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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【百十六点】会見発表前

 全四つの襲撃メンバーは実に手際よく決まった。

 中でも俊樹が目指すのは西条家。一番質が高く、難易度が最も高いとされる家だ。当然必要な戦力の質は高くなければならないが、そこには俊樹を含めて怜とアラヤシキによる長距離支援射撃が入る。

 彼等の家であるアラヤシキには長距離を範囲的に制圧する強力な主砲がある。まだまだ稼働した直後であるので弾数には制限が存在し、戦闘中に新たに生産したとしても五発が限界だ。 

 巨大な主砲だけあり、新しく弾を作るのにも時間が掛かる。弾数が少ないのは痛いものの、狙いを外さないことと一発の威力が軽く小山を吹き飛ばす程であれば五発でも過剰だろう。

 全盛期による全力全開の火力を振るえば、小国程度は時間は掛かれど焼け野原に変えられる。


「会場はアラヤシキ内か。 これはこれで警備の必要が無くて楽だな」


「基本的に監視は全てAIが担当するからな。 月並みだが、鼠一匹見逃さんよ」


 東雲は特務部隊の何名かを引き連れ、数日の内に会見の準備を整えた。

 世間は未だアラヤシキの出現によって慌ただしく、政府から幾度も説明を求められている。国家に対する平等性を保つ為に同じ情報は伝えてあるのだが、彼等は早く国民を落ち着かせられるだけの情報を求めているのだ。

 気持ちは解らないでもない。同じ状況であれば東雲とて似たような心境に陥るだろう。

 それでも、この日を迎えるまでは口を噤んだ。

 ヴァーテックス内の支部長クラスにまで情報の伝達は留められ、彼等からは会見に対して肯定的とも否定的とも言える意見を貰っている。

 

 とはいえ、その割合は7:3と肯定が有利。多数決でも会見はすべきと決まれば、態々足を止める理由は無い。

 事前に世界中へと国際的な配信サイトを使い、全ての広報担当者が使えるだけの手札を用いて予告を既に放っている。

 これに多くの国民が反応を示し、事前に用意された配信枠には何百何千万以上ものリスナーが配信が始まる時を今か今かと待ち望んでいた。

 そして、用意された部屋には既に機材を持ち込んで繋げ終わっている。

 

 この時代で最新のパソコンに、アラヤシキの通信システムを用いた膨大なネットリソース。

 遅延も停止も限り無く零になるまで抑え込み、ステージは無機質な白に統一されている。

 余計な家具は無く、あるのは飾り気の無い仕事向けの長机が一台。これだけは黒に塗装され、ある種目立っている。

 カメラは空中を浮遊していた。この時代で辛うじて完成している浮遊型の小型カメラは、しかしアラヤシキで生産された物だ。

 ルリが中身を弄って再構築したことで性能は頭がおかしいと言われるレベルにまで高まり、少なくとも画質による文句は一切受けることはないだろう。


「特務部隊は左右に。 カメラに映るのは二名だけで良い。 俊樹君は呼ばれるまでは画面外に居てくれ。 最初に話すのは俺と――」


「私ですね」


 実体の無いホログラムの身体が室内に投影される。

 シルは割り込む形で東雲の会話に加わり、彼もああと肯定。彼女が居ることは想定外ではあったが、アラヤシキのAIとして参加させれば露見する確率は下がる。

 服装も乱れは無い。アラヤシキの制服と言えばパーカーではあるが、彼女はその例から外れて純白の丈の短いマントを羽織っている。

 これを何と例えるかと問われれば、軍の高位将官の恰好だ。何処の国にも存在しない服ではあるが。

 怜はあまり露出を好まないので会見には事前に不参加を決めていた。故に、彼女は会見の様子を眺めるのみである。

 他に重役の姿は無い。この会見において、他の人物は不要だ。邪魔ですらある。


「……今日この日から一つの歴史が終わり始めるのか。 なんというか、どうにも実感が湧かないな」


「何処にでもある話だ。 国も、組織も、個人であっても。 何時かは終わりを迎えて滅びを迎える。 今回はそれが急速に進むだけであって、歴史が終わる瞬間は誰しもが体験することだ」


「考えてみればそうだな。 任務で死んでいった隊員にも積み重ねた歴史がある。 我々が使っている兵器にも今まで続く物語が存在するのだから、これは確かに何ら不思議なことではないのか」


 終わりは、常に己の隣に存在する。

 それは親族かもしれないし、飼っていた生き物かもしれないし、自身が所属する職場かもしれない。

 怜はそれを大きな枠組みで語り、東雲は個人規模の枠で語った。全ては永遠ではなく、何処かで必ず終わりを迎えて消えて無くなる。

 態々それに対して感慨を覚える必要は無い。怜は長い時間を管理者として過ごしたからこそ、滅びという概念を酷く軽いものとして認識していた。

 大英雄の死もまた滅びであるが、それは覚悟していたことだ。死んだ直後は涙を流すことはあっても、今では思い出話程度の感情しか湧きはしない。

 

 準備は全てルリとアラヤシキのAIで行われている。

 機材の設置はルリが行い、配信用のソフトウェアについてはAIが。互いに言葉を交わすことは無くとも、その連携は実に見事だ。

 まるで長年連れ添った夫婦のように一糸乱れぬ手際の良さは、そのままヴァーテックスの兵器開発局に配属してもらいたい程だった。

 

「これと、これと、これで……良しッ。 配信ソフトもOKだね。 ――良いよ! 何時でもいける!!」


「予定時間は一時間後だ。 協力に感謝する。 暫し休んでいてくれ」


 ルリが準備完了を宣言することで空気が変わる。 

 互いの会話も自然と終わり、意識も切り替わった。設置された長机に東雲とシル、特務部隊が並んで位置の調整に入る。

 現場のスタッフはルリだけだ。彼女の指示で全員の位置が僅かに変わり、その後にリハーサルを行い終了時間の目安を決める。

 話そのものは三十分もあれば終わるが、質問もリアルタイムで拾っていくつもりだ。

 国民の素直な意見を聞き、なるべくヴァーテックスは国民の味方であると更に強く印象付けなければならない。

 

 ただでさえ今後は四家の味方をする企業からの嘘情報が流布されるのだ。

 此処で少しでも誠実な対応をしてこそ、ヴァーテックスの公平さの証明に繋がる。

 懸念があるとしたら、配信を運営会社側が勝手に切ることか。皆が見る大手の配信サイトの運営会社は決して国営ではない。

 政府と太いパイプを持っていることはあるが、それでも名義としては大企業の枠である。

 政府の力は弱体化しているものの、決して弱い訳ではない。ヴァーテックスだから上からの視線で接することが出来るのであって、今もまだ企業と政府が争えば政府側に軍配が上がり易い。

 

 よって、運営会社にこの配信を閉じろと命令が来た場合は強制的に終了となる。

 その場合はSNSや国内の報道局を利用して緊急の会見を行わなければならない。テレビの普及率が低下の一途を辿る中、果たして全員に情報が伝わり切れるかは謎だ。

 そして、その準備に少々の時間が掛かるのは自明である。襲撃時刻が変われば、四家が先に手を打って来ることだろう。

 

「配信を切断されたくはないが、切れた場合に動揺はするなよ。 素早く次を考えろ」


「最悪は介入するか」


「余計な事はしないでくれ。 貴殿にそれが出来ても、それが原因で責められたくはない」


「……ま、いいさ。 成功すれば文句は無い」


 リハーサルを終え、最後の注意を行ってから本番に備える。

 二人の会話ばかりの空気は重く、静かな緊張感に包まれていた。俊樹も感じたことの無い別種の息苦しさに胸元を緩める仕草をして、意識的に呼吸を繰り返す。

 トップ同士の話だ。後々のことも踏まえて行動出来る部分は、正しく統率者としての素質に溢れている。

 そして時間が残り十分となった段階で二人の会話も途絶えた。浮遊していたカメラも所定の位置で停止し、リミットを刻む配信画面はついに零を迎える。

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