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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【二十四点】ただ、暴れるのみ

 六日目。

 明日には家に向かわねばならない状況で、二人の収穫は零に等しかった。

 増すばかりの戦力。緊張感の流れる東京。ニュースではほぼ全ての局が不安を煽る文言を口にして、さながら緊急避難警報が流れているかの如き不穏さを周囲は垂れ流す。

 真っ当な状況ではなかった。今は何処の店でも売り上げが減少していて、彼等が宿泊するホテルの客も極僅かとなっている。

 そんなことを知らない二人は、ベッドの上で互いに顔を見合わせていた。

 俊樹としては不安を、父としては焦燥を。それぞれ浮かべた表情に微塵も喜ばしいものは無く、だからこそ警戒がより厳重になった五日目からは部屋に半ば引き篭もる形を取った。

 現在の生産装置周辺の状況はテレビの生中継によってある程度把握出来ている。


 無数の報道局からの市民の声と呼ばれる意味不明な嘆願の所為で、生産装置の警備を任せられている責任者達は無事を証明しなければならなくなった。

 今も昔も、上が生活出来ているのは市民の支払った税金があるから。それが無くなるようであれば、流石の彼等も満足に生活は出来ない。

 生産装置に使われる材料は非常に安価だ。ゴミや有毒ガス、二酸化炭素といった人間が多く生み出してしまう物質を使って資源を変換している。

 この物質を集めるのは国家の責務であり、社会人においての常識。会社が一事業として率先して取り組み、数多くの一般市民が協力して今の社会が出来上がっている。


 そんな彼等の意見を無視すれば、必然的に物質集めの効率低下だ。

 今の経済を支える大黒柱が弱ることは国家としても容認していない。よって、国は彼等からの意見を聞いて調査と報告をしなければならないのだ。

 その場として報道局が利用され、報道時間内は常に生中継が成されている。とあるニュース番組では画面の端に定点映像として表示され続け、何か異常が発生すれば即座に画面を切り替える用意をしていた。

 

「今日で六日目だが、随分と様変わりしちまったな」


「建物が変な反応を起こし続けてる。 向こうは気が気じゃないだろうな」


 父親の渇いた笑い声に、俊樹も暗い笑みを浮かべて応える。

 状況が果たして良い方向に動いているかと尋ねられれば、二人には解らないとしか口に出来ない。

 黒の建物は俊樹が近付く度に発光するようになった。それどころか、外にまで響く轟音を鳴らすようになったのだ。

 中で何が行われているのかは解らない。しかし、その音が鳴る度に警備の人間も含めて警戒を強めている。

 よろしくない事が起きているのは明白で、恐らく多くの人が投稿しているだろうSNSも大騒ぎになっている筈だ。

 

「――で、そろそろ動くのか?」


「流石にこれ以上はな。 待ってもこれ以上酷くなるだけだし」


「もう手遅れな感じはするが、まぁそうだな」


 状況としては俊樹達にとって悪い方に向いている。

 迂闊に近付けば発見され、ヴァーテックスによって身元を調査されるだろう。流石にこの段階で俊樹が四家に関わりのある人物だと解っていない筈もなく、彼等は全力を挙げて俊樹の捕縛を優先するだろう。

 故に、自身の姿を限界まで隠すのは最優先。目的地に侵入しようとすれば俊樹に関わらず捕縛対象にされるのだから、隠すのは最低限で構わない。

 近場で購入した作業用の頑丈な手袋を持ち、宿泊施設から彼等は外に出た。

 慣れた道を進み、電車に乗り、最初に来た時よりも静かになった目的地に降りる。近場では未だ歩き回る者が多いが、それでも一定の範囲内を歩いているだけだ。

 

 少し歩けば途端に人の数が減った。

 周囲の店の中には臨時閉店をしている所も散見され、更に進んでいけば必然的に建物周りを飛行するARの姿も視認出来る。

 路地裏を進むことでなるべく視界から避けるも、見つかれば一発で終わりだ。

 巡回する人間が居なかったのは僥倖だろう。生産装置が平和を齎してから日本の緩さはますます加速した。

 安全性の高い国に住む人間は無意識に警戒度を下げる。それでも生産装置を守る意識だけは強いが、兵を固めるだけで後は機械頼りだ。

 無数の監視設備が見ているものの、その視線にはやはり穴がある。その穴を擦り抜けるように進めば、目前にまで近付いた。


「慣れたもんだな、お互い」


「こういう技術を学びたくはないんだけどな」


 少し前であれば絶対に出来ないであろう芸当だ。

 父であれば兎も角、俊樹としては辟易とした気持ちである。こんな事を学ぶよりも、もっと金を稼いで安穏と暮らせる方法を学びたいものだ。

 溜息を吐きたくなる口を閉じ、顔を半分だけ出す。その眼は既に赤に染まり、全身に力が漲っていた。

 

「……んじゃ、騒ぎを起こすぞ」


「ああ、丁度建物も変化し始めたぞ」


 彼が居なかった間治まっていた轟音が鳴り始める。

 更には建物全体に光が発された。青白い光は仄かな量で、陽の光の前ではあまりよくは見えない。

 これまでは夜に起きていた異常が昼に起きた。俊樹も父も狙っていた訳ではないが、使えると判断して昼に実行することにしたのだ。

 案の定、警備の人間は残らず目を建物に向けた。外の警戒をしなければならない人間が、守るべき内側に目を向けたのである。

 その瞬間に俊樹は一機のARに狙いを定めた。やるのは――創炎の能力の一つであるAR操作だ。

 

 これが二回目であるが、俊樹の一回目の感覚は無い。

 故に彼にとっては初めての行使で、身体から何かが抜けるような感覚を抱く。その瞬間に狙ったARは動きを停止し、その場で漂うだけとなる。

 内側のパイロットは慌てていることだろう。いきなり全ての権限を奪われたのだから。

 そのまま機体を操り、三mの巨人は銃器を味方である他のARに向ける。

 遠目からは彼等の声は聞こえないが、仮に聞こえたとしても俊樹に迷いは無い。彼等は所詮、最初の障害に過ぎないのである。

 

「――やれ」


 命令を発し、次の瞬間にはARは引き金を押した。

 轟く銃声。放たれた弾丸は無論対ARを想定された代物であり、命中すればタダでは済まされない。

 突然の裏切り行為に味方側は碌に反応も出来ずに直撃を受け、腕や足等に弾を受けることになった。

 俊樹はARの操作対象を変える。ダメージを受けた機体を選ばず、射線から離れている別機体を選んで権限を奪った。

 ARは総じて全てが生産装置で生まれている。ここに例外は無く、故に彼等は生産装置と繋がっているとも言えた。

 

 であればこそ、四家の支配からは逃れられない。

 四家が不祥事を起こした際の対策として作られた機体であるが、それでも発生理由に生産装置が関わっていては完全な対策にはなりえない。

 とはいえ、如何に異常な能力を有していても操れる数には限界がある。特に俊樹はこれが実質的に初めてであるので、これからの動きも含めて一機に限定している形だ。

 そんな俊樹の耳元で女が囁く。


『一機なんてそんな小さい真似しないでよ。 今の君でも十機は普通に操れるよ』


「……ッ」


 女の言葉で俊樹は更に二機に意識を向ける。

 更に抜けていく感覚を抱くものの、体感的には然程負担は無い。それでも三機は一斉に暴れ出し、その場で武器を乱射し続ける。

 俊樹としてはそのまま動かしたいが、彼の操るARとて元は敵だ。制御を離れた瞬間に噛み付かれたくはない。

 故に、共に食らい合える状況を作った。

 三機が止まらないようであれば、現場責任者は排除を決める。彼等が最優先にすべきなのは建物そのものなのだから、不安要素は排除した方が楽だ。


 案の定、撃墜の続いた状況を打破する為に銃を撃ち続ける機体は撃破された。

 胴体以外の全てを破壊された機体は生命を維持した上で落下し、呆気無くも無力化される。だが、使える駒は幾らでもいるのだ。

 別の機体を操っては暴れさせ、次々に撃墜してもらう。

 共食いを起こし続けていけば、何れ限界は訪れる。増援は必ずあるだろうが、突発的に始まった状況で果たして足が止まらないと言えるのか。

 人間、例えそうなるだろうと予測しても二の足を踏むものだ。AIの暴走による偶発的事故も過去にあったのだし、それが今回起きても不思議ではない。

 

 ――だが、そんな彼等でも間違いなく違うと言える出来事が起きた。

 光を放つ建物に罅が走っていく。何かが激突するような轟音まで辺りに広がり始め、何が起こっているのかとヴァーテックスの人間達は慌てている。

 そんな彼等を無視して、壁は壊れた。そこから飛び出た物体達が容赦無く機体達に襲い掛かる。

 それは棘であった。

 それは針であった。

 ある筈も無い鋼鉄の牙は、まるで最初から見ていたが如く正確無比な精度でARに噛み付いた。

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