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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【五十二点】単位も大事、仕事も大事

「虫、虫か……」

 

 東雲は怜の言わんとすることを解っている。

 彼等を人間扱いすることは、成程東雲本人にも難しい。彼等は人の道を自分から外れる外道であり、快楽を満たす為であれば容赦無く他者を潰す。

 そのくせ勝負となれば真剣になるのだから、彼等の基準が狂っているのは言うまでもない。

 人身売買、児童虐待、越権行為。

 如何に特別であっても、今の彼等を同類として見ることは出来ない。それは彼等に関わる全ての人間が一緒で、故に刺激しない振舞いを絶対とした。

 ある意味、これは恐怖に怯えているとも取れる。暴れた彼等がどんな被害を出すかも解らないのだから、自分が下手に出て抑えるしかない。

 ヴァーテックスが彼等に従うのもそんな理由がある。無用な戦いを発生させたくないからこそ、東雲はこれまで苦渋を飲んだ。


「俊樹。 お前はあの者達を人間のように見るか?」


「――いや、それはないな」


 怜は言葉の矢印を俊樹に向ける。

 問い掛けは実に簡素で、彼は少し考えた後に否と口にした。彼等を自分達と同等の存在と思うには、あまりにも道理が剥離している。

 化け物だ。正義の味方や超人と呼ぶには、些かに悪に傾倒し過ぎている。

 

「あんたの前でこういう表現をするのはどうかと思うが、ああいったのを怪獣って言うんじゃないか?」


「怪獣? ……っふ、面白いことを言うな」


 過去の存在に合わせるなら、彼等は被害を多く振り撒く怪獣だ。

 生産装置の恩恵と怪獣が体内で蓄えていたとされる資源も特徴として重なり、俊樹は頭に浮かんだ単語をそのまま口にした。

 怜はその発言に一瞬目を丸くして、その後に小さく笑みを零す。

 成程、成程と何度も呟いてから隣に座る彼の頭を優しく撫でた。


「あれほど彼等は強くはない。 嘗ての怪獣は、その一撃で都市を一瞬で灰燼に変えることも出来ていた。 今の彼等にそこまでの力は無いさ」


「だから、虫と」


「そうだ。 周囲を飛び回るだけの羽虫風情に、一体どんな覚悟が必要となる。 ただ叩いて潰すだけに、お前は一々覚悟するのか?」


 怪獣と比較するなと内心東雲は文句を吐きつつ、しかし彼女が味方として存在しているのならばと考える。

 彼女はこの時代における最強だ。彼女が居る限り、およそ此方側の負けは無い。

 本人の全力は未だ見ていないものの、僅かな力ですら既存の冷却能力を容易く凌駕して周辺環境を変えてみせた。

 彼女にとって、怪獣でもない超人など端役も端役。舞台の上で主役を張るには、どうにも彼等は力不足なのだろう。

 正に鎧袖一触。そもそも創炎を作ったのが彼女なのだから、彼女が四家分の創炎を停止させることも造作もあるまい。

 そうなれば、残るは人間としての基礎能力のみ。であれば、ヴァーテックスの人員でも十分に彼等を打倒することが出来る。いや、簡単にと言えるだろう。

 

「言いたいことは解る。 だが、それでも彼等は人の見た目をしている。 それを殺せば、少なくない精神的負担を背負うことになる。 彼に虐殺の現場を見せることにもなるぞ!」


「……で?」


 羽虫。

 確かにその通り、彼女が道を断ち切れば途端に彼等は力の無い虫となる。

 けれど、それは精神的強者でなければ断じれないことだ。ヴァーテックスの隊員なら殺すことも致し方ないと行動出来るが、まだまだ若い俊樹に虐殺の現場を見せることは十分に有り得る。

 それを見せて、当人が発狂しない保証があるのか。

 東雲は第一に俊樹の負担を考えている。如何に超常的力を手にしても、やはり彼のことが心配でたまらないのだ。

 そんな彼の心配は二人にも伝わっている。これまでの外道達と比較にならない程の善人ぶりに、彼はこのまま頂点に居るべき人間だと定めた。

 

「その程度で壊れるのなら、この子は四家の人間を殺しはしなかったよ。 炎を使いはしても、殺人ではなく火傷に留めていただろうさ」


「だがな……」


「東雲さん」


 二人が論争になった時、俊樹が名前を呼ぶ。

 どうしたと顔をそちらに向ければ、彼の暖かく優し気な顔が見つめていた。そこに精神的負担は見受けられず、何人も殺したにも関わらず発狂の兆候は無い。

 

「俺は自分の道を遮る奴が大嫌いです。 それも過剰に干渉してくるような奴は死ねば良いと何時も思っています。 ――あいつらが死んだとして、俺の心が痛みはしませんよ」


「しかしだな」


「東雲さん。 どだい、連中は潰さなければならないでしょう。 こうしてまごまごしている内に他に被害が出ても良いんですか?」


「…………」


 気にするなと俊樹は語る。

 そも、彼が危惧するような事態は起きない。彼等の血肉で自身の身体が汚れたとて、それは道を切り開いたことを示すだけ。

 自由な明日へ向けて歩けるのなら、何人死んだとて俊樹は許容する。この極端な排除思考があるからこそ、俊樹は発狂することもなく普通を貫いていた。

 今時珍しい子であるのは東雲も理解している。こうもヴァーテックス向けに適した才覚を持っていると、今も精神的にダメージを負っている隊員達が軟弱なのではないかとも一瞬考えてしまう。

 彼は崩れぬ巨塔だ。道を違えず、真っ直ぐ立つ様は他者に安心感を齎す。

 彼は変わらないと言ったのだ――――ならば、先ずはそれを信じるのが大人ではないだろうか。


「はぁ、解った。 今は君の言葉を信じよう。 先に進まなければならないのは事実だからな」


「ええ」


「余計な時間を使わせた。 覚悟を持てと言ったが、それが必要無いのであれば早速向かってほしい場所がある」


 少し遠回りをしたが、東雲はマップの一ヶ所を指差す。

 場所は外国が一つ、中国。未だ世界中から非難を受けることもある大国だ。

 生産装置が誕生してから人々は粗悪な商品を目にする機会が少なくなったが、中国は未だ粗悪品を製作している。

 なるべく少ない材料で同等の品を作ろうとすれば、必然的に削れてしまう訳だ。

 これが国内だけで済めば問題は中国だけで留まっていたが、他国に輸出されてしまったことで粗悪品は世に多く出回ってしまった。

 

「中国は危険な国だ。 昔日よりはマシになったとはいえ、歴史的に非人道的行為を是とする風潮がある。 国際的に批判されてもなお、彼等はそれを自然だと思って他国相手でも執行するのだ。 そんな場所でも、多くの人間が住んでいる国だ。 生産装置を置かない道理は無く、故にそこに住まう四家の人間も温和な性格をしていない」


 粗悪品が出回るのは、輸入側と輸出側が手を結んでいるからだ。

 彼等は証拠を隠しているが、公然の秘密として多くの品々を世に出回らせている。それが結果的に良いことに繋がる訳でもないのに、彼等は金の為に行うのだ。

 この世界は裕福だ。ただ仕事をするだけで、彼等は老後まで無事に過ごせる。

 それでも金を求めるのは、一重に欲に忠実であるからだろう。そして、怜達過去の者達からすれば彼等は総じて敵である。


「怜殿と共に中国に向かい、生産装置の支配と四家の粛清をお願いしたい。 勿論、粛清過程で生かすべきとした者は生かしてくれて構わない。 その時は我々が直接管理をさせてもらう」


「了解しました。 出発は何時頃を?」


「早ければ早い程良いが、君の大学の件もある。 そちらと話を付けるので、来週のこの曜日に向かってもらおう」


「卒業はしたいですからね。 向こうの問題はお願いします」


「ああ。 怜殿もそれで良いか?」


「もとより文句は無いさ。 だが、まぁ、多少暴れても許せよ」


 いよいよ世界中に散らばる装置の回収が始まる。

 立ち塞がる者達を想像し、怜は獰猛に笑ってみせた。その様を見て、多少だぞと東雲は強く念を押した。

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