ったよね、と自分を納得させようとしていたところ……


「手こずっているわね」


 状況を展望しながら、でも気遣ってくれている声音が耳に届く。


 俺が顔を上げると、ミステリアス系クール美少女の碧が脇に立っていた。


「どう? 恵梨香さんやエミリさんと恋人同士になった気分は?」


 碧は落ち着いた表情でこともなげに聞いてきた。


 感情が読み取れない。


「碧さん、三組だったはずだが。どうして?」


「もう学園中に知れ渡っているわよ。様子を見に来たの」


「そうなんだ。むぅ」


 俺は両手で頭を抱える。


「私まで卯月君のところに来ると、さらに誤解されるかもしれないわね」


「確かに! それは困るんで、申し訳ないが遠くから見守っていてくれると助かる」


「私は卯月君の事を心配してるのよ」


「なんで……気にかけてくれるんだ?」


「何故だと思う?」


 碧が極僅かに目を細めて、俺の反応を期待するように口元に笑みを見せる。


「少し話しましょう。廊下を歩きながらでも」


 碧はその言葉の後、背を向けて歩きだす。


 俺は慌てて立ち上がって、その後を追った。

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