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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【二十七点】稼げ、勝つ為に

 管理AIの掲げる子孫としての条件。

 その内容に具体性は無く、あるのは漠然とした自由と呼ばれる概念だけ。

 俊樹自身、彼女の言葉には些かの困惑を覚えた。父に至っては意味が解らないと俊樹以上に困惑していて、一見するとこれは何かの暗号のようにも感じられた。

 だが、そこは今問題ではない。

 俊樹の肌に刺さる殺意。巨漢の人物から放たれる極度の闘志は、最早形となって視認出来てしまいそうな程に濃厚だ。

 武器は無い。防具と呼べる類も見受けられず、実次は無手の状態で生産装置の上に居る俊樹を殺そうと思っている。

 そして、それは実際に出来るのだろう。何の考えも無しに勝負など挑む筈もないし、周囲の護衛達は遠距離武装を整えている。


「管理AI如きが俺の憧憬を書き換えるな。 あの太陽のような男が、誇りを第一として考えていないなど有り得ない」


「実際にそうなんだけどね。 あの人が一番に求めていたのは、己の自由だよ」


 二人の会話は要領を得ない。

 内容がなまじ昔過ぎるが故に、知っている者でなければ理解するなど不可能だ。

 それでも、俊樹にはこれが五百年前の初代に関する話であろうことは推測が付く。これまで聞いた数々の情報と、初代に関係しているだろうAIと声からの発言内容。

 実次の嚇怒に嘘は無い。彼にあるのは憧れと、そこに至れない自分への不甲斐無さだけだ。

 守るべきものは守り通した。だがそれは彼にとって当然のことであって、そこだけに必死になるようでは二流だと実次は確信している。

 そして、であればこそ。彼はそうするべきであると理解に及んでいても、俊樹を西条の枠組みに収めることを容認してはいなかった。


 実際は四家がそうすると決定を下したので覆せないが、西条の中で彼を歓迎している者はほぼ零だ。

 役割として重要だから受け入れるつもりであるも、優遇措置を与える予定は無い。

 徹頭徹尾機械として。生産装置を動かす為の駒としてでしか、彼等は俊樹を認識していないのだ。

 

「……貴様と問答をしていても埒が明かないな。 一先ず、此処はすべきことをさせてもらうぞ。 鳴滝の」


「はい、お手伝いをさせていただきます」


 戦闘は回避出来ない。

 元より、此処に侵入した段階で戦う覚悟は既にしている。勝つつもりは到底無いが、生き残る時間程度は稼ぐと俊樹は足を肩幅まで開いた。

 赤眼が爛と輝く。瞳から焔が漏れ出て、端から粒子となって空に消える。

 創炎の発現。しかして、創炎を使える者であればこそ彼のその状態は異常極まる。実次も純玲も共に僅かに目を見開き、直ぐにその目を細めた。

 

「成程。 だが、それだけなら何の意味も無い」


「先ずは私が」


 一歩、純玲が先に前に出る。

 右腕を振り上げ、その合図に護衛を担っていた者達は冷や汗を感じながらも斉射の構えに移る。

 AIは彼等の姿にそっと溜息を零した。――あまりにも理解に及んでいないと。

 そっと彼女は耳に手を当てる。思考の一部を利用し、生産装置を駆動させた。量産途中で止まっていた装置下部のベルトコンベアが動き出すが、彼女がしたかったことは単に邪魔な物体を外に運び出しただけだ。

 

『子孫君』


「う……これは」


『今、君の思考にチャンネルを合わせた。 そっちにもう一人誰か居ると思うけど、彼女から今後の予定について聞かされていない?』


 俊樹が眼下のAIに顔を向ける。

 彼女はやんわりとした笑みを浮かべているものの、口を動かしたようには見受けられない。であれば、彼女がやっているのは女の声がしていることと一緒。

 

『いきなり強引なアクセスをするんじゃないよ、繝「繧カ繝ウ(・・・)


 再度ノイズが脳内を駆け巡った。

 一部だけ隠されたような話し言葉に、さっきから何だと俊樹は眉を顰める。二人が言葉を発した時だけ異常が出ているのは明白だが、その発生条件がまるで解らない。

 特定の単語だけ伏せられるのか、それとも彼女達が伏せたいと思った単語だけ伏せられてしまうのか。

 そんな疑問など気にせず、二人は会話を重ねる。


『ごめんごめん、久し振りの通信だったからちょっちミスった。 でも、それ以外の準備は全部終わってるよ』


『そうかい。 なら、早速やるとするかな』


『OK。 んじゃ、子孫君。 ――君に今からこの生産装置の全ての権限を渡そう。 それと同時に、他の者達のアクセスを全て遮断する。 その間は僕は手助け出来ないから、暫く奮闘してくれたまえ』


「は?」


 あんまりにもあんまりな言葉に俊樹はつい口から言葉を発してしまった。

 それは引き金を押す行為に等しい。気化したガスが充満する中で火を起こすように、強制的に人間は行動を取らされた。

 純玲の上げていた手が反射的に振り下ろされる。その瞬間、俊樹達を目掛けて大量のマズルフラッシュが煌めいた。

 数百の弾丸が俊樹達の身体を貫かんと一斉に迫り、一秒と時間を掛けずに到達するのは自明の理だ。

 赤眼はそれを正確に捉えている。装置を壁にするように下へ降りていく父を横目に、彼は掌から肩までを全て炎で覆った。

  

 到達の刹那、腕を振るう。

 何でもない普通の腕は強化されたことで鋼鉄をも凌ぐ強靭な槌となり、総じて全てを叩き落とす。

 激突の衝撃すら彼に痛みを齎すことはなく、弾いた瞬間に俊樹は前に出る。

 

「……解ってたけど厄介だな!」


 時間を稼げと言われた以上、なるべく長く耐え忍ぶ必要がある。

 打倒出来れば簡単であるが、相手は性格破綻者でありながらも国家の重鎮。子供までなら兎も角、流石に当主を殺害するのはこれまでとは訳が違う。

 許される範疇は当に逸脱している。俊樹も彼の父も犯罪者認定を受けるに十分な材料が揃っていて、後は四家側が正式にヴァーテックスに依頼すればお尋ね者確定だ。

 だから、もう躊躇することはない。最初は怒りから、今度は冷静な頭で。

 炎を纏いて紅蓮のパーカーとし、護衛達の前へと一瞬で肉薄した。

 怯えの声が俊樹の耳に入るも、彼はそれを悉く無視する。防護服に包まれた首を掴み、無造作にそれを近くの他の護衛に投げ付けた。


 勢いのある投擲に幾人かは吹き飛ばされるも、それ以外は咄嗟に回避して必死に引き金を押す。

 腰には手榴弾と思わしき円柱形の筒が見受けられるが、こんな場所で使えば生産装置そのものに傷が付きかねない。銃であれば多少は攻撃位置を予測出来る。 

 彼等は何よりも生産装置の無事を守る為に懸命に働いていた。 

 それは俊樹を縛る行為だ。理不尽を断固として認めない彼は、そんな護衛達に激怒する。


「――なんも知らねぇ奴等が集ってくるなよ」


 炎一閃。

 まだまだ大雑把ではあるが、形成された炎の波が斬撃のように襲い掛かる。

 反撃として放たれた弾丸は触れた瞬間に溶けて消え、当たった者達は防護服を溶かされた上で肌を容赦無く焼かれていく。

 灼熱の痛みに喉を壊さんばかりに絶叫を上げ、助けを求めてのたうち回る。

 そうしたところで助かる見込みなど無いのに、本能はどうしたって助かることを望んで身体を動かすのだ。

 彼については護衛達にもある程度の範囲で知らされていたであろうに、それでも彼等は無意識の内に何とかなると思っていた。

 所詮は元一般人。覚醒した力に振り回され、満足に身体を動かすことも難しい筈。

 よしんば動かすことが出来たとして、それでも自分達には頼れる者達が居る。彼等の威圧だけで或いは勝負が終わるかもしれないと。


 透けて見える楽観。

 反吐が出る程の本音。死に逝く彼等はやっと自身の心の底にあるモノに気付くが、それは冥土への土産にしかなかった。

 未だ兵は残っている。けれど、創炎持ちに対して普通の兵器はほぼ効かない。

 やるならばARを持ち出すべきで、けれど応援が来るまでには今暫くの時間が掛かるだろう。

 仮に来たとして、今此処に居る俊樹を倒せるのか。

 疑念を抱かざるを得ない状況に――――そんなことは知るかとばかりに黒髪が駆けた。

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