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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【四十二点】彼には彼の物語がある

「そちらの目的は理解した。 四家を選別する点については俺も参加しよう」


「そうしてくれると助かるな。 私は今回、あまり表舞台で暴れるつもりはない。 やることを済ませたらまた戻る予定だ」


 二人は四家を四家として存続させることを許さない方向で形を纏めた。

 それは遠くない内に地獄の惨状を生み出すことになるであろうが、それでも二人は未来を是正する為に行動を起こすことを決める。

 さてそうなると、他の二名の今後の生活を決めねばならない。ルリも参加するのでヴァーテックスが部屋を用意することになるが、俊樹とその父は四家と縁があっても絶対に戦闘に参加しなければならないと決まった訳ではない。

 彼等からすれば此度の件は巻き込まれたようなもの。元々の始まりが始まりであるが故に、子孫問題が無ければ今も俊樹は平々凡々とした生活を送れただろう。

 

「――で、君はどうするつもりだ?」


「勿論、参加することはしません。 このまま家に戻って普通の生活を送ることにします」


 水を向けられ、迷わず俊樹は答える。

 本来は生産装置を占拠し、それを盾に四家と交渉をするつもりだった。今は彼等も混乱に陥っているので交渉する段階まで至っていないが、落ち着けば方々に話を送って対処を考える筈だ。

 それが最悪な事になるのは間違いない。楽観的に考えるには、彼等の性格は非常に悪過ぎた。

 必死になれるだけの条件は既に整っている。もしもこのまま俊樹を日常生活に戻したとして、直ぐにでも彼の捕獲に動く。

 

「君の意見を尊重したいが、元帥としての俺は反対だな。 今や君は貴重に過ぎる人材になってしまった。 装置の権限を唯一持つ人間を、世界の誰もが逃さない」


「構いません。 そも、彼等は殺すことは出来ないでしょう。 そうすればどうなるかを、彼等は知っている筈ですから」


「……拷問や洗脳の技術も今は進んでいるんだぞ」


 低い声での忠告は私人と公人としてのものだ。

 確かに俊樹の語る通りではある。このまま俊樹を捕縛する中で、誰しもが誤って殺すことを恐れるのは間違いない。

 手加減を求められ、自然と実力の低下が起きるのも当然だろう。俊樹は殺しても問題無いのに向こうは手加減を必要とするなら、やはり開きは狭まる。

 さりとて、では彼は絶対安全なのかと聞かれれば否だ。人は様々な文化を進めることも退化させることも可能で、その中には非人道的な部分も例外ではない。

 拷問は主にヴァーテックスが重犯罪者を相手に使われることが多かった。

 洗脳は為政者が民衆を騙す為に使われ、今も一定の成果を出しているのは否めない。

 多く活用されるのであれば、誰しも効率を求めるものだ。よって進化が発生しても何も不思議ではない。


 俊樹がそれに耐えられるのか。

 捕縛されれば流石に身動きを封じられるだろう。彼の力は決して膂力のみではないが、しかし身体を封じられて無事で済む保証は無い。

 動けなくなったところで強制的に眠らされれば創炎も解除される。あれは意識が覚醒している間だけで稼働するので、意識を喪失すれば好きなように運び放題だ。

 後は彼の炎でも突破出来ぬ箱でも用意して、遠隔で拷問を施せば良い。それが出来るだけの技術力をこの時代の人間は既に確保している。

 俊樹の考え方は酷く楽観的なものだ。目先の目標に向けて不用心にも手を伸ばしている。

 

「君は権限が委譲されてまだ時間が然程経過していない。 自覚が無いのは解るが、稀有であることをもっとよく考えるんだ。 そうでなければ、本当に欲しいものを逃すことになる」


「……では、そちらは具体的にどうしたいのですか?」


 俊樹とて、相手の脅威を考えていない訳ではない。

 確かに、敵はもうなりふり構わないのだろう。彼等は権限を剥奪され、殆どが殺される運命に陥ってしまった。

 それを回避するには、また元に戻すしかない。――或いは、権限の完全消滅。

 怜も東雲も、四家は腐っていると評した。それは彼等の行いが初代の願いを踏み躙るものであるからだが、では今の彼等が断崖絶壁に追い込まれた時にどんな行動を起こすだろうか。

 一番はやはり奪還だ。俊樹という人間を装置とした、新たな形での制御装置を構築して自身の権限を手にする。

 

 だが、そんな真似を怜もルリも東雲も彼の父も許さない。

 悉くを邪魔し、それによって四家は余計に地位を危ぶまれる。そうなってくれば、自棄を起こした一部の者が俊樹への殺害に動かないとも限らない。

 人間、手に入らないと悟ると極端な行動に出がちだ。故に、組織人であるところの東雲としては厳重な防御姿勢を取りたい。

 俊樹の前に三本の指立てる。苦労の数々を示す皺の増え始めた顔は、真剣そのもの。


「第一は君を此処に移住させる。 これは守り易さを考慮してだ。 創炎持ちは兎に角速いからな。 出来る限り近い位置で守れる布陣を構築したい」


「学校も東京なのでそれは可能ですが……」


「好都合だな。 第二に、怜殿やルリ殿と一緒に暮らす。 これは共同戦線を張れるだからこその強味だ。 加え、彼女が故人であるのも利用し易い。 身分を伏せ、姿を偽れば見掛けは普通の人間だからな」


「姿ならルリが変えられるだろう。 この身体も所詮は作り物だからな」


「まかせて!」


「えぇ……。 もっと厄介事の気配がするんですが」


 一先ず二つ。

 提案として出されたそれに、俊樹は渋面を隠せない。

 一つ目は解る。実際、彼等は想像以上に速い。高速戦闘になった際、ARを凌駕する激突が起きたのだから布陣を固める為にも近い場所に居た方が良い。

 護衛対象が遠くに居るなど、それでは護衛する側が間に合わない可能性の方が高い。だから、これは解るのだ。

 だが二つ目は論外である。怜が事の元凶であるのもそうだが、ルリとて元は生産装置の管理AIを担当していた。

 二人が過去の偉人であるとしても、その実力が抜きん出ているとしても、常識的に欠けているのは確定だ。

 

 そもそもの相性も決して良い訳ではない。

 俊樹が平穏を望むのであれば、彼女達は騒動を起こしてでも物事を解決するスタンスだ。

 水と油に近い性質を互いに持つが故に、どちらかが受容しなければ共に過ごすことは出来ないだろう。――そして、残念なことに俊樹にはそれが出来ない。


「第三は君自身の強化。 現状の基本能力に創炎の強化など、自衛の力も身に着けてもらう。 最後の最後になった時、頼れるのは自分の力だからな」


 最後に語った案の方がまだ受け入れられる内容だ。

 誰にも左右されないということは、それに見合うだけの力を求められる。基礎の部分から技術的な能力、果ては精神に至るまで。

 一流の実力者は、常に何かを極めている。それが自分にはまだ未熟だと思っていても、傍目からは達人のように見える程に。

 強くなることは避けられない。子供が大人になって現実を知るように、彼は社会の荒波に揉まれることを強制された。

 

 暫し室内が静謐に包まれる。

 決断するのは俊樹だ。誰も口を挟まず、彼の自主性を重んじる。

 暫く腕を組んで悩んで、顔を虚空に向け、きっかり五分。何かしらの機械の駆動音が耳に届く静かな空間に、俊樹は結果を口に出す。


「――――やっぱり、どうにも嫌な気分です」


 嫌な気分。

 それを聞き、そうだろうなと東雲も頷く。

 守られるということは、自分の思い通りに動けなくなるということだ。それを元一般人にさせようとしたら、先ず困惑か拒絶が来る。

 

「話は理解出来ます。 そうした方がよっぽど良いということも解るんです」


 言っていることは解る。納得もすることは可能だ。

 少し前であれば、俊樹は東雲の提案に首を縦に振っていたかもしれない。

 だが今は。胸の奥から噴き出る熱い感情が自由を叫んでいる。全てを決めるのは俺だと、傲慢な訴えが常識や道理を歪めていた。

 俺が求めているのは。

 俺が望んでいるのは。


「――でも嫌だ、俺は自由でいたい」


 子供が如き言葉は、されどどうしようもない熱を放っていた。

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