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第三十六話 ネタばらし

「どんな感じ?」


「何の変化もないようだ」


 碧の問いかけに、俺が答える。


「でもこれで、光一郎は私たち三人の運命のパートナーになったわね。独り占めじゃないのが気に入らないったらありゃしないんだけど」


「エミリ的には満足かな。これで晴れてエミリも光一郎君の愛人の一員ですぅ」


 満足の笑顔を見せたエミリに、俺は口端を吊り上げて見せる。


「果たして……」


「果たして……ですかぁ?」


「そう。果たして、そうかな?」


 俺のニヤリとした挑発顔に、恵梨香が何よ不満なの!? と声を荒げた。


「三人に囲まれてハーレム気取りかもしれないけど、逆に言うと拘束されているのは光一郎よ。先送りにした正妻問題もいずれ解決するわ」


「そういうことじゃないんだ」


 俺の不敵顔に、恵梨香が眉をしかめる。疑念。疑問。俺の意味していることがはっきりと分からずにストレスを感じている様子。


「はっきり言いなさいよ! 男らしくないっ!」


「碧。教えてあげてくれ。俺だと役者が不足してるんで」


「わかったわ」


 碧がここで初めて目を細め、冷えた笑みを見せる。


 そのまま恵梨香に近づいて、棒立ちになっている恵梨香の唇に――軽くキスをした。


「なっ!」


 恵梨香が驚いて口を手で覆う。


 眼前に冷涼な笑みを見せている碧を見返す。


「なにする……って、それがどうかしたのっ!」


「どうかするのよ」


 ふふっと碧が笑う。


「恵梨香さんは今、私とキスをしたわね」


「されたのよっ! 私、異性が好きな女の子なんだけどっ!」


「まだわからない?」


「…………?」


 この時点で、眼前の揺らぎない碧の態度に、恵梨香の中に疑義が生まれた様を見せる。


「私たちは卯月君とパートナー契約を結んでいるのよ」


「それが何か問題でもっ!」


「その貴女が……」


「が……?」


「なぜ『卯月君以外』の私とキスできるのかしら?」


 碧の言い放ったセリフに、恵梨香が彫像の様に固まった。


 目を見開いたままの、石膏のさま。


 恵梨香の周囲の空間だけ、時間が止まったかのように見える。


「……もしかして」


 言葉を失っている恵梨香に代わって、エミリちゃんが割って入ってきた。


「光一郎君、碧ちゃんに能力使ってない……の?」


 普段は、ふんわりゆるゆるのエミリちゃんなのだが、実は頭の回転が速い事を証明する。


 俺はふふんと鼻を鳴らした。


「ご名答。俺は碧に能力を使ってない。恵梨香とのキスも、自分でわざと弾け飛んで見せた」


「……そう……だったんだ」


「だから防御力のある俺に二人同時にアタックして、今、みんな無能力になった状態だ。アタックは一回しか防げないから、恵梨香とエミリちゃんに同時にアタックしてもらう必要があったというわけ」


「なるほどねー」


 エミリちゃんは嵌められたとわかっても、怒る様子がない。逆に感心したさまでうんうんと頷いている。


「上手く行くかどうかはわからなかった。でも俺も追い詰められて、覚悟を決めてこの決戦に臨んだわけだ」


 言った後碧を見ると、視線で答えてくれた。


 固まったままの恵梨香の前で、エミリちゃんに説明を続ける。


「恵梨香とエミリちゃんの告白を受け入れたのは成り行きだったが、碧と出会って『能力で誰かが俺を落とすのを阻止すること』を目指そうと決めたんだ。結果的に俺は能力の下僕にはなっていない。碧といちゃつくことで恵梨香とエミリちゃんを揺らしたわけだが、二人には申し訳ないと思っている」


 ――と、今まで石膏だった恵梨香が、うがーと叫びをあげた。


「はかられたーーーーーーっ!!!!!!」


 艶やかな頭髪をその両手で掻き乱して、悔しさをあらわにする。


 エミリちゃんも同意の様子。


「やられちゃったね」


 てへっと可愛らしく舌を出す。


「でも……」


 恵梨香がふと思い立ったという様子で動きを止めた。


「それなら、碧との付き合いは演技ってことにならない!?」


「そうね。私は卯月君の彼女ではないわ」


「ならっ!」


 恵梨香が俺を見て、目をきらめかせる。


「振り出しに戻っただけでまだチャンス全然あるじゃない!」


 乱れていた恵梨香のまなこに希望の灯がともる。


しかし、ふふっとそれを嗤うかのごとき音が微かに響いてそちらに気を取られる。


「そうかしら? もうチャンスはないと思うのは、私の自惚れ?」


 ちらと、碧はこちらに流し目を送ってきた。


「エミリにも、チャンスあるかなー?」


「諦めちゃダメ。あの女の思うつぼよ!」


 恵梨香がまるで母親のように、碧を指さしてエミリちゃんに教え諭す。


「諦めないのは自由だけど、少し遅かったと思うのが私の驕りだといいわね」


 碧は高みから二人を見下ろす視線。


「うがーっ! なんてオチなのよーっ!」


 恵梨香の叫び声が俺の部屋にこだまする決着なのであった。

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