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第二十四話 夕食

 夕食時になって、ダイニングに四人集まった。


 四角いテーブルには、サバの味噌煮、肉じゃが、ほうれん草のお浸し、オムライスにハンバーグ等、和洋の品々が集まっている。


 皆で『いただきます』をして、互いに互いの出方をうかがう、なんとも言い難い微妙な雰囲気の中での食事が始まった。


「はい」


 隣に座っている碧が俺にジャガイモを差し出してきた。


「甘めの味付けにしておいたから、卯月君の口に合うと思うわ」


 そう言って、肉じゃがを俺の口の前に置く。


 ちらと対面の恵梨香、エミリちゃんを見た。


 恵梨香は、ふんっ! としたぶっきらぼうな表情。脇のエミリは、気にしていないという様子でパクパクとハンバーグを食している。


 俺は「むぅ」と、音にしないで呻く。


 恵梨香とエミリちゃんに、碧との仲を見せつける作戦。


 だがこの方向性で本当に恵梨香とエミリちゃんは俺の事を諦めてくれるのだろうか? という疑問が沸々と湧きおこって久しい。


 二人にも申し訳ないという気持ちがある。嫌われるための演技とはいえ、告白を一度は受け入れた俺が恵梨香たちを袖にするのだ。二人が激怒するのも無理はない。


 怒らせるのではなく、呆れさせて諦めさせるのが目的なのだが、今のところ上手くいってはいない。


 碧の促しにしたがって、ジャガイモをパクと頬張る。


 ほくほくとした男爵の柔らかさと甘じょっぱい醤油味が口中に広がる。


「どう? 味付けは?」


 聞いてきた碧に、


「うん。美味しい」


 正直に答えると、碧は口に合ってよかったと言った後に自分の食事に戻る。


 会話は弾まない。


 エミリちゃんだけがぱくぱくと一人満足そうに口を動かしている中、恵梨香が対面から手を伸ばしてきた。


「はい。私が作ったハンバーグ。味付けは、光一郎好みの関東風」


 恵梨香を見る。


 目が座っている。


 怖い。


 無言で、俺にそれを食べて美味しいとのたまわれという圧力をかけてくる。


「卯月君はあまり濃い味は好みじゃないの」


 碧が割って入ってきた。


「なに言ってんのっ! 私は光一郎と十年来の付き合いなのっ! 食べ物の好みも女性の好みも全部わかってるんだからっ!」


「そう? ならそれは勘違いね。卯月君はあまり直情的な娘さんは好みじゃないのよ」


「ふんっ!」


 恵梨香が更に腕を伸ばして、俺の眼前にハンバーグを差し出す。


 ごめん! 俺は恵梨香に心中で謝る。ここで作戦を変えるという選択肢はない。『碧ルート』を選んだ時から、この様な事態は覚悟の上なのだ。


「濃厚なのは……あまり、好みじゃないんだ」


 瞬間恵梨香の表情が固まって、それから鬼の形相に変わる。


「恵梨香ちゃん。落ち着いて。取り合えず、まずは食べてからにしよ」


 エミリちゃんがとりなさなかったら、恵梨香は暴れ出していたかもしれない。


 本当にごめんな、恵梨香。悪気はないし、もちろん恵梨香の事を嫌っているわけじゃない。ただこのゲームの結末を残念な物にはしたくないだけなんだ。


 俺は再び胸中ではっきりと言葉にしてから、自分の食事に戻った恵梨香と同じように、再び茶碗に向き合い始める。


 碧も俺の気持ちを汲んでくれたようで、それ以上恵梨香をつつくことはせずに食事が終わった。


皆で一緒に『ごちそうさま』。


 作ったのが碧と恵梨香だったので、片づけは俺とエミリちゃんが行った(エミリちゃんは食器を洗うと割ってしまいそうだという自己申告があったので、テーブルの片づけをしてもらった)。


 何もない、でもちょっと波立った夕食が終わって一息ついた所だったのだが、事はそれでは治まらないのがこのゲームなのであった。

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