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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【十七点】焼死

 剣が、弾丸が、全てが溶かされた上で素材にされた。

 それは創炎を知る者程有り得ない光景で、かといって知らない者にとっても非常識極まりなく感じてしまう。

 父もまた他と同じく驚愕し、しかしてその口元は笑みに彩られている。

 驚きながらも解っているのだ。あれは己の未来を切り開く為に生まれたもので、決して強制的に起こされたものではないと。

 俊樹が精神的に強い子供であることは解っている。ARに対しては過敏に反応するものの、それさえなければ非常に温和だ。

 今日此処まで嚇怒に支配されているのも、理不尽が幾つも舞い込んだから。ARも関係しているだろうが、自分の道を無理に閉ざしてくる存在に対して彼は限界を凌駕する勢いで憤怒を抱いている。

 

 その怒りは殺害にまで及んだ。

 父はあんな家の人間が何人死のうとも構わないが、それで俊樹が精神的に参ってしまうようなら殺してほしくはない。殺さない限り襲撃が止むことはないとはいえ、最優先はやはり俊樹だ。決して己の我を優先するなど有ってはならない。

 しかして、その杞憂は結局のところ杞憂でしかなかった。創炎が覚醒し、それが誰にも真似出来ない機能を持ち、目前の対象を凌駕しているのだ。

 ARは人間では勝てない。

 例え創炎を発動したとしてもそれは覆せない現実で、そんな非情な現実を俊樹は覆してみせた。

 見るが良い、あの焔を。天に輝く太陽にも負けぬ煌めきを。

 皮も肉も丸ごと焼き付くされてしまいそうな熱の前に、万象は等しく同列に成り下がる。


 大きく踏み込み、俊樹は眼前の騎士に狙いを定める。

 多数の相手を前に、先ず最初に潰す必要があるのはやはりエースだ。他の機体よりも優れたスペックを持ち、本人も優秀であるならば真っ先に潰した方が後が楽になる。

 無いとは思うが、それで戦意を喪失してくれれば万々歳。

 逃げることを念頭に置いていたものの、既に俊樹の中で逃げは優先度を少し落としている。本当に不味くなれば流石に逃げるが、今この瞬間において俊樹は自身が負けることをまるで考えられていない。

 その理由は、先程の謎の人物との会話だろう。彼女の持ち掛けた提案を彼は呑み、力を得たのだ。その原理は定かではなく、恐らく説明されたところで理解出来るものではない。


 見え見えの踏み込み。それを見た晶斗は身構え――次の瞬間にはカメラの全てが俊樹に占有される。

 は、と疑問の声を漏らす暇すら与えない。何者の反応も許さず、俊樹は騎士の顔面をグローブの付いた手で殴り飛ばす。

 金属を殴る感触が伝わりはするものの、そんな程度で止まる程彼に与えられた力は弱くはない。

 借り物であるが故に十全に使えている訳ではなく、そも一割と少々程度の出力ではあるが、人造物を破壊することなど造作もないのだ。

 頭部は歪み、迸る熱によって融解が引き起こされる。一瞬で熱は頭部のほぼ全てに行き渡り、更には内部配線に至るまでを丸ごと破壊した。

 

 騎士が拳にとって吹き飛ばされる。

 森の木々を薙ぎ倒しながら、その身が後方に至るまで強制的に引き摺られた。

 

「ふぅ。 ……やっべぇな、これ」


『当然だよ』


 空中に漂っていた身体を地面に着地させ、相手の状態に頬を引き攣らせる。

 初手から全力で殴った結果、俊樹は自身が想像する以上の現実を引き出した。火花が散った首の無い騎士の身体と、破壊された木々は一人間が出せる被害ではない。

 創炎の比ではなかった。俊樹自身、こんなことが出来るとは微塵も思っていない。

 だが、謎の人物の与えた力はこれを成した。例え僅かな出力しか今は出せなくとも、それでも現代の覇者を倒す程度は簡単なのだ。

 

僕の旦那の力(・・・・・・)なんだ。 この程度で驚いてもらっちゃ困るね』


「お前既婚者なのかよ……」


『リア充だったんだぜ? ぶいぶい』


「ふっる。 何百年前の言葉だよ」


 女性は随分得意気だった。それほどまでに旦那と呼ばれる人物を誇らしく感じているのだろうが、俊樹としてはやはり非常識にしか思えない。

 それにこの力もまた炎。創炎の言葉との関連性も加味すると、やはり声の持ち主が関係者であるという疑惑はますます深まる。

 使うことを選択したとはいえ、少し早計だったという感は否めない。そうしなければ脱出出来ないだろうと解っていても、乗るにはもう少し質問をすべきだった。

 今更遅いがと首を振り、後悔を振り払う。依然として背後から聞こえる声を意識的に無視して、背後から聞こえた銃撃に一瞬意識を向けた。


 もう一機のカスタムされたARが放つ弾は何度撃とうと同じ結果しか起こさない。

 俊樹の近くにまではいくことが出来ても、触れることが出来ずに溶けるのだ。溶けた液体は彼の周囲を暫く浮遊し、何も使い道が無いのか最後には地面に落ちる。

 落ちた地面からは白煙が立ち上り、ゆっくりと冷却が進む。何れは元の硬い金属に戻るだろうが、そうなる前に戦いは終わるだろう。

 マガジンが続く限り撃ち続ける攻撃を総じて気にせず、俊樹は起き上がろうとしている騎士の下にまで飛んで行く。

 他のARや人間からの弾幕が襲い来るが、その全てが俊樹には届かない。バリアではなく、純粋な熱だけで全てが溶かされて致命傷を与えられないのだ。

 

『っぐ、動け……。 まだ負けてはいない』


「いや、負けだよ」


『!? 貴様!』


 関節を軋ませる騎士の足元に到達した俊樹は、相手の足掻きを否定する。

 姿までは見えずとも、声は騎士にまで届いているのだろう。怒りを含んだ言葉が返り、俊樹を糾弾するつもりがありありと感じ取れる。


『何をしているのか解っているのかッ? お前がここまで足掻けばどんどん自身の選択肢が狭まっていくのだぞ!』


「いや知らんがな。 お前達が勝手に騒いでるだけだろ。 ――全部、お前達が、自分の都合で動いているだけだ」


 形勢は既に逆転している。

 機体の優位性も、搭乗者の技量も、全てが俊樹が借り受けている力だけで覆された。となれば、最早彼等に止められる道理は無い。

 須らく道を開けるのが彼等の生存の道であり、そうでないのであれば末路は一つ。

 そして、四家に関わる者達が選べる選択肢も一つだけ。ここで退くような真似をすれば、最悪家から追放されかねない。

 

「さっさと敗北を認めろ。 俺を家に帰せ。 そうすりゃ何もしないし、関わろうともしない。 どうせそのARの通信を使ってさっきの家の連中も聞いてんだろ」


 俊樹の言葉は確りと離れた地に居る当主達にも届いている。

 だが、彼等が要求を呑むことはしない。例え此処で四家の創炎持ちが死のうとも、俊樹を拘束する。

 故に命令は一つ――死ぬ気で捕らえろ。

 冷徹に告げられた命令に人情は無い。徹頭徹尾犠牲を前提とし、そして西条・晶斗はどこまでも西条家の人間だった。

 足を動かし、足下の俊樹を横凪ぎに払う。

 俊樹は上に跳ねることで回避し、その瞬間に騎士は背部ブースターを吹かせて強引に身体を起き上がらせた。

 空中に居る状態では俊樹は何も出来ない。いや、何かが出来るかもしれないが、最大加速で攻撃を仕掛ければまだ効く可能性はある。

  

 今度は余計な慈悲を掛けはしない。

 機械の拳を固め、殺すつもりで右腕で放つ。巨大な鉄の塊が目前に迫る様子を俊樹は見つめ、片腕を前に突き出す。

 同時、命中。片腕から流れ込む衝撃は俊樹の経験したものではなく、されどそれが身体の異常に繋がることはない。

 形成されたパーカーがその威力を殺し、逆に飲み込んでやると腕から炎が噴き出る。

 巨大な蛇のように腕に巻き付き、機体を食らって更に更にと巨大化が進む。

 下腹部が、足が、翼が、最後のメインディッシュとして胸に牙を立てる。


『ぐ、まだだ! まだやれる!!』


「――無理に決まってるだろ」


 機体保護のバリアなど関係無い。

 全てを捕食し、遂にコックピット内にまで炎は流れ込んだ。


『ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 絶叫が辺りに響く。

 紅蓮の業火に焼かれ、骨も残さずARごとその姿は消失した。飲み込んだ蛇はゆるゆると戻っていき、俊樹の周りでとぐろを巻く。

 褒めろと言わんばかりに顔を俊樹の傍に寄せる姿を見て、なんだこいつと彼は疑問に思いながらも炎の頭を撫でるのだった。

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