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BLUE ZONE―生きたくば逃げろ―  作者: オーメル


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【百十二点】諦めない理由

 一機のARから美鈴が姿を現し、他三人は武器を地面に突き刺す。

 その様子をカメラ越しに見てから船は地上から数㎝は離れた場所で停止し、側面に用意されているクルー用の入り口を開いた。

 中から出て来る者は俊樹と怜の二名のみ。他は話し合いの場となるだろうブリッジにて全力警戒にて備えていた。

 

「……こんな場所に来るとは流石に予想外だったな」


「今回の件は私にとって非常に都合が良かったのです。 ……あまり備えが出来ていたとは言えませんけれど」


「おひさ! 覚えてる?」


「あれで忘れる方がどうかしてるだろ。 お前は居ない方が良かったよ」


 美鈴との会話を普通に済ませ、若草の女に敵意を剥き出しにした顔を浮かべる。 

 そんな顔を向けられても当人はあははと軽く笑うだけで、まったくと気にした様子は無い。こんな敵意など日常茶飯事で、寧ろ弱いくらいだ。

 他二名は興味深く彼を眺めていた。これが初対面であるが、二人は彼の姿が情報と差異が無いことにある種の不自然さを感じている。

 見た目は普通の男性だ。四家の血が流れているのであれば不自然なまでの不気味さや覇気などを備えていることがあるが、彼にはその一切が無い。

 だからといって弱そうな雰囲気は皆無だ。確りと二本の足で立ち、彼は敵意と警戒をその二名にも向けている。


「そっちが他の二人か」


「うん、紹介するよ。 武士っぽいのが奈多(なた)で忍者っぽいのが(しき)だ。 ちなみに私の名前は(ぐん)ね。 覚えていてね?」


「二文字なのは有難いな」


 覚えていられるかは兎も角、これで名前は解った。

 他二名は前に出て直接挨拶をしようとしない。ただ相手を観察するのみに留め、積極的に会話をするのは美鈴と群の二人だ。

 互いに自己紹介を終えた後、再度身体チェックを行い内部へと進む。

 彼女達は初めてアラヤシキに入り、興味津々に周りを見ながらブリッジへと動く。

 互いに会話は無い。話すべきはブリッジでとなり、目的地の部屋に戻ると全員が三人に目を向けていた。

 重火器の類は既に用意している。そんなもので倒せるとは思っていないが、此方側の方が有利であると示すことは交渉において大切だ。


「四家の方ですね。 皆様初めまして」


「初めまして。 我々のような者を中に入れる許可をいただき、誠にありがとうございます」


「構いません。 貴方達はまだ致命的な間違いを犯してはいませんから」


 シルと美鈴は真正面で視線を交わす。

 美鈴は四家譲りの美貌で学生から持て囃されたが、シルを見ては上には上が居るものだと納得するしかない。

 銀の流れるような髪に、人間としての限度を捨てたような美しさ。醜さなど微塵も抱かせぬ清純さに、無機質なブリッジが妖精の園のように思えてしまう。

 勝てるなどとは考えていなかった。どだい、四家は枠組みとしては未だ人間だ。本当の人外を前に、無駄な足掻きをしても滑稽にしかなりえない。

 

「先ずは双方の認識を正しておきましょう。 ――貴方達は四家を裏切った。 そこは間違いはありませんね?」


「その認識で相違ありません。 我々は各々の理由で四家に失望し、嫌悪し、離れることを決めました」


 話し合いを進める役は自然と決まった。

 主に話すのはこの二人に絞られ、必要になった際に他の誰かが口を開ける。

 

「裏切ったとのことでしたが、今回このような出来事が起こることを予想して動いたのですか?」


「いいえ、違います。 こんな場所にこのように壮大な物が有るとは知りませんでしたし、計画自体も突貫でしかありません」


「では、場当たり的な動きでしかなかったと?」


「此処で戦っては本格的に彼と敵対したことになる。 そうなってはもう二度とまともに話すら出来なくなるでしょう。 ここで離れた時、私が頼るのは自然とヴァーテックスになっていましたから」


「成程、余計な溝を作りたくなかったのですね。 ――それは賢明な判断ですが、同時に浅慮でもあります。 常に頭に十や二十の推測は浮かべておくものですよ」


「はい。 ありがとうございます」


 まるで学校だ。

 シルが教師で美鈴が生徒。何が正しく何が間違いかを指摘し、その全てにおいて要らぬ可能性を挟ませない。

 美鈴の判断は間違いではなかった。突貫工事の如くに用意は済ませておいたが、事前の根回しは何一つとして出来ていない。

 俊樹を味方に付けることも、ヴァーテックスを頼ることも、彼女は事前にしなかった。それは四家の誰かに事が露見するのではないかと思ったからであるし、どうしても経験の浅い彼女ではやはり露見していただろう。

 唐突に動いたからこそ兵は止まり、多くのARが爆死して穴が開いた。その隙間を抜けて最速で飛び出していれば、一二三に足を止められることも無かっただろう。


 三非人が居なければ彼女は此処に居ない。

 運が良かったが故の生還。それを実力とシルは呼ばず、美鈴もまた納得している。

 全てにおいて己の実力で成してこそ、万事に誇りを持てるものだ。すべき事柄を明確にし、それを水面下で進ませる努力を施し、そして実行に全霊を傾ける。

 そういった意味では三非人は完璧だった。誰にも姿を視認されずに戦場にまで移動し、一二三を殺し切ってみせたのだから。

 

「さて、小言のようになってしまいましたね。 それでは具体的なこれからについてを話し合いましょうか――――特に重要なのは、四家の殲滅です」


 手を一回叩き、場の空気をがらりと変えた。

 重厚で濃密な死の気配。妖精が如き美貌から放たれる残酷な内容は違和感が強い。

 三非人は目に見えて表情を輝かせた。飢えた肉食獣が獲物を見つけたが如く、潜んでいた狂気や凶暴性が見事に露出している。

 自然と流れ出る澱んだ気配に総隊長は眉を顰め、隊員達は顔を青褪めた。

 しかしそれも、怜が放つ極寒の世界によって強制的に消し飛ばされる。何もかもを等しく氷結させる空間に、皆の背筋に氷柱が差し込まれる感覚を抱いた。


「喜ぶには早いぞ。 迅速即断に進めはするが、連中とて素直に死ぬつもりはないだろう。 逃げられれば探すのも苦労することになる」


「逃げますかねぇ、あいつらが。 プライドだけなら特に強いですから、なんだかんだ勝てるんじゃないかと考えるんじゃないですか?」


「散々に奴等の目的は潰したが?」


「それでもですよ。 創炎っていうのは、奇妙な万能感を与えますからねぇ。 それを長く使い続ければ、自然と精神に影響が――っと、別に創炎そのものを悪く言うつもりはないですからね!?」


 四家に対する群の予測に怜は気にしていないと返し、同時にそんなにも強く影響を受けるものかと思案する。

 確かに創炎には大英雄の炎が根底に存在するが、件の炎に精神に作用する力は無い。あるとしても、それは大英雄が直接干渉した場合だろう。

 俊樹のように無意識に同調した可能性も無くはないが、それならば現在の四家に対して大きな不満を抱く。傍に腐った奴を置くことを我慢など出来よう筈もない。

 例え飲まれて死ぬとしても、それを承知で戦いを選ぶ。

 されど、四家の人間は飲まれてはいない。常識的ではないが、頭を回す程度の自我は十分に備えている。

 

 その上で万能感が湧き上がるというのなら、それはやはり根底にある欲が原因だ。

 人間は弱い。肉体的な性能はどうしても他の動物と比較すると弱者側だ。鍛えたところで拳は象を殺せず、虎の足を止めることも出来はしない。

 如何に知性によってそれらを成し得たとしても、結局の所は何かに頼ったから勝てるようになっただけ。

 創炎も外部からの力であるが、どれだけ引き出せるかは本人の資質による。

 それは自身の実力だと錯覚させる要因となり、自然と思考が勝利のみに支配されてしまう。

 自分達なら勝てる。いや、勝てて当然なのだ。負けることなどある筈もないだろう。


「種の弱さ。 これが連中が諦観に染まらない理由か」


 解ってしまえば単純なものだ。弱いからこそ、強さに溺れてしまうのだ。

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