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第二十一話 キスと修羅場 その2

「まるでシャワーを浴びていた様じゃなくて、シャワーを浴びて出てきたところ」


 碧が俺の心を見越したように、三人に向けて声を放つ。


 鋭い矢の様な威力を持つセリフが、俺たち三人の心臓を直撃する。


 碧は制服で登場のはずだ。それが、薄皮一枚のエロい格好で三人の前に登場したのだ。


 真っ白なバスタオルと、漆黒の流れるような黒髪の対比が目に眩しい。そこから延びる綺麗な手足。染み一つない、ほんのりと上気して染まった肌。


 何か言わなくてはいけない、尋ねなくてはいけない、と思いつつ喉から声は出てこない。


 ゴクリと口内の唾液を飲み込んだ。


 吸いつけられた様に、髪をぬぐう碧から目を離せない。


「だっ……だれよっ、この裸の女っ!」


 背後から、混乱した恵梨香の声が響いてきた。


「……って、よく見ると、碧! なんで……いるのよっ!」


 なんとかセリフにはなっているものの、混乱魔法を食らったような抑揚はその困惑を隠せてはいない。


「碧ちゃん。うわっ。登場のシチュがうらやましい!」


 エミリの、うわーうわーと高調した声がその後に続く。


「少し前から卯月君とは同居……同棲しているの。二人は知らないだろうけど、もう男と女の関係よ」


 俺も含めて、三人は絶句した。


 平静を崩さない声音に、妙な説得力がある。


 って、違うだろっ、そこは!


 俺と碧が、男女関係とか、裸の碧が出てきたら恵梨香とエミリは信じてしまうだろっ!


 いや、恵梨香とエミリの気持ちを俺から遠ざけるのには成功しているんだが、事前の計画では迎えに来た二人に代わって碧と一緒に登校するという段取りだったはずだ。


「「マジ?」ですかー?」


 恵梨香は短く鋭く、エミリは素直な疑問と共に聞いてくる。


「マジ」


 碧は二人が求めていた希望的観測を、一言で打ち砕く。


 むきーーーーーーっ!! と恵梨香が悔しさ爆発という癇癪を起した。


「キレイなカラダしやがりやがってからにっ! そのイヤラシイカラダで光一郎を誘惑したのね! 光一郎の初めて! 羨ましい! 光一郎とは初めて同士って決めてたのに! きーーーーーーっ!」


 って恵梨香さん、言葉! 言葉乱れちゃってるから!


 その恵梨香の反応が楽しいという抑揚で碧が返す。


「大丈夫。ほんとはまだだから」


「ほんとなのっ!」


「ほんとよ。私は光一郎と『まだ』何もしてないわ。恵梨香さんが乱れる姿を楽しみたかったからからかっただけ。でも……」


「でもっ、なにっ!」


「時間の問題かもしれないわね。ふふっ」


 碧は俺の前で、対峙している恵梨香に向けて口端を吊り上げた。


 ぐぅという歯噛みする音が背後の恵梨香から聞こえ、さらにそれに対する反応を示したのはエミリちゃんだった。


「エミリも。エミリも、裸で光一郎君を誘惑しなくちゃ」


 セリフにぎょっとして二人の方に向き直ると、いきなり制服を脱ぎ出しているエミリちゃんんがいた。


 あれよあれよという間にブレザーを脱いでブラウスのボタンに手をかけ、スカートをするりと脱ぎ捨てて、ピンク色の下着だけになったエミリちゃんがいるのだった。


「光一郎君。私とも、しよ。光一郎君が碧ちゃんとしたのかどうかはわからないけど、碧ちゃんだけってエミリは羨ましくてずるいって思う」


 エミリがきゃんと、ぬいぐるみに対する様に抱き着いてきた。


「エミリも光一郎君とちゅっちゅするですー」


 下着は付けているとはいえ、生の女の子の感触。


 エミリはそれほどグラマラスというわけではないが、きちんと女の子の柔らかさは持っている肉体だ。


「ちょっと待てエミリっ! 俺と碧は本当になんでもないっ! 碧は……俺を迎えに来て汗をかいたから、シャワーを貸していただけだ!」


 口から出まかせでこの場をなんとか言い逃れようと人事を尽くす。


 碧の登場から始まって、親の仇を見るような恵梨香の視線に、エミリの柔肌の感触が俺を責め立ててきて、もはやどうしてよいのかわからない。


「エミリさん。卯月君の言っていることは本当よ。私はただのお風呂上り。恋人同士の情事でも、いきなりは『やらない』でしょ。秘め事には段取りを踏まないと。突然裸になって抱き着いてもそれはただの痴女よ」


 なんつーセリフを口にするんだと、心中寒くなって碧に怯えるが、


「それもそうかも。てへっ」


 エミリはぺろっと舌を出して俺から離れてくれた。


 ふうーを息を吐く。


 恵梨香の視線はまだ険しいが、俺と碧の肉体関係という間違った認識は改めてくれただろうか?


 確かに恵梨香とエミリの気持ちを俺から離すために碧と接近しているところを見せつけるという戦略なのだが、やりすぎだ。


 子供の頃から負けず嫌いの恵梨香は激高しており、俺を嫌ってもらうための演技が逆効果になりかねない。


 エミリに関しても、俺が碧とくっつく事を全く異に返さず、自分は二号さんでいいという有様でもある。


「言い忘れてたけど」


 髪をぬぐい終わった碧が、大したことではないという感じで付け加えてきた。


「私は能力者ではないから、卯月君のアタックを受ける用意はあるのよ」


 不敵に響いた声に、恵梨香とエミリが同時に声で反応する。


「なんですって!」


「なんですとー!」


 ふふっとした碧の挑戦的な笑みが聞こえて、その気配が背後さら遠ざかってゆく。


 恵梨香がぐっと拳を握りしめて唇を噛みしめる。


「私も今日から光一郎の家に泊まって、監視するから!」


「エミリも、碧ちゃんが羨ましすぎるので光一郎君と同棲することにしますです」


 二人の表情は、その決意が固くて緩まない事を想像させた。


 三人の内、碧を選んだと思わせる様に仲良く恋人よろしく振舞って二人に愛想を尽かされて捨てられる。それが計画の流れだった。


 しかし二人は俺を捨てるどころか執念の炎を燃やしてきた。


 これから更に碧と仲睦まじい恋人同士のいちゃいちゃを見せつける予定でもある。

 正直、恵梨香とエミリの反応が怖い。


 碧と絡み合う事で、俺の事を諦めてくれればと期待していたのだが、俺が思っていた以上に恵梨香は嫉妬深くて執念深い女に成長してしまったらしい。むぅと唸る。


 エミリについては、もっと単純に俺と男女の関係に進みたいらしくて、他の女の存在をあまり気にしてはいない。碧がいてもいなくても俺に突撃してくる気配が濃厚だ。


 これから先どうなってしまうのかと、暗雲立ち込める四角関係に一人頭を抱える俺なのであった。

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