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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【十六点】嘗てあったであろうロマン

 沈黙が辺りを包み込む。

 何が起きるかも解らない状態で二機は俊樹と睨み合いを行い、既に多くの追手の彼等の下に集結していた。

 銃器を手にする人間、時代錯誤にも思える槍や刀を持つ人間。量産化されたARが空で待機していて、命令一つで彼等が持つ大型火器が眼下の者達に降り注ぐであろう。

 ARが見ている光景は映像として各家に送られ、重鎮達は現場を見つめている。

 指示用のマイクもあるが、誰しもが口を開けない。この瞬間の出来事を半ば食い入るように見つめ、事態の変化になるべく対処出来るよう身構えている。

 たった二人を追い詰めるのに四家の人間を動員するのは過剰だ。

 単体として強者の部類に入る人間を投入していないにせよ、多くの人間を向けたのは数十年の中では他に一度だけ。


 怜の絶縁時に起きた騒動は当主達の記憶に深く刻まれ、故に今回も同様の出来事が起きるのではないかと警戒しているのだ。

 俊樹が素人であることは勿論承知済み。彼の父が直接的な脅威になることもない。

 それでも、予想外の出来事は必ず起きる。それが彼等が赤眼に向ける認識であり、同時に限界でもあった。

 焔の創炎。初代と深い関係があるであろう色は、それだけで四家の注目を集めてしまう。

 更に生産装置の出来事があるからこそ、もしやとも思ってしまうのだ。

 

『数が増えてきたか。 ……早急に事を収めなければ此方の能力を疑われるな』


 晶斗は周りの目を見て、少々不味いかと眉を寄せる。

 相手は警戒すべきであるが、同じくらいには他家の視線も警戒すべきだ。西条は格としては一番上であるも、引き摺り落とされないという訳ではない。

 絶対の権力がある訳でもなく、表面上は四家は同列だ。実際に公的な式典などがある際にも四家は平等に扱われ、晶斗を含めた親族もその点については何の文句もない。

 裏側だけだ。西条が特別な家であると解っているのは。

 そして特別だからこそ、その力を三家は手にしたい。権力も、財力も、特殊な創炎も。

 怜のような者はもう二度と出ないかもしれないし、また再度出るかもしれない。けれど、彼女のような二つ眼を三家は発現したことがなかった。


『早乙女の。 此方が仕掛けるが故、お前は相手の動きを遠目から警戒しろ。 怪しい動きがあれば撃て。 私の事は一切気にするな』


 西条は特別だ。

 特別であるからこそ、先陣を切る。剣を正眼に構え、出力を一気に上昇させた。 

 特注の騎士タイプのARは細い。防御という概念を捨て去ったスタイルは速度に特化させ、初速の段階で高速に入る者達と同じ領域に入れる。

 そこから更に加速することで様々なAR乗りの認識速度を上回り、最終的には速度差による優位で手を潰す。

 今回も一緒だ。殺さないようにと言われはしても、相手が何をするのか予想出来ない段階では手加減の限度も解らない。

 ならば最初から最大火力で。距離は足りているとは言えないものの、一機体としてはあまりにも速く彼は剣を振るった。


 間近にまで迫った瞬間、晶斗は俊樹と視線を交差させる。

 カメラ越しではあるが、俊樹の目は明らかな凶刃を前に恐怖も不安も抱いていなかった。

 この程度で揺るぐものか。お前如きの刃で俺が止まると思うのか。

 実際にそう思っているのかは解らずとも、晶斗にはそのように思えて仕方がない。まだ素人も同然の彼にこの状況を逆転する手など有りはしない筈なのに、胸騒ぎが止まらないのだ。

 まだやれることがある。

 そう言われ、晶斗にはブラフには思えなかった。寧ろ逆に、この男は何かを仕掛けようとしていると晶斗はこの瞬間に確信したのだ。


 大地を抉るような下から上への斬撃。

 地響きすら伴った攻撃で土が舞い、彼の姿を周囲から隠す。それは少し離れた地で見ている者達も同様で、彼の一閃が俊樹を斬ってしまったのではないかと俄かに騒ぐ。

 土の中には大量に小石が含まれている。例え斬撃を辛うじて回避したとしても、石を無数に受けては怪我は必須。斬撃よりは生存率は高いものの、最悪頭部に石を受けて即死になることもなくはなかった。

 ――それが彼等の最後の余裕であったなど、一体何人が想像したというだろうか。

 

『ぐっ……この、感触は』


 剣を下から上に掬うような動作を行えば、必然的に刃は最終的に上に居ることになる。

 仮に途中で止めたとしても、勢いは簡単には止まらずに中段の位置で静止するだろう。晶斗も当然そのように考えていて、次の動きを脳裏に描いていた。

 だがそれも、地面に埋まったままの剣の所為で停止させられる。晶斗がどんなに剣を持ち上げようとしても微塵も動かず、引き抜こうとしても何かに引っ張られているかの如く地面から離れない。

 俊樹が何かをしているのは明白だった。そして、明白であるからこそ舞った土が地面に落下した後の光景に意識を集中させ――――炎の絶対者をその目に幻視する。


『なん、だ。 それは。 有り得ないだろう、そんなことは』


 それは炎だった。

 それは焔だった。

 失われし初代の威光。何者にも従わず、逆に全てを服従させた太陽がそこにはある。

 赤熱する右腕が剣を握っていた。巨大な剣は熱によって赤く溶け、どろりとした液体が俊樹に降り注ぐ。

 それが直接彼に当たれば火傷では済まされない。皮膚も肉も丸ごと焼かれ、人の形など保てはしないだろう。

 されど、俊樹は違う。瞳に灯る莫大な炎をそのままに、液体となった剣が彼の周りを回転するように集まり始める。

 熱は伝播していき、最終的には柄にまで到達。反射的に手放した剣は最後の一片まで全て溶かされ、それらは俊樹の周りをやはり浮遊している。

 

「――再現開始」


 短く俊樹は告げた。

 同時、液体は回転した自身を停止させて新たな形を創造する。

 武器ではない。防具ではない。ARでもなければ、旧時代の兵器でもない。元手となる物質を材料に、彼が作り上げるのは最強の一。

 それを知るのは西条家のみ。そして知っているからこそ、出来上がったソレに驚愕を隠せない。

 溶けた物質は服を作り上げる。顔を全て覆うフードに、紺色のパーカーを。

 無駄を省いた機能優先の服は俊樹の眼前で完成し、彼はそれを手に取り纏う。


「――十六点? 低いな、それ」


 俊樹は誰かに語り掛けるよう呟き、騎士を見上げる。

 パーカーから蒸気が上がっていた。目の焔が先程よりも増している。――それが明らかな異常であると早乙女は判断して、銃の引き金を躊躇無く押す。

 徹甲弾は一切の揺らぎ無く直進を描き、俊樹の胴体を吹き飛ばすつもりで放たれている。

 当たれば致命傷になる攻撃を、やはりというべきか俊樹は避けない。

 いや、正確には違うのだ。そもそも避ける必要が無い。何故なら、炎の超越者は常に逃げ惑う者ではなかったのだから。


『……ッ、!?』


「今の声。 女かよ」


 徹甲弾は目標に到達する前に一瞬で溶けた。

 近い方から赤い液体に変わり、それが再度俊樹の周囲に集まる。新たな材料を確保し、それらは俊樹の手と足に纏わり手袋とブーツになった。

 早乙女の初めての声は女のように高い。実際に女かどうかは中身を見なければ解らないが、そもそもそんなことはどうでも良い。

 ――神具が蘇る。

 嘗ての初代が使う、彼の武器が。探せど探せど見つからなかった神の武器が、今神威を纏いて此処に降誕した。

 心せよ、その炎は悪を許さぬ。

 心せよ、その炎は遮る者を焼き尽くす。

 尽きぬ永遠の火を前に、人の創造物に過ぎないARが勝てる道理は無い。


「試運転。 やるか」


 裁きは正にこの瞬間。

 自由を奪いし愚か者共を誅する為に、炎の超越者が動き出す。

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