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7.魔術省と七聖

おまたせしました。

ブックマークしてくださった方がいて、本当にうれしいです。

ありがとうございます!




 ササラナイト家の紋章の入った馬車が、皇城の北西の門へと到着する。話は通っていたので、簡単な手続きと、ハンナと共に女性魔術師と女性騎士による身体検査の後、リリシアの乗った馬車は城門をくぐった。

 ちなみにお付きの執事エヴァンと、護衛のガイス、御者のハロルドは、男性魔術師と男性騎士によるチェックだ。

 皇城での夜会(パーティ)の時とは違う雰囲気に、リリシアはほっと一息ついた。夜会(パーティ)の時は、身体検査はない。


 皇城の門をくぐるときは、それぞれ用向きに合った門をくぐる。

 リリシアの一番なじみのあるのは、南東の門。賓客を迎えたり、皇城の茶会や夜会(パーティ)で使われたりする正門だ。

 だが今回は、北西の城門より入場する。魔術省の敷地で、今回リリシアが招かれた場所があるからだ。さらに奥には、魔術演習場や、模擬空間の設備もそろっている。

 ガイスから、あちらには演習場、その向こうが財政省のある場所…などと説明を聞きながら、馬車は進む。

 ガイスは以前、騎士省に配属された騎士だった。

 しかし、近衛兵に引き抜かれそうになり、自由を選んで皇城勤めを辞めた。そのあと、ふらふらと冒険者などをしていたが、現在はリリシアの護衛以外の時は自由にしていていいという条件の元、ササラナイト家に雇われている。

 だからガイスは、リリシアが邸内で過ごす日は、基本的に冒険者ギルドへ行き、依頼を受けて過ごしているらしい。


 やがて、馬車は魔術省の本館建物の前で停車した。

 馬車の扉をハロルドがあけ、まずはガイス、そしてエヴァンが降り立ち、安全を確認したガイスがリリシアをエスコートする。

 今日のリリシアは、いつもより丈の短いライラック色のワンピース。ワンピースは前がひざ上こぶし一つ分ほどで、後ろに行くほど長くなり、ひざ下あたりまでの長さ。

 その下には乗馬用のズボンと乗馬ブーツをはいていた。

 ミルクティ色の髪も、同じライラック色のリボンと一緒に編み込まれてアップにされ、邪魔にならない。今日は髪飾りもつけず、シンプルにリボンのみだ。

 リリシアのヘーゼルの瞳が、差し色に見えるほどよく映えた。

「やぁ、リリシア嬢。よく来てくれました」

 待っていてくれたのか、魔術省本館の中から出てきたノキアが出迎えた。

「ごきげんよう、ノキア様。本日はお招きありがとう存じます」

 リリシアは両手を胸に当て、カーテシー。今日はスカートの裾が長くないので、つまむ必要がない。

「動きやすい服で来てくれたようだね。ありがたい。じゃあ、さっそく案内を…」

「ノキア、その前に紹介を」

 ノキアの一歩後ろに控えていた背の高い男が、あきれ顔で告げる。

「あぁ、そうだった。これ、うちの副。テイラー」

 ノキアがやる気のない紹介をする。

「………宮廷魔術師副長の、テイラー・ブルーノです。どうぞ、テイラーとお呼びください。補足説明などは、私が」

 あきらめ顔でちらりとノキアを見やり、テイラーは胸に手を当て、一礼した。

 褐色の髪を綺麗になでつけた、30代ほどの脂ののった中々の男前だが、その表情はどう見ても苦労人。先に補足説明は自分がすると言っているあたり、相当だ。

「リリシア・フォン・ササラナイトです。どうぞ、リリシアと。本日はよろしくお願いいたします」

 リリシアはそんな思いを一切口に出さず、にっこりと微笑むと、テイラーに向けてあらためてカーテシーをとった。

「じゃあ、まずは魔力を確認しましょう。ひとまず中へ」

 歩き始めたノキアに従い、リリシアたちは歩き出した。ハロルドだけは、別の人に案内され、厩舎のそばの休憩所での待機となる。


「会議室へご案内いたします。本日は私含め、上位の鑑定眼持ちもそろえてあります」

 テイラーが補足する。

「どうぞ」

 案内役のノキア自らノックもせずにその部屋の扉を開き、ずかずかと中へと入り、テイラーが扉を押さえてリリシアたちを通した。

「お邪魔いたします」

 リリシアが入り口でカーテシーをとり、控える従者たちが綺麗な一礼をすると、室内へ。

 好奇心の丸出しの視線や、じっと見守るような瞳、面白そうな瞳の中、リリシアは背筋を伸ばして美しい歩き姿でノキアに続く。

 背後からさっと一瞬で室内を見回したガイスの瞳が、スッと一瞬細められた。

 広い部屋の中央に、大きな楕円形のテーブルがひとつ、ドンと置かれていて、部屋の奥側に空席がある。

「ここに座ってくださいね」

「かしこまりました」

 リリシアはノキアに示された席へ行き、皆に一礼すると、ふわりと腰かけた。

 その背後に、少し距離を開け、ガイス、エヴァン、ハンナが控える。

「じゃ、始めますか」

「まぁ、待て」

 間髪おかず魔力測定器を手にしたノキアを苦笑しながら制し、テイラーがノキアをひとまず座らせる。部屋の隅に控えていた侍女たちが一斉に動き出し、全員に紅茶が配られた。

 ハンナはススッとリリシアの元に来た侍女に進み出、アイコンタクトをして紅茶を受け取り、代わりにリリシアに配膳すると、再び壁際に戻った。

「リリシア嬢、ご移動でお疲れでしょうから、紅茶を飲みながらひとまずご休憩ください。その間に、先にこちらの紹介をさせていただきます。大まかに、こちらに討伐部、研究部、警護部と並んでいます。みな、名前でお呼びください」

 テイラーは左手を討伐部、向かいを研究部、右手を警護部と紹介した。

 同じ魔術師だろうが、所属する部によってずいぶんと雰囲気が違う。

 ちなみに、貴族の多い魔術省で、名字で呼び合うと混乱する。分家と本家など、同じ家名を持つ者も多い。

 だからといって、許可もなく名前で呼ぶのも失礼に当たるので、こうして会話の最初に名前呼びを許可しあうのがならわしだった。

「こちらから、討伐部のザン・エイド隊長、バラス・ゼン・ラグナスト副隊長」

 まとめて紹介するテイラーの言葉に合わせ、ザンがにやりと笑って頷き、バラスがにかっと笑って手を振った。リリシアは、冒険者に似た雰囲気を二人に感じた。

「続いて、研究部のマグナイト・ヨーグ・キール隊長、コロナ・エリス・ティーナ副隊長」

 リリシアのほぼ真正面に座る二人は、場違いかと思われるほどこの室内では細身だった。楽しそうな瞳で、リリシアを見てぺこりと頭を下げるマグナイトと、わくわくを隠せない様子で半ば身を乗り出している、唯一女性のコロナ。

 研究部といわれて納得の雰囲気。

「最後の警護部、ダグラス・バート・へネス隊長と、リンドバーグ・ロルフ・エルドル副隊長」

 テイラーの言葉に、二人は一度席から立ってそろって一礼。その動作は洗練されてそろっており、魔術師というより、騎士といわれた方が似合いの雰囲気。

 屈強な体格と見るからにスキのないダグラスと、さわやかな笑みを浮かべて、女性に人気がありそうなリンドバーグ。

「あら…」

 リリシアはそっと口元を覆い、驚きのポーズ。

「お顔を存じ上げない方もいらっしゃるとはいえ、七聖のみなさまにお揃いいただくなんて、光栄でございます。リリシア・フォン・ササラナイトです。どうぞリリシアと」

 恥じらう笑みを浮かべて小首をかしげるようにリリシアは会釈した。

 各部の隊長・副隊長の6名に、宮廷魔術師副長のテイラー足し、魔術省の幹部である七聖と呼ばれていることは、子どもでも知っている。

 魔術師長のノキアも合わせ、みんなのヒーローの立ち位置だ。


「さて、自己紹介も済んだことだし、さっそくこの魔力測定器で測ってみてください」

 ノキアも興味津々の瞳で、リリシアに魔力測定器を渡す。

「…しかし…ノキア様。おそらく壊してしまいますわ…」

 リリシアは困った様子で告げる。

「あぁ、大丈夫です。ここは魔術省。修理できる者もたくさんいますし、それに、その魔力測定器は、ちょっと特殊なものでして。どうなるのか、皆も見てみないことには」

 ノキアがにっこりと微笑む。

「…かしこまりましたわ。では、失礼いたします…」

 リリシアは防護布で作られたグローブを外すと、魔力測定器を握った。

「では、まいります」

 そして、興味津々の瞳のなか、スイッチを入れた。

 ぱち、ぱち、ぱちっと、三回小さな音がしたかと思えば、表面に見えていた魔石が色を失う。


「おぉ、やっぱり」

 ワクワクを隠せず立ち上がって、「いぇーい」とハイタッチをして、ぴょんぴょん跳ねまわっている研究部のマグナイトとコロナ。

「あー…」

 眉根を寄せて天井を見上げたダグラスと、隣で顔を覆って思わず机に肘をつくリンドバーグ。

 そして、クックッと笑い声を漏らす討伐部のザンと、ニシシシッと愉快そうに笑うバラス。次第に耐え切れなくなって爆笑し始める。

 ノキアは満面の笑みで、テイラーは苦い表情を隠しきれていなかった。

 部署ごとに違った種類の反応に、リリシアは戸惑って、全員の顔と壊してしまった魔力測定器を交互に見た。


「……あの…?」

 リリシアはきゅっと壊れた魔力測定器を胸に抱き、戸惑いの瞳で見回す。

「…総員、着座」

 テイラーが深いため息の後、ビシッと告げると、全員が姿勢を正し、椅子に座りなおした。

「説明は、我々から」

 スッと手を上げ、顔を覆って撃沈していたリンドバーグが告げると、テイラーは頷いた。

「リリシア嬢、そちらの測定器ですが、実は我々警護部が、三重結界を施していたものです」

 リンドバーグがリリシアに告げる。その言葉に、リリシアは思わず手の中の測定器を見た。

「その三重結界とは…まぁ、規模は違うものの、帝都大結界や、町を覆う結界と同じものだと思って頂ければ」

 リンドバーグの言葉に目を丸くしながらも、リリシアは頷いた。

「ところで…リリシア嬢」

 隣のダグラスが真剣な表情で口を開き、リリシアはそちらに視線を移す。

「話は変わるが、ご自身に魔力がないと思っていらしたようだが、魔術の練習をしたことは?」

 突然変わった話題ながら、真剣なその様子に、リリシアはほんの少し頬を上気させた。

「あの…誰にも内緒で、ひとりの時に兄や姉の真似をして、たまに空に向かって魔術を放つ真似事を…」

 恥ずかしそうに告げたリリシアは、視線を落とした。

 背後のエヴァンやハンナが驚いた雰囲気が伝わる。

 本当に誰も見ていないすきに、こっそりと部屋の窓から外へ向かって、たまに魔術の練習をしていた。『魔力なし(ポンコツ)』だとしても、魔術にあこがれはあった。

 できることなら使ってみたいと思っていた。

 突然後天性の魔力に目覚めるかもしれない。

 そういう可能性を捨てきれなかったから、みんなに内緒で、こっそりとひそかに試していた。

 まさか、こんなところでエヴァンやハンナたちに知られるとは思わなかったけれど。嘘を吐くわけにはいかないし、ばれてしまったが何だか恥ずかしい。

 リリシアはほほを手のひらで包み、少しでもほてりをさまそうとする。


「やっぱりそうだ! だから言ったじゃないか」

 面白くてたまらない様子のノキアと、

「そうですね!」

「これは面白い!」

 そう声を上げる研究部の二人。

 再び討伐部の二人は爆笑し、警護部の二人は撃沈した。


「あー…リリシア嬢」

 テイラーはまとまりのないその様子に、苦い表情を隠せずリリシアに呼びかける。

「リリシア嬢は、聞いたことがありませんか? ティグナは結界の効きにくい土地だ、と」

 ゆっくりとかみしめるようなテイラーの発言に、リリシアは記憶をたどる。

 確かに、聞いたことがある。

「確か…ティグナはほかの地よりも結界が短期間しかもたないので、ほかの地より何度もかけなおされる、と…噂に聞いたことはございます」

 リリシアは記憶を思い返しつつ、こたえた。

「リリシア嬢、それって、いつから言われ始めたか、知っていますか?」

 目をキラキラとさせたコロナに、「いいえ」と、リリシアは首を振る。

「実は、長くて10年ほどのことなんですよ。しかも、だんだんほころびを修正しなくてはいけない期間が短くなっている」

 マグナイトが身を乗り出して告げる。

「10年…」

 リリシアがつぶやき、背後で執事のエヴァンが、珍しく、わずかに表情を崩した。

「あー…おそらく、その…」

 警護部のダグラスが言いよどみ、リンドバーグと視線を交わして、再びリリシアを見る。

「先ほど言われていた、リリシア嬢の魔術練習が、原因かもしれません」

「ゼロ距離ならば、あんなに見事に結界を壊されましたので…」

 苦い表情で告げたダグラスと、苦笑したリンドバーグの言葉に、

「え…?」

 リリシアは呆然として、固まる。

 耐え切れなくなった討伐部の二人の爆笑が、その背後で再び響いたのだった。





まだ、生まれたばかりのキャラたちとの距離の取り方がわかりません!

これからどんどん、自分たちで動いていってくれるはず。

どうぞお付き合いください。

こんなシーン見たい、ここおかしいよ!などなど、何でも教えてくださいね!

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