表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/147

【八十七点】海底の宝物

「正確に言えば、そこはただの入り口でしかない」


 驚きと理解、興奮が辺りを包む。

 冷静であるのは俊樹と怜だけで、彼女は俊樹が驚いていないことを半ば予想していた。

 これを知っているのは怜を含めた彼等の仲間だけであり、であれば頂点に居る大英雄が知らない筈も無い。今後の彼女の動きを大英雄本人に直接聞かされていたとすれば、然程の不思議は無かった。

 意識を執務机に座る東雲に戻す。彼は意識の幾割かを過去に向け、彼女の狙いを予想しながら目で続きを促している。

 この場の全てを知っているのは彼女だけだ。彼女が話さねば何も進むことはない。

 

「具体的に言えば、目的の物はそこを抜けた海底にある」


「海底? そんな場所に何かあったか……」


「解らんだろうさ。 意図的にあそこは危険地帯にしてある」


 彼女の語る生産施設は、生産装置のある施設ではない。もっと古い、それこそ生産装置が無かったベルトコンベアを用いた工場だ。

 内部には嘗ての人類の技術力では再現不可能な物も幾つか存在するものの、大部分は再現可能な代物ばかりだった。再現が出来ない品物は回収され、今では放置状態でほぼ全ての機械類が稼働していない。

 例えあそこに向かったとて、最早重要な物は無いし動きもしないのだ。そんな場所を、果たして彼女は入り口に設定していた。

 別にこれは未来を予見したものではない。残っているから使おうという、単なる無駄嫌いが決めた結果だ。

 

 回収されていればまた別の案も考えていた。今回はそこが手つかずのままだったから、そのまま使おうとしただけである。

 一応は人除けの札を幾つか用意していたとはいえ、加速度的に人類の技術は向上していた。何時かは彼女の用意した妨害も突破してそこに辿り着くと、ちょっとした期待をしていたものである。その期待は結局のところ無駄に終わったが、これでやっぱり愚かと人類を見下す気は彼女には無い。馬鹿だなぁと呆れるくらいだ。

 その本音を彼女は露にしなかった。俊樹にも見せず、表面上は強気な姿勢のまま彼女は話を進める。


「機械の大部分は経年劣化で使えなくなっているだろうが、海底に続く射出ゲートは単体で稼働出来るように改造してある。 必要な箇所のみを修理すれば、数回は使用に耐え得るだろう」


「射出ゲートの位置は此方でも把握してある。 古い資料ばかりだが、目的地に着くまでに然程時間は掛かるまい」


「そうなるようにしてあるからな。 余計な手間を増やされては此方が堪らない」


 修理を行える者はルリが居る。

 嘗ての技術系担当である彼女が居れば、修理は造作もないだろう。問題があるとすれば、やはり四家の介入があることか。

 

「出来れば修理期間中は邪魔を入れてほしくはない。 あの馬鹿共の相手をするだけ手間が追加されるし、万が一修理不可能な域まで射出ゲートが破壊されれば直接目的地まで行かねばならなくなる――正直、私は地獄だろうと言わせてもらうぞ」


「正規の手段で向かわねば罠がある、ということか。 それも貴殿ですら手古摺る程の」


「ああ。 死の危険性は薄いが、ロックの解除が尋常ではない難易度だ。 あれをするくらいなら世界中のヴァーテックス支部のシステムをダウンさせる方が楽だな」


「……さらっと冗談にもならないことを言うのは止めてくれ。 兎も角、そこにある物で管理が可能になるということだな」


 そう思ってくれて構わない。

 女帝の言葉に東雲は息を吐く。溜息に近い色を含んでいるが、彼個人としては小休止程度だ。怜から与えられる情報の重大さは既に解り切っている。

 五百年は長い。よく創作物で数千年単位の時間経過が出るが、本来数百年も唖然としてしまう程の長さを持っている。

 人間の一生は儚いとされる。百年も生きれる人間は稀で、長生きをしても八十年か九十年が一般的だ。

 百年にも満たない時間しか生きれない人類にとって、知らない未来は未知である。

 その未知に何かを託す人間は稀だ。基本的には、人は死ぬその刹那に終わりを知ることに費やす。

 

「良いだろう。 此方も放棄された施設を悪事に使われては堪ったものではない。 潜水装備を施したARと重装備部隊を三つ派遣する」


「創炎使用者として生産装置そのものを操作する権限は奪ったが、創炎自体は未だ残っている。 ARが奪取されることは想定しておけ」


「奪われそうになれば最悪自爆させる。 出来れば彼等を巻き込む形で自爆するのが最良だな」


「兵の脱出は?」


「問題は無い。 脱出が必要となる場面は多いからな」


 話が解ればやるべきことは自然と浮かぶ。

 放棄された施設に俊樹達が向かうことは簡単に敵側が察するだろう。数多くの企業と繋がりを持つ者達であれば、監視カメラを用いて此方側を捕捉することも容易い。

 透明化を用いたとて、現代の技術では看破も可能だ。技術の進歩が時に邪魔をすると、怜も理解はしている。

 あの土地に何かあると察するのは間違いない。それが自分達の現状を更に追い込むと考え、全力で抗ってくるのは確定だ。

 この戦いの勝利条件は、相手に奪われる前に海底に存在する怜が隠しておいた物を手に入れること。

 

「で、物を手に入れたとして。 それはどういう機能を有している?」


「――端的に言えば、生産装置と同等の機能を有する船だ」


「船? それは、潜水艦のようなものか?」


「いいや、いいや。 お前もよく知っていると思うぞ。 何度も何度も映像で見た筈だ」


「映像で見た……いや、待て。 まさか」


 ヴァーテックスには一般からは隠された極秘資料が多くある。

 その中でも五百年前の兵器類に関する映像や紙面を保持し、それを見れる人間は余程高位の人間だけだ。

 そして、彼は元帥という日本本部の頂点に君臨している。彼を縛るシステム的な権限は皆無であり、だからこそ怜の言葉の真意に辿り着くことが出来るのだ。

 しかし、理解はしても信じられるものではない。声は震え、他と同様に席に座っている悟も何があるのかと思考を回す。

 過去の大英雄達にあって、今の彼等には存在しない船。普通の船でないのは解っているし、隠したというくらいなら嘗ては大事にしていたのだろう。


 考えて、考えて、思考の片隅に置かれた記憶に指が引っ掛かる。

 巨大な鈍色の船体。複数の主砲が付いた、現代の船と比較しても馬鹿げた体躯。古びた映像が見せた船内には、数体しか格納出来ない今よりずっと大きなロボット達が居た。

 嘗て幼い時分に見た僅かな映像。悟の祖父にあたる人物が趣味だと言って本来見せてくれない当主だけの映像を、悟に見せてくれた。

 解る、分かる、判る。自分にはそれが何かが解る。解るから、それが目の前に現れるかもしれない事実に眩暈がしそうになる。

 これは夢か幻か。夢であるならば覚めてくれないでおくれ。俺は一生、その夢に浸っていたい。


「確かに件の船は捜索しても発見されることはなかった。 あれだけの巨体だというのに、誰の口からも何処にいったのかが出ていない。 一説としては大英雄と貴殿が消えた際、他の者達によって解体されて資源にされたのではないかとされていた」


「それはおかしな話だな?」


「そうだ、おかしな話だ。 あれだけの物体を解体するなら、当然それに関する資料なり映像なりが残されている筈。 貴殿の仲間達は恐ろしいまでに様々な映像を残したからな」


 この時代に彼等の船は無い。

 あれば最重要文化財として何を賭しても残し続けた。それこそが、彼等の権威を一番に象徴する存在なのだから。

 三強としての強さ、組織としての経済力、そして彼等の国土を象徴する船。

 この三つがあるから彼等は今も最強の集団と言われている。このどれかが欠けていれば、満場一致の現在にケチが付いていたかもしれない。

 そして、それがあるのだ。今この時代に、確かな形として。


「解体された事実はない。 隠した時は透明化を施したし、そもそも映像に残るようにはしなかった」


「あるのか、本当に?」


 悟が抱いた興奮を、東雲も感じた。胸から湧き出るものの正体は――ロマンだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ