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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【九十二点】これが終わりの船に至る道

「勝手な行動は慎んでもらいたい」


 俊樹達全員の背後でその声は嫌に響いた。

 思わず隊員達も動かす手を止め、そちらへと顔を向ける。物音ばかりの空間に静寂が流れるも、総隊長はそれを叱りはしなかった。

 寧ろ逆に、これこそが正解なのだと彼は確信を抱いている。

 現に怜は驚いた顔をしていなかった。ルリは焦った顔をしていなかった。俊樹は恐怖に染まらず、父はそうだようなぁと納得に何度も頷く。

 この場で総隊長の気持ちに気付けるのは俊樹やその父だけだ。何も知らないままに命令だけで此処に来て、おかしな状況を実際に見た。

 情報だけでは人は怪しいと感じることしか出来ない。それは人が怪しさの証拠を求めるが故であり、しかし一度真実を知れば取るべき手も絞られる。


「そちらはまだ安全確認を行っていない。 先頭の者が探す手筈となっているのを、まさかこの短時間で忘れた訳ではあるまい」


「勿論だとも、忘れることは基本的に無いのでね」


「ほう、それは羨ましい能力だ。 私にも是非そのような能力があれば書類整理ももっと楽になっていただろう――さて」


 総隊長はゆっくりと両手に抱えた対物マシンガンを俊樹達に向ける。

 ロックは解除済み。引き金を押せば、轟音と共に怒涛の勢いで建物ごと彼等の肉体を破壊し切れる。如何に創炎使用者とて、このマシンガンには怪我を負わずに済むことはない。

 当然、その威力と引き換えに人体に与える衝撃も通常の比ではない。だがこれに関しては着ている防護服がアシストをしてくれるので然程問題にはならなかった。

 この仕事を命令されて、総隊長は特に警戒をしている。この隠す気の無い隠し事の塊達は、一体どうして此処を必要としているのか。


「今回の仕事の真の目的を教えてもらいたい」


「真の目的か。 ……どうせもう直ぐ知るが、今聞きたいと?」


「何が危険かも解らぬ状況で情報を聞かぬ愚か者が居るとでも? 最近になって現れだしたお前達の存在は、ヴァーテックス内でも少々疑問に思われていた。 お前やそこの女だけなら元帥閣下の趣味という線で片付けることも出来たが、明らかに鍛えられてもいない子供やその父親を本部に招く意味が解らない」


 元帥閣下の趣味という点で怜の周囲に冷気が漂い始めるも、言っていることは至極納得出来る内容だ。

 突然に現れた、元帥の執務室に入ることが許される若者集団。一人は総隊長と同年代であるが、それでも残りは若々しい女子供だ。

 元帥閣下の親戚と見るには、あまりにも彼等に関する説明が無かった。普通は縁戚関係であることを特に何でもないように話すことはある。それが一番信用や信頼の値を稼ぎ易いからだ。

 信じるかどうかは実力を見てからと語る者はごまんと居る。けれど、そんな者達ですら心の底では偉大な者の身内に仄かな期待を向けてしまう。

 彼等が元帥である東雲の親戚であったのなら、まだここまで総隊長が疑うこともなかっただろう。

 

「それに四家の者とお前達は浅いながらも縁を持っているという。 これで罠ではないと思う方が馬鹿だ。 ……これまでの数々の謎の多い出来事にも絡んでいると、私は思っている」


 短く話を締め括り、相手の反応を見る。

 焦るか、冷静さを保つか――――否。否、否、否、否。わざわざバレる餌をばら撒いておいて、彼女が普通の反応をする筈がない。

 怜は笑っていた。全てが見惚れる女神の深い笑みは、例え一瞬であれども皆の正気を奪う。

 だが彼女の顔を深く注視すれば、瞳の奥に宿る極寒を知れる。吹雪が乱れる氷の大地に放り込まれるような感覚に、多くの経歴を持つ総隊長の全身が一度震えた。

 それでも、彼は怯む姿を晒さない。ただ強く相手を睨み、彼女が語るのかどうかを確認するのみ。もしもこれが罠であれば、自分が死ぬことも視野に入れて攻撃を開始する。


「いやいや、合格だ。 よくぞ躊躇せずに質問してくれた。 そうでなくては困るというものだ」


 拍手が鳴る。

 怜は軽やかに二度三度と手を叩き、相手を褒め称えた。本当の意味で褒めている訳ではないが、一先ず上からの命令に唯々諾々と従うだけの人間ではない点を彼女は素直に評価している。

 目上が用意した人材が必ずしも有能とは限らない。寧ろ、上の方が現場を知らないのだから無能な労働者を派遣する可能性がある。

 そうなった時、上への評価を気にして何も文句を言わずに不満を胸に溜め込むか、自身の上への評価も気にせず素直に詰問が出来るか。

 怜のこの試しはついでだが、知れることは良いことだ。――故に、これからを話しても彼ならば十分に指揮をしてくれることだろう。


「先ず一つ、確かにこれの任務は探索ではない。 ではどんな任務であるかと問われれば、防衛任務だ」


「防衛……何を守れと? まさかお前達ではあるまい」


「無論、そうだ。 守るべきは此処の地下にある施設。 五百年前まで怪獣から人々を守る為に存在していた――フォートレスの地下基地だ」


「……!? ッ馬鹿な」


 五百年前に表立って怪獣からの襲撃を退けた偉大なるヴァーテックスの前身。

 ただの一会社だった組織が超能力集団と繋がりを持ち、人類を庇護する最強の武力勢力として君臨した。

 その地下施設が此処にあることは誰もが知っている。知っている上で総隊長が驚いたのは、彼女がそこを基地であると言ったからだ。

 基地はヴァーテックスの本部がある場所だと教科書には記されている。本当の場所を知る人間は、極めて一握りの人間だけだ。

 総隊長は任務の関係で此処の本当の名前を知っている。それを絶対に世に出してはならぬことも、複数枚の誓約書を強制的に書かされた段階で理解していた。

 

「如何にお前達が元帥閣下と繋がりがあるとしても、その機密を早々他所の人間に漏らしはしない。 答えろ! お前達は何者だ!!」


「答えを知れば、お前もお前の部下達ももう逃げられなくなるぞ」


「この任務の怪しさを悟った段階で逃げるも逃げないもあるまい」


「豪胆な奴め。 ――付いて来い。 行きながら説明してやる。 付いて来ないなら何も聞かずにただ任務を遂行していろ」


 怜は笑っていた顔を戻し、マシンガンが向けられているにも関わらずに全員で地下の階段を降りていく。

 絶対者が如くの態度に総隊長の額に青筋が浮かぶも、説明をされないこの状況で放置する行為は自殺に等しい。

 脅しとして床に数発弾を吐き出し、轟音で辺りの空間を占めて彼は溜息を吐いた。

 そのまま四人程付いて来るように命じ、残りの面々は揃って外の者達の手伝いに向かわせる。

 駆け足で怜の横を陣取り、その後ろを四人が追従した。


「此処から先にあるのはフォートレスが運用していたロボット達の格納庫だ」


「ああ、知っている。 始まりは超能力者側の技術者が開発し、その者の知識を取り込んだ人類がロボット工学として大きく世に広めた。 現代のARも彼等の技術が無ければ誕生すらしなかったな」


「……当時でもあのロボット達は一定の戦果を出していた。 そのロボット達を出撃させる場所として、此処には海に繋がる発射ゲートが存在している」


「それは知らないな。 だが、使える訳ではないのだろう?」


「五百年も経過しているのだ。 ゲートは閉鎖されたまま機械類は完全に使い物にならなくなっている。 ……仮に修理に成功したとしても、元々の電源が足りない。 何処かから引っ張ってくるしかないだろう」


「無謀な試みだな」


「ああ。 ――だがもし、それが無謀ではなくなったとしたらどうだろう」


「なに?」


 地下へと続く階段が終わりを告げる。

 辿り着いた地下層。人が三人は隣り合って進める幅の通路は、他の建物と同様に劣化によって一部が土に埋まっている。

 電源は無い。隊の人間がライトで照らして視界を確保する中、突如として強烈な光が辺りを包み込む。

 咄嗟に目を閉じるも、彼等が感じるのは温かみのある熱だけだ。

 警戒をしながらゆっくりと目を開けると、そこには黄色の光球が彼等の前にあった。


「――これで進めるよ」


 ルリの声に総隊長が顔をそちらに向ける。

 そこにあったのは、光が無いものの天井と同じ形をした球体を複数持つ彼女の姿。数分前には確かに持っていなかった筈の、光源が手元に存在していた。

 

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