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第二十七話 夜の秘め事

 就寝時間になった。


 俺の部屋にパジャマ姿でたむろしていた四人であったが、微妙な空気が流れる。


「それじゃあ、寝ましょうか」


 碧のセリフに恵梨香が不服そうな表情を浮かべた。


「どこで寝るつもりなの?」


「はっきり言葉にして欲しいの?」


「言いなさいよ!」


 ふっと碧が口端を吊り上げた。


「卯月君と同じベッドで」


 瞬間、恵梨香が俺に向き直る。


「光一郎! この女、追い出しなさいよっ!」


 俺に向かって不満顔を注いできた。


 その恵梨香の気持ちはよくわかる。


 一緒の部屋で、しかも同じベッドでとなると、間違いが起こりかねないと心配するのは思春期の少女として正常な神経だ。


 だがしかし。俺は事前に碧と打ち合わせていた通りに会話を進める。


「っていっても他に部屋はないし……」


「隣の私たちの部屋に来なさいよ!」


「誰が?」


「碧でも、光一郎でも!」


「卯月君は私と一緒に寝たいの。そうでしょ?」


 碧が恵梨香の神経を逆なでする絶妙なタイミングで声を挟む。


「まあ、はっきり言うとそうなんだが」


 恵梨香が衝撃を受けて固まった。


 やりすぎなんじゃないか? という思いはある。が、ここまできたら恵梨香とエミリちゃんにフられなければ今までの努力、演技が無駄になるのだ。


 俺がフラフラしているようでは、同じゲームを勝利を目指して一緒に進んでくれている『裏パートナー』の碧にも申し訳ない。


「そんなに……」


 恵梨香の顔が歪んでゆく。


「そんなに……碧が好きなら……」


 その目尻に涙が浮かんでいるのがはっきりとわかる。


「もう勝手にしなさいよっ!!」


 恵梨香が叫んだ。


 ここまでは想定通り。恵梨香、ごめんと胸中で手を合わせる。そして更にもう一歩。


「卯月君」


 碧が近づいてきて……


 俺の両肩に腕を回してきて……


 恵梨香とエミリちゃんが見つめる前で、俺の唇に軽くキスをしたのだ。


「な……」


 恵梨香は絶句して言葉が出ない。


「碧ちゃんと光一郎君て、もうそんな仲なんですねー。エミリの入り込む隙間、残ってますか?」


 エミリちゃんがしょぼんと顔を落ち込ませる。


「日課よ」


「日課ですかー」


 言葉を失っている恵梨香に変わって、エミリちゃんが応答を返してくる。


「卯月君が誰かに浮気していないかどうかのチェック。卯月君が他の誰かに能力を使っていたら、私はキスできないから」


「ならっ!」


 恵梨香が涙顔で叫んだ。


「私にもさせなさいよっ!」


「どうぞご自由に。卯月君がオッケーすればの話だけれど」


「光一郎っ!」


「……悪い。碧としかしたくない」


 恵梨香が呆然自失の様子で立ちすくむ。


「恵梨香ちゃん。行こ。隣の部屋に」


 エミリがその恵梨香の手を引いて去ってゆく。


 自分を失った様の恵梨香がふらふらとエミリに引かれながら、俺の部屋に碧だけを残して出てゆく。


 もう一度。心の中で、ごめんと恵梨香に謝った。


 このゲームが終わったら。皆が能力を捨て去って自分の意志で相手を選べるようになったら、恵梨香ときちんと話をしよう。そう固く誓って。

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