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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【九十四点】長時間耐久の始まり

「……そっちはどうだ?」


『っは、全員の配置と顔を覚え切りました。 不審な行動を取る者は見受けられません』


 場が落ち着きを取り戻した頃、全員が目的の部屋に到達するまでのルートを潰しにかかる。

 殆どは怜が潰したが、遠回りの道や壁が薄い所為で強行突破をされかねない道はまだ多分に存在している。それらをなるべく選択されないよう、ルート上の道を一時的に完全閉鎖することにしたのだ。

 とはいえ、この一団は壁を持ってはいない。仮に持っていたとしても、相手側の物量で押し切られるのは目に見えている。既に上で作業している面々も集め、ある程度の真実を話した上で協力をしてもらうことになった。

 此度の作戦は秘匿されたものだ。選ばれたメンバーも精鋭であり、特に秘密の管理については徹底している。口外される心配は薄いと語るのは、途端に口調を改めた総隊長の言だ。


「よし、そのまま全員は監視に注力してくれ。 戦闘はせずに何よりも先ずは報告だけに集中させろ」


『畏まりました。 では、予定時間に』


「ああ、命を大事にだ」


 耳に当てていた携帯を降ろす。

 通話は切れ、辺りには天井や側面の壁を壊す音が木霊していた。俊樹もまたルート潰しを手伝い、異常が起きた場合はゲート前で戦う手筈となっている。

 彼の炎は狭い室内では諸刃の剣だ。逃げ場の少ない場所では容易に炎の焼かれ易く、同時に地下に残る少ない酸素を一気に消耗することになる。

 呼吸が出来ねば予め酸素ボンベでもない限り窒息は免れない。これは俊樹達側にも言えることで、故に炎の放出は追い詰められた場合の最終手段としている。

 基本は極薄の炎でコーティングした徒手空拳。常よりも繊細さを求められる戦闘に、彼のメンタルは憂鬱を告げる。


「あー、本当に来るんじゃねぇぞ。 来たら絶対に許さねぇからな――っと!」


 鬱憤を込めて天井に飛び蹴りを一つ。

 脆い天井は轟音と共に周囲を巻き込みながら盛大に落下を始め、俊樹は内側に退避して落下が終わるのを待つ。

 煙を撒き散らし、金属片を周囲に漂わせた天井は見事にルートを塞ぎ、即席の盾として優秀な姿を彼の前に見せる。これが銃器同士による撃ち合いとなれば、先ず防衛側の方が有利だろう。

 逃げ道が無くば出来ない芸当ではある。相手もそれを直ぐに理解し、なるべく早く突破しようと強引な手法にも出る筈だ。

 しかし、此処は何時崩れるかも解らぬ地下施設。まったくと管理されなかった弊害でどんな攻撃方法でも壁や天井や床が崩れてしまう。

 

 そうなれば折角道を作ってもまた塞がれる。二度三度と同様の真似をするとは限らないが、少しでも相手の体力を削ることが出来れば儲けもの。

 この戦いは勝つことが目的ではない。時間を稼ぎ、相手が察するよりも早く五百年前の船を入手することが勝利条件だ。

 戦闘が最良の手段とならないことが俊樹にとって数少ない安心出来る要素である。本当に戦わないで済むとは微塵も思わないが、突撃して殴り合いにならないだけまだマシだろう。


 それに今の彼にとっては都合の良い手足もある。

 誰にも覚られぬ形で怜が疑似脳内で命令した内容を、悟は新たに配られた端末で受け取って動き出していた。

 元は相手の動向を探る隠密のような役回りをしていた彼等だ。何処で隠れるのが一番相手にとって嫌かを見極め、防御陣地を構築する者達とは異なる位置で周辺の監視を行っている。

 彼等の使命は報告ただ一つ。抗って戦うのではなく、逃げ回りながら俊樹達に情報を与え続けるのが彼等の今回の仕事だ。その過程で戦闘をすることがあっても、必ずしも相手を仕留める必要は無い。――いや、時間稼ぎをすることが目的なら手傷を負わせて撤退させるのが最良だ。


「ッと、連絡か。 もしもし?」


『ヴァーテックス側はルートを潰し終えた。 そちらは?』


「こっちもOK。 頼りになる壁が目の前にあるよ」


『それは重畳。 では戻って待機をしてくれ』


「あいあい」


 バイブ音と共にやってきた怜からの連絡に軽く答え、伸びをしながら俊樹は戻る。

 油断をしてはならないと言うが、やはり人間は常に気を張れない。何処かで緩くなれる時間が無ければいざという時に意識を保つことも出来なくなる。

 人は危機的状況に追い込まれる程エネルギー消耗も激しくなるものだ。持参した保存食以外にまともな食料が存在しない現在において、余計な燃料消費は避けねばならない。

 ゆっくりと十五分の道を歩き、俊樹は全員と合流を果たす。

 最後にゲートのある部屋の入口の壁や天井を崩して塞ぎ、二重三重に手間が掛かる形とした。

 更に総隊長の指示でゲート周りの散らばった金属の塊を使い、煉瓦を積むが如くに壁を構築。最早この部屋に入られてしまえば負けに近いが、悪足搔きとして総隊長は最後の壁を敷いたのだ。


「保存食は節約をしても一週間分。 相手もそこまで時間を掛けることはないだろう。 同時に、我々も一週間以内には修理を完了させる」


「具体的には?」


「四日は最低でも欲しい感じ。 一週間フルに使えれば万々歳かな」


 片手をゲートに張り付けつつ、ルリは首を傾げながら答えた。

 食料は一週間。最低でもそれだけ経過すれば、この世界の行く末が決まることになる。

 ゲートの向こうでは金属の擦れる音が聞こえた。何かが行われている物音は、知らない人間が聞けばホラーの一つに思えてしまう。

 ルリや怜を除けば一体どうやって修理しているのかは一切不明だ。それでもやっているというのなら、ルリがやってくれる以外に道は切り開けない。

 賽は既に投げられている。総隊長達は殆ど巻き込まれた形であるが、泣き言を漏らさずに無言で周囲に散っていく。

 ルート傍で陣取り、床に座った総隊長は無線機を手に外の者達と連絡を取り合う。

 

 内容は様々だが、特に強かったのは本部からのARの即時派遣だ。

 最初期段階では一緒に投入される手筈であったARは現在、ロシアで起きている大規模テロに出撃している。

 その事実が届くまでは本部に一切の状況が伝えられなかったものの、内容を聞けば聞く程に厄介な事になっていた。何せ、五つある生産装置の全てが停止していたからである。

 本部は支部にどうしてもっと早くこの事実を報告しなかったのかときつく尋ねたが、支部は何やらまごまごとした口調で言い訳を述べていたという。

 此処に情報が届いたのは支部の一般職員が勝手に本部に連絡を取ったからなのだが、それが無ければ今頃危機的状況でARが参入しない事態になっていた。

 

「三日だ。 三日までは待つが、それ以上派遣しなければ何が起きても責任は取れんと本部に伝えろ。 ……何故かだと? 今は質問をしている場合ではない!!」


 現場指揮官特有のごり押しであるが、彼は経験豊富な頼れるリーダーとして名が通っている。

 外部との通信を任された者は涙目になってはいるものの、それでも強くされた命令に従って何とかARを運ばせるだろう。

 現場の人間が何かを隠すことはよくあることだ。どうせ直ぐに露見するのであれば、今この瞬間に時間を使う方が勿体ない。全てが終わった上で改めて説明をすれば済む話である。

 尤も、彼等が生きていればとなるが。


「運び込んだ防衛用隔離壁を予備の分まで展開しろ。 武器は常に対物火器に限定。 今は意味が解らぬだろうが、敵は間違いなく居るぞ。 全員警戒を常に厳として三人一組となって巡回も強化しろ。 定期報告の時間も三十分から十分に一回に変える」


 全ての報告を終えた総隊長は、最後に頼むと告げて通話を切った。

 床に機械を重々しく息を吐く。場の雰囲気も自然と重力が増していき、精神的な息苦しさも全員が感じた。

 俊樹達はゲート前に陣を取る。父親も同様の場所で手頃な金属塊に座り、本部から出発する前に貰った拳銃を腰から取り出した。

 黒光りするハンドガンは五百年前と比べれば威力が増大し、衝撃も緩和されている。

 最初に使った武器と比べれば遥かに能力としては上であるも、これが頼りになるかと言われれば答えは否だ。


「なんもしてねぇな、俺」


 その言葉は、随分と自身の胸に響いた。

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