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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【四十八点】闇夜の襲撃者

「はぁ……遅くなった」


 現在時刻、午後十九時。

 普段よりも遅くなった大学を終え、俊樹は正門を抜ける。待機している筈の怜の姿は見えず、恐らく何処かで監視の目を残しながら遊んでいるのだろう。

 彼女の職務は護衛官であるが、それは表面上のもの。枠に当て嵌めることで生活出来る土台を用意しただけで、そうしなければ彼女が何をするのか予測出来なかった。

 下手をすれば個人で虐殺を開始しかねない。実際に彼女の成した偉業だけで四家全員を圧倒出来ると解ってしまっているから、余計に彼女には制約を与えなければならなかったのだ。

 それが例え彼女の意思一つで簡単に破れるものでも、無いよりは有った方が良い。

 そして彼女は理性的に矛を収めた。俊樹を傷付けられない限り、あるいは彼女が大事だと思っているモノが被害を受けない限りは激昂しないだろう。


「取り敢えず呼んでっと」


 カードを取り出す、頭の中で念じる。

 何か独特な感覚がある訳でもなく、念じるだけ念じて俊樹は正門横の壁に寄り掛かった。

 こういう時には携帯が一番簡単だが、怜はルリと一緒に携帯を自作した。その携帯は既存の技術力をあっさりと凌駕し、本人でなければまともに操作も出来ない。

 それを渡し、これの使い方が解れば仕事用にしてやろうと告げた。

 つまり、ヴァーテックスや日本政府からの直接の干渉を嫌ったのだ。条件を与えたとはいえ、それが達成されることは無いと東雲を含めた上層の人間全てが確信した。

 端末は三台用意され、内一台は今も解析が行われている。一歩進む度に一万ものプロテクトが阻む作業は、恐らく百年が経過しても終わらないに違いない。

 そういった訳で、ヴァーテックスからの連絡は全て俊樹や彼の父に届くようになっている。

 

 俊樹が専用のメールアプリを起動すると、ヴァーテックスからのメールが一通舞い込んでいる。

 内容は例の四家選別について。俊樹も含めた関係者を集め、現状あるだけの資料と怜の視点で生かす者と殺す者を決めようというものだ。

 俊樹本人としては参加したくないが、家の提供や護衛官に支払われる給料を考えると断り辛い。向こうもそれを狙っての行いであることは解っているものの、人間与えられた物が多い程罪悪感を覚えやすいのだ。

 立場としては俊樹の方が上ではある。あるが、所詮彼にとっては要らぬモノを与えられた上での余計な地位だ。

 

 放棄出来るならしたいと思う程度の重要さでは、やはり責任感も湧き辛い。

 生産装置が大事な物であることは解っている。均等に生産されるように配慮する必要があることも承知済みだ。

 だが、言ってしまえばそれだけ。その肩に全人類の争いの可能性が乗っていることを、彼は努めて無視していた。


「おーい、やっと終わったかーい」


 無用な考え事をしていると、少し離れた歩道から怜が声を上げながら手を振る姿が見えた。

 俊樹も軽く手を振って反応を返し、合流してからは横一列に並んで歩き始める。

 

「いやぁ、やっぱり退屈だったから目だけ置いて周辺を散策してたよ。 ごめんね?」


「構わないよ。 暴れなければ何してたって文句は言われないだろ」


「護衛官としてなってないって怒られそうだけどね」


「そういうの、気にしてないだろ」


「まーね」


 歩きながら、二人は和やかに会話を重ねる。

 途中で学校内で接触して来た二人についてを語ると、やっぱりねと彼女は解っていたような言葉を口にする。

 その様に舌打ちをしつつ、意味の無い文句だけを口にして対策を聞いた。


「あの時、あんたが西条の当主を殺したことで連中もやっとヤバい奴を敵に回したと焦ったみたいだ。 それでも報復を狙う家は出たが、他は見事に敵対から外れた。 今の内に何人かと手を組んで内情でも探るか?」


「別にいいでしょ。 大体の関係者はもう選別済みだしね。 ……誰か味方に引き込みたいなら、僕がリストアップして無害な奴を教えるけど?」


「まさかだろ。 あんな家と関わるなんて馬鹿がすることだぜ」


 肩を竦めて怜に否を返す。

 四家は見事に分裂状態だ。誰かが煽りでもすれば内ゲバにまで持っていけるかもしれないが、それをするのも面倒臭い。

 彼等が最終的にどのような結果を出すか。それ次第では怜の取るべき判決も変わるものの、現状はまだ軽い接触で留まっている。

 相手の動向など今更調べるまでもないのに、無駄に彼等は情報収集に勤しんでいた。

 それが怜やルリが居るからだと本人達は推測しているが、俊樹はそもそも彼等が情報を集めていることを知らない。

 

「そういや、ヴァーテックスから連絡。 選別対象を決めるから来週の水曜あたりに本部に来てくれってさ」


「うぇぇぇ。 そういうのってテレビ電話とかじゃ駄目なのかい?」


「何処で見ているか解らないからな。 知られない内に全部決めたいから、直接顔を合わせたいんだろ」


「面倒臭いなぁ。 五百年も経過してまだワープ装置の一つも出来てないのかい?」


「あんたらを基準にするな」


 俊樹としても嫌であるが、行かねばならないと思っている。

 ワープ装置については同意だ。あれがあればもっと移動は楽になるのに、登場の兆しも無い。理論については怜達が残した文書に載っているのだが、実は国益の関係で禁止されている。非常に勿体無い話だ。

 その美貌で仕事帰りの人間達を魅了しつつ、二人は来た時と同様の道で家へと目指す。

 電磁加速式の電車は田舎には向かわず、新たな家である東京市内を一瞬で駆け巡った。これまでも時間は然程掛かりはしなかったが、今では更に速くなっている。

 もう携帯で少し操作をしているだけで到着する距離なのだから、半ばワープのようなものだ。


「今日の飯は何かなぁ」


「ルリからの通信だと唐揚げだそうだ。 大量に作ったから残さず食ってくれってさ。 ちなみに荷物持ちとして君の父が同行したそうだが、あまりの肉の量に腕が痛いらしい」


「どんだけ買ったんだよ。 絶対一食や二食分じゃないだろ」


「一週間分だとか」


 彼の家では現時点でよく食う者達が揃っている。

 内二名は食べずとも良いのだが、やはり前の身体の影響で御飯を食べたいと自分達で用意することを宣言していた。

 それ故に大量になるのは解っていたものの、一週間分となれば流石に大の大人でも持って帰るのは苦労するだろう。

 肉だけでも大変なのに、間違いなく米や野菜も持っていた筈だ。創炎を発動している俊樹でもあまりの質量にうんざりするのは想像に難くない。

 

「そりゃ、なるべく安全な家から出したくないのは解るけどさ」


「何処も今は敏感だからねぇ。 ちょっとした衝撃だけで大爆発が起きかねないから、僕等も過剰に警戒してしまう訳だ」


「くそぅ、そういうのは他所でやってくれ」


 さめざめと泣きたくなる気分で夜道を歩く。

 周囲からは徐々に人影が消えていき、家の周辺に至っては一人も歩いてはいなかった。周辺には店やマンションがあるにも関わらず、誰も居ない道は酷く広く感じられる。

 二人は特に気にもせずに歩く。

 敏感。その言葉の意味の正確な部分を、俊樹は理解している。

 大爆発が起きるというのはあるだろう。小さな衝撃が核爆発になる程、今は危険極まる。

 だが、では今は爆発が起きていないのかと聞かれれば否だ。

 既に爆発は起きた後で、連鎖するように規模は拡大している。一般の目では見えない場所で、様々な者達が騒がしさを増していた。

 

 ――空気の切れる音がした。

 瞬間、俊樹の視界の端に黒い影が唐突に現れる。それは夜道であることも合わさり、朧気に人であるとしか解らなかった。

 人影の腕と思わしき部分が煌めく何かを振るう。それが彼の身体に向かっていくのを、本人である俊樹は動きもせずに見るしか出来なかった。

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