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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【六十四点】繧ェ繝?繝九ャ繧ッ

「目的の場所は外からしか入れないんだ。 中から通じていれば良かったんだけど、防犯上の理由から流石にね」


「日本とやっていることは一緒なんですね」


「まぁ、あれが国際標準ってだけの話だよ。 この上に追加で防備を増やしても良いし、標準を維持しても良い。 ただ、殆どの国は追加で機械なり人なりを導入して層を厚くさせているよ」


 中国支部の建物から出て、足は隣の建物に。

 黒い正方形の建物は日本のものと変わらず、ハジュンが説明を入れた。日本では四家が政府に要請してヴァーテックスの部隊を配置しているが、中国の場合はヴァーテックス以外にも政府所属の軍人も居る。

 見ていると解るが、生産装置の建物の左右にきっちり別れる形で二つの軍隊は存在していた。

 左は黒いヴァーテックスの部隊。右は砂漠色の政府部隊。

 双方は互いに目を向けず、半ば無視をする形で存在していた。雰囲気だけでも険悪なのは間違いなく、逆にこの状況で発砲事件の一つも起きないのかと内心考えてしまう。


「仲が悪い同士を纏めているんですか?」


「政府からの提案でね。 僕等としても中国全土を警備するのに人員を割きたいから、重大規則を複数設けて配置しているんだ」


 ハジュンは左側のヴァーテックスの兵と顔を合わせ、挨拶を送り合いながら通り抜ける。

 右側の砂漠色の兵は無視を決め込んだ。挨拶一つもしない様は敬意の欠片も感じることは出来ず、されど誰も指摘して指導しない。

 これもまた一つの対処法なのだろう。他組織の人間であれ、それが立場上目上であれば形だけでも敬意を払うべきだが、此処ではそうではない。

 全ては本人がするかどうか。流石に中国全ての企業がそうであるとは言わないが、此処ではそれが常識となっているのだろう。

 互いに不可侵を敷き、その上で共通の目的にだけ意識を向ける。

 効率的ではあるが、寒々しい現実風景をこの場の三人は体験した。

 

 連絡をしていた通り、強化ガラスの自動ドアを抜けて廊下を歩く。

 最初は破壊された建物の中を進んだお蔭で生産装置まで最短距離を走れたが、今回は正式順路を歩いているので時間が掛かる。

 それにセキュリティも強い。兵士は等間隔で配置され、更には巡回する者達まで見て取れた。

 そこでもやはり左はヴァーテックスで右は政府を貫き、いっそ機械人形にも見える。

 

「なんか、気持ち悪いですね」


「気持ちは解るよ。 感情を極力排除したシステムを構築して、なるだけ人間的ではない活動を第一とした。 これは最初に中国内で規定されたんだけど、お蔭で人気に関しては最低も最低。 直ぐ傍に死の危険があるから不人気なんじゃなくて、人間性が無さ過ぎるから不人気なんだ。 僕も此処は好きではないね」


 肩を竦めて答えてみせるハジュンは声を潜めていた。

 それでも周りの兵には聞こえてしまいそうなものだが、周りは一切の反応を示さずに事務的な行動をするに留めている。

 これが人間性のある職場であれば首を縦に振るくらいはしていただろう。微動だにしない素振りに、人間味と呼ぶべきものは存在しなかった。

 複数のセキュリティチェックを抜け、閉ざされたドアを通り、エレベーターに乗り込む。

 機材搬入も兼ねた巨大なエレベーターは三人程度軽々と受け入れ、そのままゆっくりと下を目指して直進する。

 

「で、この下にある最後のセキュリティチェックを抜けると、いよいよ彼女に会うことになる。 会話の準備は大丈夫かい?」


「会ってみないことにはなんとも……。 ですが、話を聞かない人との会話は経験があるので」


「それは良かった。 僕もそういう人間を何人も見ているから、変に度胸がついたよ。 ミリくらいだけどね?」


「――彼女であれば、いきなり攻撃を仕掛けはしないさ。 お前達も直接は被害を受けていないんだろう?」


 二人の軽快な会話に、これまで沈黙を続けていた怜が漸く口を開ける。

 それに対し、ハジュンは勿論ですと丁寧に返した。


「彼女が此方に攻撃を仕掛けていた場合、支部は消滅していたでしょう。 我々も全力で戦いはしたでしょうが、勝てるとは露程に思ってはいません」


「賢明な判断だ。 彼女が本来の力を取り戻していたとするなら、力勝負に持ち込むのは愚策だろう」


 エレベーターが地下二十階を示し、同時に停止した。

 開かれた先に待っていたのは、一切の人気が無い空間。真っ直ぐ進んだ先には指紋認証用のパネルと声紋認証用の小型マイクが設置されている。

 扉は重厚な金属製だった。人の手で作るのは困難を極めるような、五mの鈍色の扉を前に三人は足を止める。

 そしてハジュンはそっと前に出てパネルに手を乗せ――――る前に金属の扉は重々しい音を立てながら勝手に開き始めた。

 突然の動作にハジュンは目を見開く、同様に俊樹も僅かに驚きながら数歩下がった。

 この中で何も反応を示さなかったのは怜だけ。彼女だけは、開かれた先に居るであろう存在に口を緩めた。

 

「久しいな。 急く気持ちは解らんでもないが、いきなり開けては驚かれるぞ?」


『――御前に対し、此方が開けぬなど無礼でしかありません』


 中には日本と変わらぬ生産装置が置かれていた。

 一台の操作パネルに、複数の機械が結合して出来た巨大な装置。空間は広く、半円球の形になった場所は戦闘にも適している。

 そして、パネルの前。巨大な白の防護服に身を包んだ人物が、ノイズの混ざった女声を発しながら窮屈そうに片膝を付いて頭を垂れていた。

 静かな雰囲気の人物は、およそ敵意や殺意と言うべきものがない。ただ現れた怜に対し、心底からの忠誠を露にしている。

 その空間に怜が先ず進み、俊樹とハジュンは一度顔を見合わせてから横一列にゆっくりと付いて行った。


「不備はあるか?」


『何も。 記憶の破損は無く、肉体も構築を済ませております。 やろうとすれば今からでも此処を制圧出来ますが……』


「その必要は無い。 私達の時代は当の昔に終わった」


『……』


 断じる怜に、AIは沈黙で返す。

 それが肯定であることは怜には解っていた。俊樹達は知らないが、彼女は目前の人物の性格をよく知っている。

 大英雄と怜の二名に忠誠を誓い、かといって過度に盲信することはなかった。

 理性的で、ある種時代錯誤な騎士を連想させる人物だったのだ。だからこそ彼女は暴れることを是とせず、状況の変化を待った。

 この状況を望んでいたのはAI側だ。怜とて望んではいたが、当初の目的と比較すれば一段落ちる。

 

「さて。 積もる話はあるが、それよりも先に用事を済ませておきたい。 世情は何処まで知っている?」


『おおよそは。 貴方様の後ろに居る青年が件の子孫様ですか?』


「ああ。 だが様付けは止めておけ。 確かにアイツと私の血を継いではいるが、同一視する必要は無い」


『無論でございます。 人となりは、やはり対話を重ねてこそ見えるものですから』


 片膝を付いていた防護服の人物が立ち上がる。

 そうして初めて、彼女が成人の男性よりも遥かに大きいことが解った。目測で測る限り、およそ三mには達するのではないだろうか。

 重々しい足音を鳴らし、彼女は俊樹へと一歩を進ませる。巨大な物体が接近する事に俊樹は身構え、思わず創炎を瞳に宿す。

 相手は初見だ。先程の短い会話で決して暴力的な存在ではないと理解は出来るが、かといってそれで安心出来る訳ではない。

 

『ふむ、怖がらせてしまうか。 ならこれでどうだろう』


 頭を覆う部分に手を添える。空気の抜ける音がして、首から上が露になった。

 彼女の素顔。晒された相貌に俊樹もハジュンも息を呑む。

 女声であることから女性であるとは思っていた。思ってはいたが、まさかこんなにも――――美しいとは。

 背中にまで伸びる白髪。俊樹のような赤い眼。顔は幼さを宿し、若々しさに溢れている。

 

『自己紹介をしよう。 私の名前は繧ェ繝?繝九ャ繧ッ。 ……繝エ繧ァ繝ォ繧オ繧ケ所属の超能力者、だった存在だ』


 彼女の自己紹介は、残念なことに聞き覚えのある極大なノイズに遮られた。

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