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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【七十五点】屑にも生きる権利がある

「どういうことだよ……! あんな真似をするだなんて聞いてないぞ!?」


「私だって同じですよ! ……兎に角今は逃げて、本家に報告する時間を取らないとッ」


 駆ける、駆ける、ただ駆ける。

 建物の屋根を抜け、森林を強引に突破し、低い山を駆け抜け、二名の逃走者は異次元とも取れる速度で首都からの逃走に成功していた。

 早乙女・美鈴、渡辺・真琴。この二人は本日支部に向かい、そのまま咲の権限を用いて内部に入ろうとしていた。

 四家は半ば苗字が身分証明になっていたので、兵士達に名乗ればそのだけで勝手に畏まってくれる。

 中には四家相手でも子供に見下される覚えはないと礼儀を無視する者も居たが、それについては二人も承知の上だった。

 何よりも優先されるべきは俊樹達の動向だ。彼等の動きが、そのまま後の社会に変化になってしまう。


 けれど、咲は予想よりも過激な真似に出た。

 情報を入手する為と言いながら、政府軍を焚き付けてヴァーテックスと争いを引き起こしたのだ。

 二人はその流れに巻き込まれ、政府側に勝手に属された。開始早々に咲が首謀者だと断定されていたので、その余波を受けた形になる。

 二人は襲われる中、逃げ切る為に死んだ政府軍の制服を拝借して外を目指した。

 肉体性能なら政府軍の誰にも負けはしない。ARの追跡を肉体性能と建物を影で逃げ切り、二人は田舎に近い辺りで漸く足を落ち着けた。

 

「はぁ、はぁ……やっと振り切ったか」


「多分ですが……はぁ」


 荒い息を吐きつつ、二人は制服の胸元を緩める。

 夏であれば馬鹿みたいな熱量に襲われていたが、夏も過ぎたお蔭で身体の暑さも徐々に抜けていく。 

 制服に入れたままのポケットを漁り、各々は揃って携帯を取り出す。

 電波は圏外にはなっていなかった。辛うじてアンテナが一本立っている程度だが、通話が出来るのであれば今は有難い限りである。

 そのまま早急に本家に連絡を取り、最初に繋がったのは渡辺の家だった。


『俺だ。 どうかしたか、真琴』


「厄介な事が起きた。 端的に言えば、早乙女が政府軍を焚き付けてヴァーテックスと一戦仕掛けやがった」


『……詳しく話せ』


 通話に出た渡辺家の当主は、酷く理知的な雰囲気のある男性の声の持ち主だ。

 突然の報告に慌てるでもなく、彼は真琴から全ての情報の提供を命令した。真琴当人としても態々隠し立てするようなことでもない。解る範囲で全てを伝え、本家からの次の動きを彼は待った。

 暫くして、次に早乙女家の当主に美鈴は通話を繋げることに成功した。

 途中で何名かの余計な確認があったものの、それらは早乙女家であれば自然なことだ。彼女の家は外の人間の対応から内の人間の対応まで、全てを一本の電話で行っている。

 勿論極秘回線もあるにはあるが、やはりそれらは緊急時に使われるものだ。

 よって、早乙女家の当主達と会話をするには少々の時間が必要となる。


『美鈴か。 咲についてだね?』


「……はい。 御当主様でしたら、何か御存じかと」


 通話を繋げた直後、女当主は美鈴の目的を一発で看破した。

 中国に行かせることを決めたのは彼女だ。必然、咲についても多くを知っていて不思議ではない。

 いきなりの行動について、美鈴は全てを知っておかねばならなかった。

 特に早乙女が起こした不祥事だ。遠くない内に中国政府から日本政府に伝えられ、申し開きをさせられる筈。

 罰則があるのは避けられまい。如何に特別でも、小競り合いを起こした首謀者となれば犯罪者の誹りは免れないだろう。

 暫く、二人の間に言葉は無かった。美鈴はただ待ち、当主からの言葉を待つ。

 当主が思い描く今後を知らねば、美鈴も動き出すことは出来ない。どうしたって彼女は家に縛られているが故に。


『この騒ぎが起きる前に連絡が来たんだよ、咲からね』


「戦いの承諾ですか」


『簡単に言えばそうなるけど、彼女がそうした理由を私は理解出来なかった。 理解するだけの材料も少なかったしな』


「理解……」


『咲が語るに、桜・俊樹には守る必要性があるのか。 あれはもう、単体で何処までも強くなることが出来る異常そのものではないかって話だ。 私達の努力は一切の実を結ばず、このまま屠殺場に送られる豚が如くに殺される』


 咲のそれは不安だ。協力する、協力すると何度も上から目線で早乙女は彼に接したが、そもそも彼が敗北した回数は現時点では零だ。

 正確に言えば観測していない戦いではどうかは解らないものの、結果だけで見れば死んだのは全て四家側になる。

 四家が最強だという話は、政治家やヴァーテックスの上層部であれば誰もが知っている。抑止力として活躍するARが居ても、簡単に屠ることは難しいと誰しもが解っていた。

 けれど、その最強の一族とも呼ぶべき集団を俊樹は倒している。

 例え未熟な者であったとしても、容赦無く彼は殺してみせた。元は一般人であったにも関わらず、彼は殺すことに一切の躊躇を覚えなかったのだ。


 恐るべきは精神的強度。

 邪魔する者は総じて死ね。その意思は、間違いなく四家の持つものに限りなく近い。

 忘れるなかれ。お前が何をしようとも、俺が必ず上回る。

 恐れるべきは天性の心の強さだ。あれがある限り、肉体的強度など何の意味も価値も持ち得ない。

 

『私は咲が戦いを起こすことを認めた。 認めた上で、切り捨てることも当人に伝えてある。 首謀者として政府から糾弾された場合、彼女は別のシナリオの下処理される』


「何時もの切り捨てですか。 私には一度の話も無く」


『お前を利用したかったしな。 逃げる四家の人間が居れば、彼等は間違いなく報告役だと勘違いを起こす。 此度の戦いを四家も見ていて、けれど手を出すことはしなかった』


 今回の咲の行動は露骨だ。普段の四家らしくなく、正面から堂々と自分の軍勢を向かわせるなど存在を露見させるようなものだ。

 さてそうなれば、彼等はどんな勘違いを引き起こすだろう。これをそのまま早乙女家の行動と取るか、彼女個人の独断と取るか。

 責められはする。それに対して早乙女の当主は正式に謝罪する必要はあるが、逆に彼女の独断を身内として処罰することで表面上は無関係を装うことが出来る。

 無論、中国政府もヴァーテックスも無関係だとは考えないだろう。何らかの裏があると考え、されど証拠が出なければ何も言えない。

 世の中は常に何かに対する証明が必要だ。それが無い限り、正面から弾劾することは難しい。

 

 早乙女は戦力を消失させることになるが、元より咲は海外に行っている。日本のいざこざに巻き込まれる可能性は低く、呼び戻すのは生産装置の不安定さからまず無理だろうと考えていた。

 居なくなっても構わない。どうせあちらの権限は彼等が握るのだろうから、ならば使える札を有効活用するのみだ。

 咲の暴走は当主にとって都合が良かった。彼女の意思を応援したように見せる為に敢えて早乙女の家宝を使う許可を下したが、これの所持権は未だ本家が持っている。

 紛失すれば事ではあるものの、流石に壊れることはないだろう。あれは如何なる暴力でも壊れない特殊な材質で出来ている。

 

「……これを私が彼に話すことは考えなかったのですか」


『お前が彼についてを話してくれたからこうして話したのだ。 桜・俊樹はお前のあらゆる発言を信用しない』


「ッ、!」


『お前が語り、咲が語り、この結果を知り、私は解ったよ。 あれはもう一つの勢力として見るべきだと』


 政府軍とヴァーテックスの戦いは、見事なまでに政府軍の負けに終わった。

 俊樹達の状況がどうなっているかは定かではないものの、先ず生きていると見て良い。風は俊樹達に吹き、これが覆される可能性は高くないだろう。

 つまり、僅かな期間をそれが可能になるだけの力を有している。これが俊樹本人の力か傍に居るあの女かは兎も角、一勢力として見るには十分な力だ。

 これから先、単体戦力として彼等を計算することはない。つまり、四家が全力を傾けても不自然ではないことになる。


『四家が荒れているのはあの子が従順ではないからだ。 反抗する理由はあっても、私達には私達なりの理由がある。 それを忘れちゃいけないんだよ』


 誰であっても生きたいと考える。

 誰にも生きる権利はある。

 誰でも生きる理由をその背に負っている。

 どんな屑にも理由があるから、彼女達は足掻くのだ。全ては己の理想の為に。

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