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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【七十八点】大戦争の足音

 一日が経過した。

 俊樹達が身体を休めている間、ホテルに訪問者が訪れることも端末に連絡が入ることもなく、いっそ異常な程に静かな時間を過ごすことになった。

 料理については直接個室に運ばれ、怜が毒のチェックをしてから二人で暴飲暴食に励む。俊樹は出て来た食事を碌に味も確かめずに食べ、ホテルの料理人達はフルで稼働しながら悲鳴を上げていたそうな。

 一日も過ぎれば熱も引き、自然と身体から激痛も引いた。早朝に身体を捻ったり軽く跳ねたりもして正常であることを確認し、その姿を見た怜は首を縦に振って傍目からも問題無いと送る。

 その間にオームが帰ってくることはなかった。仲間を集める為に近くの生産装置に接触を図っているとのことだが、流石に一日では上手くはいかないのだろう。


「オームとの連絡回線は繋がっている。 僕達は先に帰国して君の父親を守るとしよう」


「それは賛成だけど、支部の方は承諾してくれるのか?」


「元々僕達の目的は達成されている。 彼等も今後荒れるだろう支部に君を置いておきたくはないだろうし、帰るのを許してくれるだろうさ」


 支部に連絡するには端末による通信以外に選択肢はない。

 怜は俊樹の端末を利用して、通常回線にシステムを介入させて支部の特殊回線に接続する。これは本来実行不可能な技であるが、怜の持つ星に対するあらゆるシステム権限を用いて強引に行った。

 繋げた先は支部長室に備え付けられている通信端末。音であれメッセージであれ、仕事用の端末であれば気付かない道理は無い。

 そして、相手は怜の望み通りに端末の通話を繋げた。番号が登録されていないので、相手側は何も声を発さずに無駄な警戒心で怜達の言葉を待った。


「そう警戒するな、私だよ」


『……驚きました。 番号を伝えた覚えはなかったのですが』


「なに、ちょっとした小技さ。 誰でも出来る訳ではないがな」


『そうでなければセキュリティの意味がありませんよ。 ――それで、一体どのような御用件でしょうか』


 ハジュンは怜の声を聞いて途端に声音を穏やかなものに変えた。

 変声機の線を考えないのかとも思えるが、大事な支部であればその程度の備えはしているだろう。今頃は自動で位置を探り、彼が最初に語った通りのホテルを借りていることを解る筈だ。

 同時にリアルタイムで音声解析も施され、今の所は変化していると判定は出ていない。

 怜は一先ずこの国から離れることを端的に伝えた。敵の動向は定かではないが、当初の目的が達成されていることを伝えるとハジュンも同意を示す。

 この国に態々留まる理由は無い。言外の彼女の言葉に、ハジュンもまたそれが良いだろうと言葉を返す。


『これからこの国は不安定な状況に入ります。 以前の状態にまで戻したい身としては、なるべく早い内に皆様方には帰国してもらった方が良いでしょう』


「では、早速適当な便で戻る。 此方は暫く協力出来ないと考えてくれ」


『本家に近付くのですから当然でしょう。 それに、我々の国の問題は自国民で解決するべきです』


「……感謝する」


『いえ。 支払いはそちらのカードをそのまま使ってください。 日本に着くと着かないに関わらず、三日後には使用が不可能になります。 お手数ですが、カードは破壊していただけると幸いです』


「了解した。 では、これで一時的にさらばだ」


 通話を切る。投げ渡された端末を俊樹は操作し、即座に六時間後の日本行きの便を予約した。

 こういった行動は手早い方が良い。出来れば荷物の回収をしておきたかったが、詰め込んだ物は最低限の生活用品ばかりだ。捨てられたとしても問題は無い。

 怜と情報を共有し、空港までに掛かる時間を計算してその間に情報収集に勤しむ。

 敵の動向を直接掴むことは出来ないが、異常は事件や噂という形でSNSで流出し易い。

 中国語は直接翻訳で、日本はそのまま。

 なるだけ東京に近い事件や、あるいは中国支部付近の事件を探していく。そうして解るのは、微妙に散見される行方不明者の捜索願だ。


 まだたった一日ではあるも、意識しなければ気付かないだろうレベルで行方不明者の捜索願いが増えている。投稿している者は多くが東京から離れているものの、近い県で突如として消えたと発言していた。

 これがただ個人の都合で消えたのか、組織ぐるみで行われたのか。組織ぐるみで行われたとして、その背後に彼等は居るのか。

 中国支部付近では特段何かが起きている気配は無い。先日の戦闘に関する国民の不安の声があるだけだ。

 

「ホテルは五時間後に抜けるとして、中国内であれば襲撃の確率は低いみたいだね」


「やっぱり捨ててるからか、どうにも日本に集中しているみたいだ。 この分だと、此方の予想は恐らく」


「そうだね。 可能性としては高くなった」


 行方不明者の続出。考えられるのは、戦力の増強よりも情報の入手だろう。

 俊樹に関係するだろう人間を探し、なるべく覚られない形で情報を手にしたいのだ。仮に覚られてしまった場合は、関係者を諸共に行方不明者にする。

 これを彼等と関係のある多数の企業がバックアップしていたとすれば、政府が証拠を握るのは難しくなる。

 日本に戻って来た際には一波乱あると想定しておくべきだろう。

 ならば俊樹は体力の温存に努めるべきだ。情報収集に励みつつ、五時間後に二人はチェックアウトを済ませて着の身着のままホテルを出た。


 街の様子は特段おかしい所はない。

 日本の首都と同様に、様々な店や人間が複雑に絡み合って混在している。此処には平穏も争いも同時に存在していて、社会の闇も感じてしまう。

 大きな闇の前では四家の一人や二人程度、容易く隠れる。暗殺者が街中で目標を殺害するのは、多くの人間が放つ雰囲気に存在を紛れさせることが出来るからだろう。

 怜と俊樹はその中を若干の軽快を滲ませながら進む。

 話しかけるなと意図的に雰囲気に混ぜ込み、如何に注目を集めようとも接触させない程度の圧で二人は進んだ。

 

 空港までは徒歩で時間が掛かる。

 手続きも含めれば最大でも一時間は避けられない。不思議に思われない程度に早足で歩き、行きに見た姿と同じ空港が見えてきた段階で一先ずの安堵を彼は覚えた。

 襲われる気配は現時点ではない。目が目立つということで創炎も発動していないので、咄嗟の動きは常人と一緒だ。

 手続きをするのは主に俊樹になっている。戸籍関係で少しでも怪しまれることを避ける為、彼は受付係の人間の指示を聞きながら無事に受付を終わらせた。

 残り時間は約十分。荷物の無い彼等は待つしかなく、なるだけ壁際のソファに背を預けて席に座る。


「ルリからは依然として連絡は無いよ。 あの娘なら何か問題が発生しても必ず連絡は入れてくれる。 少なくとも、君の親の安全は未だ保たれていると見て良い」


「相手があの人を出し抜く可能性は?」


「無いとは言わないけど、まぁ無理だろうね」


「どうしてだよ。 あの人、別に教科書に載っているような人じゃないだろ。 当時の人達が超人揃いなのは知ってるけど、四家だって超人だ。 数で押されないとも限らない」


 俊樹の推測は正しい。

 ルリという人物の姿は実は映像に残されていない。政府やヴァーテックス秘蔵の映像の中には居るのかもしれないが、そもそも広く認知されていない人物を強者と認識するのは難しい。

 強いには強いのだろう。それでも、怜や大英雄の如き無双者ではない。

 とすれば、数で抑え込むことも出来てしまうのではないか。彼の懸念はまったくその通りで、されど怜はくすりと笑みを浮かべた。

 成程、確かにその通り。相手は曲がりなりにも大英雄の炎で強くなっているのだ。そんな連中相手にただの超人一人が状況を覆すことが出来るのか。

 

「――断言してあげるよ」


 彼女は告げる。優しく、生徒が教師に教えるように。


「彼女は強いぜ? 舐めたら皆殺しになるくらいにはね」


 本気の目で彼女は俊樹を見やる。宿る冷気を彼は間近で視認して、背筋に薄ら寒いモノが通り過ぎていった。

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