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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【五十一点】覚悟の決め時

 二人は家に帰り、直ぐに家族と東雲に報告を始めた。

 全員は突然の襲撃に驚きを感じつつ、慌てるのではなく冷静に対策案を練り始める。

 此度の襲撃。それが西条家の正式な身内が行った者であれば、然程問題視すべきものではなかった。

 元より襲われるのは解っていたことであるし、場を整えることを勝手に行うくらいは容易くやってのける。彼等は政治家達にも太いパイプを持っているのだから、秘密裏に閉鎖的場を作り上げることも可能だ。

 問題は、襲撃者が西条家の作り出した異端児であること。

 彼等は元の家に対して深い憎悪を抱き、俊樹の話を聞いて自分達の手で仕留めることを何よりもの信条にしていた。

 復讐は己の手で果たしてこそ。哀れな家族の為に、尊厳を穢された自分の為に、彼等は絶対に諦めることをしない。


 だが、そうであるが故に他の家の襲撃を阻止している。

 構築された壁は薄いは薄いものの、かといって油断出来る類ではないのは事実だ。

 さて、ここで考えるべきは一つ。そのような状況で、西条家は壁を更に減らす真似をさせるだろうか。

 彼等がどのような場所に居るかは定かではないものの、異端児が知っている土地は全て西条家が保有する土地である。

 広大な土地は大部分が山や森ばかり。彼等が時代遅れにも自然を愛し、政府としても管理の行き届かぬ場所であるとして安値で渡されていた。

 

「集まってもらって悪いな」


「いえ、お気になさらず」


 翌週の水曜。

 学業を熟しつつ、俊樹は今回怜との二人だけで本部の客室に向かった。

 受付係からは矢鱈と恐縮された態度を取られ、他の隊員達は鋭い眼光を向けはしても無意味に絡んでくることはない。

 アウェー感は強いが、それは彼等が精鋭だからだ。俊樹も怜も、共に多くの人間を殺してこの場に立っている。

 緘口令が敷かれたことで彼等が殺人を犯したことを知っている人間は少ないが、それでも同僚、上司、部下は誰が居ないのかを解ってしまう。

 直近で出動があったのは例の東京での出来事だけ。それ以降からいきなり姿を現した俊樹達が彼等を殺したと考えるのは当然の成り行きだ。

 それでも、表向きは何も無かったことにされている。遺族にも優遇措置を取ることで沈黙を貫いてもらい、メディアへの露出を防いでいた。

 

 エレベーターに乗ってロック機能の付いた扉を抜け、部屋の中で東雲と合流を果たす。

 東雲としては自分が向かうべきだと思っていたようで、軽く頭を下げられた事実に逆に俊樹が少し慌ててしまった。

 相手は目上の人物。一緒に過ごす怜とは異なり、正直に仕事に励む人間だ。

 尊敬することはあっても軽蔑する部分は無い。慣れぬ丁寧語で頭を上げさせ、そこで漸く三人は向かい合う形でソファに座った。


「先週に起きた出来事は聞いた。 突発的な戦闘の後だったというのに、周辺の被害は想定していたよりも少なかった。 上手く立ち回ったな」


「いえ、最終的には言葉で帰らせましたので。 それに被害を少しに抑えたと言いますが、コンクリートが融解していましたよ」


「ははは、あの程度被害の内にも入らないさ。 業者を呼んで修繕すれば、直ぐに元通りになる」


 軽く会話をして、そして東雲はやっと俊樹の横に座る怜に目を向けた。

 彼女は薄く微笑を湛えたまま。何も発さず、相手からの言葉を待っている。


「件の戦闘には貴方も居たようだが、何故彼に一任を?」


「その程度だった、というのが最大の理由だな。 次点で奴の目的を聞き出すのに、この子が適任だと判断しただけだ」


「危険な行為だった。 万が一致命傷になっていたらどうするつもりだったんだ」


「おや、死から戻ってきている私達の技術に今更疑問でもあるのか?」


「彼は創炎を使えるが、貴方のような特別ではない。 尺度を考えていただきたいものだ」


「過小評価だよ、それは。 彼の今の実力なら、早々負けることはないさ」


 自信満々。寧ろそうなって当然とした態度に東雲は隠すこともせずに眉を寄せる。

 万一を彼女とて考えていただろうに、それを表に出すことはない。護衛官としてどうなのかと問い詰めたいが、言ったところで効果は無いだろう。

 過小評価をしている点も、俊樹がやはり元一般人だからというのがある。実戦の浅い若者に期待をするなど、軍としては情けなく感じるのだ。

 それを見抜いているのだろう。怜はやはり、上から見下ろす目で東雲を静かに視界に捉える。

 

「……はぁ、まぁいい。 意見の激突をしてる暇は無い。 兎に角、今は物事を終わらせることに注力しよう」


 彼女の目から離れ、東雲は自身のソファに置きっぱなしになっている大型のタブレットをガラス製のテーブルに置く。

 画面には世界地図が表示されている。各地の首都に赤い光点が灯り、日本にも光点が表示されて点滅状態だ。

 これが何を示しているのかは俊樹にも解る。あれは世界中に点在する生産装置達であり、点滅している部分は支配が完了した装置を指す。

 

「目下、我々が優先的にやらねばならない作業が二つある。 一つは四家の選別だが、その過程で二つ目の装置の支配も進めなければならない」


「支配を進める理由は?」


「外国にまで奴等の足は伸びている。 そも、管理は連中の役目だからな。 必然的に外にも人員が用意されているんだ。 日本から呼び出す方法も無いでは無いが、家でも用意してやって住まわせた方が対処も速くなるだろ?」


 忘れてはいけないが、四家は装置の管理を一番大事にしている。

 装置が外国にも存在するのであれば、当然彼等の中で外の国に移住している者も居た。そういった面々は国が手厚く迎えることで日本にアピールすることが出来るし、彼等の口添えでもしかすれば四家が秘密裏に優遇してくれるかもしれない。

 回収される資源の量までは調整出来ないが、生み出す物の質を予定されていた以上に仕上げてくれる可能性が発生するのだ。 

 枠は常に有限。何処の時間で何を作るのかを正確に決め、国家は滞りなく現在を維持している。

 それでも、やはり高級品か下級品かの差はあるのだ。その差を少し覆せば、上層の人間が金を絞り出して高級品を求めることだろう。

 

「で、当然ながら外国在住の四家も選別対象だ。 怜殿が選別すると言っているが、君の意見を最も高位に位置付けさせてもらう」


「それは――」


「もう君も誰かの運命を決める側だ。 その覚悟を、嫌であろうともせねばならない」


 東雲の断言は、俊樹の口を閉ざした。

 先週の夜の出来事が脳裏を過る。あの時は背景を知って彼女の本質を引き摺り出したが、それもまた道を決める行為ではあった。

 彼女は俊樹の言葉で、それが例え死の道であっても進むことを決めたのだ。

 これからもそれはずっと続く。俊樹が決めた道を進む限り、誰かの運命を決定づけるようになる。

 平穏など有りはしない。誰かの未来を勝手に決めるということは、そこに負の感情が付随してしまう。

 その覚悟を、東雲はしろと言うのだ。未だ学生であろうとする彼に、もう大人になるしかないぞと遠回しに告げている。

 

「あまり褒めた行為ではないな、元帥」


 だが、その覚悟に水を差す者が居る。

 東雲も俊樹も、冷ややかな雰囲気を醸し出す彼女に目を向けた。全身から流れ出る白い風が、威圧となって周囲を軋ませる。


「覚悟を決める。 それは後継者になった以上はせねばならないことだ。 だが、それをお前が強要する必要はない。 ましてや選別など、こんな害虫駆除に覚悟なぞ要らんよ」


「害虫とはいえ人間だ。 この子が後悔をしないように――」


「お前は虫を憐れむのか?」


 東雲の言葉を遮る。至極当然の道理を語るが如く、彼女は目の前の元帥に質問を浴びせた。

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