表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

第1話 はい、よーいスタート

 この島にやってきた全員が集まる食堂。

 そこで、僕は残った面々を前に演説をしていた。それは、この島で起きた事件の解説……そして、真犯人を指摘するという儀式。


「……そして、この事件を起こした亡霊島の幽霊……いや、違う。この殺人事件の犯人。それは……君だ」


 その言葉と共に、この亡霊島で三人を殺した犯人へと向けて僕は指を差し向ける。

 ――それは、この事件で仲良くなれた一人の少女。小さい頃からこの島で暮らし続けていたという人。

 月無 皐月。亡霊島にあるこの屋敷を守っている優しい少女だった彼女。その彼女は僕の指摘にどこか儚い笑みを浮かべる。


「はい、私が犯人です」


 笑顔で。後悔も、懺悔もなく。この凄惨で、残酷な事件を起こしたとは思えないほどに綺麗な笑みを浮かべていた。

 その反応に、僕は思わず聞いてしまう。


「……皐月さん、素直に認めるんだね」

「はい……嘘は嫌いですから。それよりも、探偵さんは凄いです……絶対にわからないとばかり思っていたのに……結局、バレちゃったんですから」

「それはそうだよ。人が起こした事件なら……人に解けない道理はないんだ」

「なら……探偵さんを殺しちゃったほうが良かったのかも知れないですね。誰にもバレずに終わらすためには」


 そんな狂ったことを言う彼女。しかし、それは当然だ。

 犯罪を。それも、探偵が解き明かすような犯罪を犯した人というのは……大きくも小さくも狂ってしまっているのだから。


「でも、ずっと悩まされたよ。皐月さんには常にアリバイがあったはずだからね……でも、その仕組みも解き明かせた」

「驚きました。ずっと考えていたトリックだったから本当にバレてしまうなんて」

「……それで、皐月さん。なんで、こんな事件を?」


 追い詰められているというのに変わらない。

 この島で交流した優しくて、どこか儚げな彼女と全く変わらない笑み。今にも消えてしまいそうな彼女の声色は変わらない。


「亡霊島の伝承を覚えていますか?」

「君が教えてくれたあの伝承かな? この島には神様がいる。生け贄を捧げれば、神が現れて……」

「ええ。ずっと信じていたんです。その伝承を。だから、こうしたんです」

「そんな……! 皐月ちゃん! そんなおとぎ話のために三人も……!」


 この事件に巻き込まれ、演説を聞いてくれている一人がそう叫んだ。

 彼は皐月さんの事を幼い頃から知っているのかもしれない。だから尚更信じられないのだろう。しかし、答えは変わらない。


「そう言われると思いました。でも、私は小さい頃に見たことがあるんですよ」

「見たことがある?」

「はい。神様を見たことがあって……そして、神様に出会えたんです……だから、」


 そういう彼女は一番の笑みを浮かべた。

 ちらりと残った面々を見る。それは狂人を見る目。狂いきった人を見る目だった。そして視線を彼女に戻すと……まっすぐにこちらを見て問いかけてきた。


「探偵さんは信じますか? 神様のことを」

「うん、信じるよ。君の言葉を」

「……ふふ、良かった」


 そう、僕には信じることができる。その言葉に安堵したように彼女は呟いて……いつの間にか、懐から取り出したナイフを掲げた。

 あっという間に、そのナイフは狙いを定めて振り下ろされ……


「なっ……!」

「あぐっ……ごほっ……」


 皐月さんの胸を貫いた。

 彼女がそんな行為をするだなんて予想できなかった。だから、駆け寄って抱き起こす。しかし、その傷が致命傷なことは理解できた。


「皐月さん! なんで……そんなことを……」

「ふふ……初めて……探偵さんを、驚かせれた気がしますね……」

「生きていれば……! 償って……」


 だが、もう彼女の瞳は閉じられてしまった。この亡霊島の事件を起こして三人を殺した犯人。その彼女が最後の犠牲者となり……亡霊島殺人事件は幕を閉じる事となった。

 彼女を抱きかかえて、呆然とする僕に背後から誰かが声をかけてくる。しかし、僕の耳にはもうそれは入ってこない。そして、僕は一言呟く。


「……事件は解決した」


 その言葉と共に、時間が止まる。

 色あせた灰色の世界。それは巻き戻る前の前兆だ。


『ひひひ! そしてぇ! 本当の戦いがここからはじまるってわけだ!』

「……そうだね」


 目の前に現れるのは、異形の存在。

 まあ、見た目だけで言えば可愛らしく見えないこともない。小さな人の形をした影絵に目と口を開けて貼り付けたような存在。だが、その本質は見た目とは大違いの邪悪なものだ。


「というか、本当に見てただけなんだね」

『そりゃそうだぜ! そういう契約だからなぁ! 今回も事件解決までの間、大人しくお前の活躍ってやつをしっかり見させてもらったんだぜ?』

「感想は?」

『ひひひ、退屈な探偵小説だな! まあ、本だったら途中を読み飛ばしてたぜ』


 酷い言い草だが、まあこいつは邪神とかそういう分類だと思うので仕方ないだろう。

 こんな存在と関わることになった自分の数奇な運命に驚く。いやまあ、大本が僕が名探偵になった時点で数奇な運命ではあるか。

 そして、その異形の存在……名をマガツというそいつは高らかに灰色の世界で宣言をする。


『契約だ! お前が挑むのは亡霊島事件! この小さい島で起こった総勢4名の被害者を出した連続殺人事件だ! そこに間違いはねえな!」

「うん、ないよ」


 重要な確認。とはいえ、お互いに騙し騙されではないとはわかっているが儀式としても必要な行為だ。

 確認と契約。異常な存在と対峙する時、それは大切になるのだから。


『お前の開始地点は昨日の12時! そして事件の終了は深夜の2時! さあ、14時間だ! ひひひ、初めてだなぁ! こんなにも長い事件ってのはよぉ!』

「確かにね……でもやることは変わらないよ」


 今まで僕はこの邪神との契約をして挑んできた事件は色々とあった。

 しかし、ここまで長い事件は初めてだ。緊張からか手から汗がにじみ出る。


『そして! そしてお前がやり直す時に代償はちゃんと払ってもらうからなぁ!?』

「分かってる。問題ないよ」


 そして確認は終わる。

 ……ここからは、人でなしの事件解決だ。


「それじゃあマガツ。スタートをしようか」

『おうよ! さあ、見せてみな名探偵! 犠牲者のでない結末って奴を!』

「名探偵じゃないよ。そんな事件はなくなるんだから」

『そうだったな! ひひひ!』


 哄笑するマガツ。視界が歪んでいき、ついに始まる。

 これは名探偵が事件を解く物語ではない。

 これは――僕が、犠牲者を出さずに事件を終わらせる……邪神とのゲームなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ