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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【二十点】一週間で接触せよ

 二人が選んだホテルは限られている。

 最高級ホテルは金の問題で論外であるし、かといって中堅ホテルは決済方法で対応していない可能性が高い。

 必然的にマイナーな支払い方法も含んだ比較的古いホテルに泊まることとなり、二人は白い壁の目立つビジネスホテルを選んだ。

 何の荷物も無い状態で宿泊を希望する様に受付からは怪しまれたが、それでも無事に一週間分の宿を手にして俊樹は内心で安堵していた。

 室内は綺麗であるが二人分と言うには少し手狭だ。広めの一人部屋に強引にもう一つ分のベッドを置いたような形で、少なくとも多くの荷物を置くことには向いていない。

 値段とも相談した上での決定なので文句は言えないが、それでも元の家と比較すれば息苦しさを覚えるだろう。これが恋人同士が宿泊する部屋であれば少し微妙に感じたかもしれない。


「ま、必要なもんは後で買い足そう。 一週間は此処で滞在だ」


「おう。 さてさて、ニュースでも見ますかね」


 備え付けの液晶テレビは古い。

 大型ではあるものの、三世代か四世代は前の古物だ。パネルタッチには対応しておらず、表示された映像も時折ブレる。まるで外れ品を引き当てたような感覚に俊樹は半目になってしまうが、致し方無しと側面ボタンを押してチャンネルを変えた。

 ニュースには二人に関係する情報は流れていない。まだ逃げ出してから一日と経過していないのだから当然だろうし、そもそも彼等の敷地内で事は起こっている。

 情報の漏洩は防いでいた筈だ。故にこの件で報道局が騒ぐことはないと断言して良い。

 それよりも気になるのは、例の生産装置についてだ。


「今日もやっぱりやってたな。 進展は……依然として無しと」


「原因は解ってるしな。 四家が創炎を隠したがっているし、何か大きな出来事が起きなきゃ進展は望めねぇだろ」


 父の語る通り、ニュース内の情報に大きな変化は無い。

 報道局が集めた情報をキャスターが口にし、専門家達が意見をぶつけ合う。何時もと変わらぬ光景は無駄で、恐らく局側もメリットを感じていない。

 それでも流しているのは一体何故か。裏側の圧力を仄かに感じつつ、二人は一旦テレビから離れて互いのベッドに座り込んだ。

 昼まではまだ時間がある。このまま寝るのも有りではあるが、それは一週間内の動きを決めてからだ。

 

「さて、一週間俺達は家には戻らない。 向こうは此方を探しに来るだろうが、東京内を探すのは随分苦労するだろうさ」


「でも、この一週間を怠惰に過ごすつもりはないよ。 動けるのなら動いた方がきっと良い」


「同感だな。 ならやるべきは、東京内にある生産装置の接触になる」


 一週間以内に四家にダメージを負わせることは出来る。

 出来るが、それでは二人に得は無い。数にものを任せた突撃戦法を取られては、俊樹は生き残れても父は死ぬだろう。

 隠れて逃げるのは基本スタンスだ。その上で決定打を与えるのであれば、やはり生産装置の権限奪取になる。

 ここで忘れてはならないのは俊樹の意思だ。彼はそれを手にする権利を有しているが、だからといってそれで全てを支配するような征服者になるつもりはない。

 安全を守れる程度の権限を持っていれば良いのだ。それ以上の多くを彼は求めないし、その方が社会は維持される。

 

「生産装置が置いてある東京エネルギー生産施設は此処からだと電車で十分の距離にある。 このまま直で出向いたとしても簡単に正門にまでは近付けるだろうな」


 人差し指を下に向け、父は俊樹に説明を開始する。

 東京に来たことで日本をカバーする生産装置までは目と鼻の先にまで到達した。正門は他の重要施設同様に守られているが、力技で突破することは出来るだろう。

 ただ、それをしたら一発で重犯罪者だ。今の時分では重い刑罰を受ける犯罪者は減り、逆にそれを行った者に対して大いに注目が集まる。

 普通の生活をしたい俊樹としては正面突破は悪手も悪手。加え、父にはもう一つの懸念材料がある。


「一番の懸念はヴァーテックスだ。 奴等の基地は施設の隣に立っているから、騒ぎが起きれば一番に出てくる」


「大事なもんは傍にってか。 当たり前だが面倒な話だな……」


 平和を維持する組織であるヴァーテックスにとって、無断で生産装置に触れようとする存在は間違いなく敵だ。

 それに、ヴァーテックスを四家は動かした。俊樹の話が伝わり、彼等も捜索に乗り出すことだろう。

 つまりヴァーテックスは俊樹達に味方しない。話をしようにも四家の権力が上であるので、例え相手が理性的であったとしても捕まえに来るのは明白だ。

 話を聞く限りにおいては絶望的である。そも、彼等は少し前までは一般人だったのだからまともな伝手などある筈もない。


「親父になんか手は無いのかよ。 あいつらが来ることも察知してたみたいだし」


「あれは奴等が接触して来たからだよ。 よっぽど我が息子を無傷で手に入れたかったのか、西条家の交渉役が来たんだ」


 だから、今後は敵の動きを知ることも出来はしない。

 精々が推測を立てる程度。俊樹としても力になれるような友人は居らず、居るのは無邪気に遊べる者達ばかり。それを後悔したことはないが、もう少しでも自分にとって有利になる環境を築いておけば良かったかもしれない。

 既にこれは過ぎた話。今更後悔したところで何の意味も無い。

 息を吐き、頭を切り替える。弱気になってしまうような要因を排除して、彼は冷静に突破口を探す。

 互いに解けた金髪を擦りつつ、暫し周囲には沈黙が広がった。


「一先ず、見に行くだけ行ってみるか?」


「おい、流石にそれは拙いだろ。 いきなり敵陣の前に行くようなもんだぞ」


「だが今の俺達には情報を集める手段がない。 テレビじゃ限界があるのは解っているだろ?」


 父の提案は確かに良案ではある。

 現状、二人は情報を集める手段がテレビしか存在しない。後は実際に足で探し回るくらいだが、それでは発見の恐れがある。

 停滞は無しだ。ただホテルで過ごせば過ごすだけ、相手の準備が先に完成する。

 それがどんなものかも解らないのでは、先手を取られるのは此方だ。

 妥協するしかないだろう。溜息を吐き、それを同意と取った父は決まりだなと短く決定を下す。

 まだ何も策が始まっていないだろう現在の時点で集めきれるだけの情報を集めきる。その後にホテルに再度引き篭もり、動きを決めるのだ。

 

「顔隠し用にマスクと帽子を買っとくぞ。 後、纏まらずに一人一人で別れよう」


「生体情報を随時確認されるようなもんが開発されなくて良かったな……」


「こういう時に人権ってのが役に立つとは思わなかったぜ」


 もしもディストピアを肯定する世界であれば、逃げる行為はもっと難しかった。

 まだ状況は最悪にまではなっていない。逆にここからの行動如何で全ては決定されるだろう。

 二人はテレビのニュースを耳だけで聞きながら、そのままベッドで横になった。

 深夜からずっと起き続けていたのだ。身体は休息を求めていた。休める内に休んでおこうと目を閉じ、眠らずにただ倒れる。


『慎重だねぇ。 まぁ、正しいとは思うよ。 君はまだあれしか使えないからね』


 傍で女の声がする。

 俊樹だけにしか聞こえない声に、しかし彼は目を開けて確かめようとしない。それを彼女は望んでいないであろうし、彼としても今はどうでもよかったから。

 

『僕を紹介しないのもグッドだ。 切り札ってのは味方にも隠しておくもんだよ。 最後の最後に逆転する為に秘匿は大事だ』


 妙に褒められる声を俊樹は無視した。

 そこまで深くは考えていない。これから消費される体力を予想し、彼女の声に背を向けた。

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