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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【六十二点】納得と理解は違うと、誰しも知っている

 決定は下された。

 渡辺・咲は先に準備に向かわされ、残り二名は用意が終わるのを待つ間に俊樹の隠していた情報を聞くことになる。

 そして、全てを聞いたハジュンは天井を見上げた。その目は何処か遠くを見ていて、現実逃避をしているのは一目瞭然だ。

 聞かなければよかった。その気持ちは強く、胸の辺りは徐々に痛みを訴え出す。

 よろよろと断りを入れてハジュンは自身の執務机に向かい、引き出しから纏めて放り込まれていた上等な胃薬を取り出した。

 机に置きっぱなしになっていた中身の残るペットボトルの蓋を開け、薬を口に入れると同時に一気に全てを飲み干す。

 それである程度満足したのか、胸に手を当てながら緩慢とした動作で再度ソファに座り込んだ。

 

「その情報、実は嘘でしたってことはないですよね?」


「残念ですが……」


「あー、そうですか。 本当に聞かなければよかったなぁ」


 大英雄の存命。

 加え、件の存在は今も俊樹の中に居る。その人物は俊樹に手を貸し、怜もまた会話に成功しているとのこと。

 上層の人間がこれを聞けば、一体どんな反応が返ってくるだろうか。

 ハジュンは暫く推測を立ててみるが、そのどれもが悪い未来にしか通じない。よしんば良い未来があるとして、そこには多くの不確定要素が混ざっていた。

 今の社会は戦争をするほどに余裕が無い訳ではないが、裕福に過ごせる者の席は相変わらず限定されている。

 テレビで特集される金持ちの生活に一定の需要があるように、貧富の差は縮まりはしても絶対に消えはしなかった。

 

 誰だって生きるのに困らない生活を送りたいと思っている。

 そしてその時、大英雄という手札は切り札も切り札になるだろう。手中に収めることが出来れば、武力的な死については大部分が回避出来る。

 ヴァーテックス内の権力闘争は国によって様相が異なっているが、中国においては非常に激しい。

 今はハジュンが座っているものの、彼が座ることが出来ているのは権力闘争の果てに有力候補者が全て死んだか仕事が出来ない状態になったから。

 残された能力の高い者の中で権力に興味の無い彼が半ば強引に決められ、辞退をしようと画策しても封じられてしまった。

 

 だが、その所為でハジュンを敵視する者も居る。

 中国支部では常に誰しもが上位を目指す。それは成り上がりを目的とした者達が酷く多く、誰しもが過去の貧しい自分に戻りたくないと思っているからだ。

 人は上の生活を知れば知る程、下の生活が出来なくなる。仮に出来ていたとしても、その生活は長くは続かないものだ。

 欲望を満たせば更なる欲望を求め、それが過度な上昇志向に通じてしまう。そこに能力の良し悪しは関係無く、自身が頂点に立った先の未来など考えもしない。


「ちなみにですが、私が件の御方と話をすることは可能ですか?」


「本人に聞いてみなければなんとも。 ですが、恐らくやろうと思えば表に出てくることは出来るのではないかと思います」


「いや、出ようとすれば出て来れるだろうな。 創炎と繋がっている彼なら、それを使って俊樹の身体を乗っ取れるだろう」


「……またなんとも規格外な」


 素直な感想が口から漏れ、俊樹も深く頷いた。

 身体が無くとも生きているし、内の潜めば能力経由で乗っ取れる。元々の能力も反則級に強く、素の身体能力も常人離れしていた。

 過去の情報が主なものであるが、怜に関する情報を聞く限りでは嘘とはまるで思えない。寧ろ彼女が出来たのだから彼に出来ない道理は無いだろうと、そんな確信がハジュンの中にあった。

 内側から出て来れないのなら話は違ったが、自主的に出ることが可能であれば懸念事項に挙げるべき問題だ。同時に、それがあるからこそ今回の件は無事に終わらせることが出来る。

 

 中国の管理AIは大英雄に会うことを望んだ。

 その望みはきっと間接的な出会いでは満たされまい。彼女達が居なくなった五百年間をAI達は眠りながら過ごしたが、それでも想いの強さは重く深い。

 怜がそうであるように、他の面々とて彼を大なり小なり愛していた。そんな彼女達が、本物に会いたくないと思わない筈がない。

 

「予想外な話を聞けましたが、お蔭で現実的な突破口も出来ました。 施設に入り次第、私達を除いた全ての人間を退室させて会うことにしましょう」


「お気遣いありがとうございます」


「いえ、これは気遣いではありません。 現実的に考えて、誰かに知られることが一番恐ろしい事態を招きますからね」


 俊樹が頭を下げる。ハジュンは緩やかな笑みを浮かべながら頭を上げさせ、これからの予定を組み上げた。

 事態を無事に収束させることが出来るのなら、それに越したことはない。この情報を上手く使えばハジュン自身の周りを固めることも可能だろうが、本人はそれで目の前の彼が不幸になることを良しとしなかった。

 そもそも彼がハジュンの想像通りに動かないとも思っていて、必ず怜達による報復が訪れる。

 取り扱い厳禁の核のようなものだ。使えば勝利は確約出来るが、後の放射能で全てが台無しになる。

 味方として居てもらう為には利用しないのが最大の吉。怜も無機質な笑みを向け、それで良いのだとハジュンのように緩く頷いた。


 ――執務机から甲高い音が一瞬鳴る。

 警報のような音に、しかしハジュンは終わりましたかと呟く。

 立ち上がり、執務机の上に設置された室内通信機のスイッチを押す。有線で接続された通信機にはノイズは少なく、出て来た声は先程までの咲のものだ。


『ただいま準備を終えました』


「ありがとうございます。 我々が入室次第、施設管理をしている方達を一時的に休憩にしてください。 時間は一時間程度で」


『それは私もでしょうか?』


「はい。 この件は最重要機密として扱いますので、他言無用をお願いしますよ」


『……畏まりました』


 通信が切れる。

 ハジュンは溜息を吐き、次いで何処かへと通信を繋げた。


『お疲れ様です』


「お疲れ様。 緊急なんだけど、第一か第二部隊を動かすことは出来る?」


『両部隊は常に稼働可能です。 ですが、全員ではありません。 現在の戦力は約六割となります』


「十分だよ。 では、仕事を一つ頼みたい」


『はッ』


 ハジュンは一度言葉を切る。

 何を言うべきか、あるいはそもそも言うべきなのか。その迷いを抱きながらも、しかしやらねばならないだろうと口を開けた。

 第一と第二部隊は戦力として最精鋭。中国内でも有数の実力者ばかりで構成され、その分全体の人数も決して多いとは言えない。

 そして彼等は、戦って勝利をもぎ取ることを何よりも重要視している。それこそ、成り上がりを目論む者達のように。

 強さだけで言えば人類最高の頂に届くかもしれない。故に、化け物と戦わせるには十分だった。


「今より十分後、生産装置施設内の人間を全て休憩として一時間程外に出します。 その際、無断で侵入する者や機器を発見次第捕縛及び破壊をしてください」


『我々向きの仕事ですな。 了解致しました』


「期限は我々が出て来るまで。 事が成功した場合、君達にはボーナスを約束するよ」


『はッ! では早速準備に取り掛かります!!』


 ハジュンの命令に相手側は意気揚々と答えてみせた。 

 反対に、俊樹の中では嫌な予感が湧き上がっていく。先程までの通話で、咲は随分と不満そうな雰囲気を滲ませていた。 

 あれで何も権限の無い人間か、まだまだ年若い娘であれば拗ねているのだと微笑ましく見ることも出来たが、あの立場でそのような態度をしては警戒するのも当然というもの。

 何か仕掛けてくる可能性がある。物理的にか、電子的にか、もしくは両方か。

 

 創炎は使うだろう。自身の家か他家の人間を最速で派遣させ、情報の抜き出しを狙うくらいは考えそうだ。

 再度通信が切れ、これからを想像してハジュンは疲れた顔を浮かべた。


「ま、備えって大事だよね」


「お疲れ様です」


 俊樹は静かに、両手を重ねて祈ったのだった。

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