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5. リリシアの兄と、姉

大変遅くなりました。



 ルイス・アレン・ササラナイトには、2人の妹と、1人の弟がいる。

 2つ違いの妹、ルディア。11歳離れた妹、リリシア。そして、12歳離れた弟、クランツだ。

 ルイスとリリシアが父レイドの第一婦人の子で、ルディアが第二婦人の子、クランツは第三婦人の子だ。

 ルディアの母は、第一婦人だとか第二婦人だとか、あまり気にしない人だったので、幼いころから共に過ごした。同腹の妹は、生まれたときにはすでにルイスが学院に入っていたので、あまり多くの時間を過ごすことはできなかったものの、休みのたびに、暇さえあれば顔を見に行っていた。

 唯一の弟クランツは、母親である第三婦人がルイスの母を避けていたので、年に数回会う程度で、ろくに性格も知らない。

 そんな妹たちと弟の中でも、リリシアは特別な妹だった。

 木と大地の属性と親和性があり、大きな魔力を持つルイスは、長男として、嫡男として期待されて育った。

 2つ年下のルディアは勝ち気でどちらかといえば、ライバルのような存在。

 そんな中、ルイスにとってリリシアだけが、生まれたときから“守るべき妹”だった。

 それが、3歳の魔力測定で妹には魔力がない…いわゆる魔力なし(ポンコツ)だとわかっても、より強く守るべき存在になっただけだった。

 母が強硬にリリシアを養女に出そうとしたが、父が全くその気がなかったおかげで、ルイスも妹と離れ離れにならずに済んだ。


 あの、魔力測定の日まで、ただただ賢くて可愛い妹だったリリシア。

 でも、あの日から、妹は変わった。

 いつも目の前でもう1人の妹ルディアと競うように魔術を見せれば、無邪気に喜んでくれたリリシア。花やお菓子を持ってゆけば、真っ赤になってはにかみながら、満面の笑みを浮かべてくれたリリシア。ともに庭を駆け回り、泥だらけになりながらお転婆ぶりを発揮していたリリシア。

 しかし、あの魔力測定の日から、ルイスの妹リリシアは、幼子とは思えない意思の光を、その瞳に宿すようになった。

 泥だらけで庭を駆け回ることもなくなり、自ら家庭教師を請い、しぐさや歩き方、声の出し方から視線の向け方まで、令嬢としてふさわしいように、完璧にコントロールするようになった。

 最初は失敗も多くあったが、家庭教師だけでなく、そばに控える侍従や侍女にまで、わずかな乱れも指摘させ、それをひとつひとつ克服していった。

 その所作のすべてが、自然にできるようになったころ、ようやく公私をわけ、家族だけの場では、多少くだけた振る舞いもするようになった。

 徹底して自分への妥協を許さないリリシアは、10歳で臨んだ初お披露目(デビュタント)夜会(パーティ)で、鮮烈な印象を周囲に残すことに成功した。

 それから徐々に、『魔力なし(ポンコツ)』と呼ばれていた妹は、『至高の魔力なし(コレクション)』にふさわしいと、ささやかれるようになっていった。

 そばで見てきたからこそわかる。

 並大抵の努力ではたどり着けない域まで、リリシアは一気に駆け上がった。逆風をものともせず、『魔力なし(ポンコツ)』として注目されることさえ利用して。

 今ではルイスがどの夜会(パーティ)に顔を出しても、リリシアをほめたたえ、紹介してほしいと望む人間が尽きることなく集まってくる。

 国内の『魔力なし(ポンコツ)』で一番有名な存在、それがルイスの妹リリシアだ。



 しかし、状況はさらに変わりつつある。

 先日突然やってきた、妹からの使者。急な呼び出し。

 信じられないことに、その妹に、魔力がある可能性があると聞かされた。

 魔力があるのなら、妹の今までの苦労は何だったんだ!と、思わず叫んでしまった自分。

 そこで、宮廷魔術師の長の言として知らされた。

幼いころのルイス自身と、妹ルディアの行動が、リリシアを『魔力なし(ポンコツ)』と誤認させてしまった原因かもしれない、と…。

 ルイスは人生で初めて、全力で頭を抱えてしゃがみこんだ。



 ルディア・パレス・エスティアーゼには、妹が一人いる。

 9つ離れた異母妹は、ルディアの大切な大切な存在だ。

 結婚して実家を離れたものの、ことあるごとにお茶会と称して妹と会っている。

 嫁ぎ先…というよりも、旦那様は完全に掌握していて、ルディアが何をしようと全面的に協力してくれるので、そこは問題ない。

 もちろん嫁ぎ先でも、当然のように客間とは別に妹の部屋は確保しているので、いつ泊りに来てもらっても準備は万端だ。

 そんな可愛い妹のリリシアと初めて会ったときのことを、ルディアはいまだに忘れない。

 2つ年上の兄ルイス、それから母のダイアナと共に、第一婦人のアマリアの元を訪れた。

 ルディアとダイアナに嫌な顔を隠さなかったアマリアだが、ルディアも母も実害がなかったので気にしなかった。まぁ、実害があったら、父のレイドを利用して、やり返すつもりだったが。

 最初からルイスに張り付いていて正解だった。さすがに実の息子と一緒に部屋に入って来ては、止められまい。


 リリシアはルディアにとって、とっても可愛い『着せ替え人形』だった。

 幼いながらもかわいらしい顔立ちと、自分と違った華奢な骨格、ミルクティ色の綺麗な髪…どれをとっても、最高の素材だった。

 それまで人形遊びをしたこともなく、ドレスやアクセサリーにも興味がなかったルディア。

 だが、リリシアに着せ替えするために、王都の流行を観察し、その最先端の一歩先を母のダイアナと予測しながらドレスを仕立て、さらに少しアレンジしたお揃いで自分もドレスを着る。

 とても楽しい遊びだった。

 ドレスやアクセサリーに一切興味がなかったのに、突然流行の最先端を行くようになった娘に、父レイドも母ダイアナも喜んでくれたのでよしとする。

 学院が終ってすぐに、あるいは休みの日に暇さえあれば――兄のルイスに先を越される前に――リリシアの元を突撃した。

 リリシアの母アマリアに嫌な顔をされたり、面会拒否をされたりもしたが、そこは父レイドも巻き込み乗り切った。

 そんな多少の障害など、ルディアの中であってないようなもの。

 何より、一刻も早くリリシアの元に行かなければ、兄のルイスがやってきて、ひとり占めできる時間がなくなるのだ。そんなこと許せない。


 そんなルディアにとって、リリシアが『可愛い着せ替え人形』から『可愛い妹』に変わったのは、あの魔力測定の日からだった。

 リリシアの母親・アマリアが、娘を手放すと言うので、ちょうどよく自分専用の『着せ替え人形』が手に入ると嬉しかった。

 実際はちょっとごたごたして、結局そのまま離れて暮らしているだけだが。邪魔が入らないだけマシになった。

 魔力測定後、ようやく部屋から出てきたリリシアは、『お人形さん』ではなくなっていた。

 燃え盛るような意思を宿した瞳で、逆風の中に立つ幼いリリシア。

 ルディアにとって、最愛の妹が生まれた瞬間だった。

 意思のない者など、つまらない。

 刺激のない人生なんて、苦痛すぎる。

 そんなルディアにとって、リリシアは育てがいのある妹に変わった。

 ルディアは思う。

 兄のルイスは甘い。上に立つ者として優しすぎる。ルディアがもしルイスの立場なら、2つ年下で突っかかってくる妹など、徹底的に”教育“して、自分に絶対服従をさせる。

 もちろん、支配と服従の関係だけだと、服従する側の鬱屈がたまるので、ほどほどにしておくが、手綱は決して放さない。

 認めるのは癪だが、ルイスにはそれだけの力はあるのだ。だが、そうはしない。


 ササラナイト家のもう一人の男、弟のクランツは、ただのそのあたりの石ころ同然だ。

 成長し、『魔力なし(ポンコツ)』という言葉の意味が分かってからのクランツは、年に数回顔を合わせる誰かの誕生日夜会(パーティ)で、ひっそりとリリシアに接近する。

 そして、リリシアが『魔力なし(ポンコツ)』なことを、クランツはあざ笑うのだ。

 兄のルイスは嫡子としてあいさつ回りをしていて知らないだろうが。

 最初にクランツがそれをし始めたのは、クランツが7歳のころ。何を言われても平然と微笑みを崩さなかったリリシアと時間を合わせ、夜会(パーティ)の途中、共に休憩をとった。

「リリシア、“あれ(・・)”についてなんだけど」

「“あれ”…ですか? お姉様」

 ルディアがゆったりとソファに腰かけて、斜め前のリリシアに話しかければ、リリシアは首を傾げた。

「ええ。“あれ”よ…何だったかしら。あの第三婦人の子よ」

 有象無象の名前など、わざわざ覚えることはない。あぁ…と、リリシアもようやく理解したようだ。

「“あれ”は、ササラナイト家の粗大ごみね。親子ともども」

 ルディアがふんっと言い切ると、リリシアが思わずくすりと笑った。

「他はみな、何か役目があるわ。侍従や侍女、丁稚でも、何かの役割を果たしている。そこの植物だって、緑で私たちを癒す、目を楽しませるという役割があるわ」

 窓の向こうの庭を見やって、ルディアは告げる。

「ルイスは嫡男の役目を、私は家の強化をするために社交を、リリシアはササラナイトを有名にして、虜にするための役割をそれぞれ果たしているわ。でも…」

 ふんっとルディアは鼻で笑う。

「“あれ”は、何の役目も果たさない。無益どころか、ぜいたくはして消費する。おまけに変な知恵までつき始めて、もはや害毒にしかならないわ。お父様もとっとと燃やしてしまえばいいのに。許可さえもらえれば私が遠慮なく事故に見せかけて燃やすのに」

 ふぁさりと扇で自身をあおいだルディアの得意な魔術は、火だ。

「私、ああいった無益な害獣は本当に嫌いなの。役には立たないくせに、ねちっこく狙ってきて、足を引っ張ろうとするんだから。害獣なら害獣らしく、おとなしくはいつくばっておけばいいのに」

 遠慮のないルディアの言葉に、リリシアはふふっと笑い、控えている侍女たちもくすくすと笑っている。

 ルディアの物言いには慣れているうえ、少々過激だが間違ったことは言わない。

 “きちんと役目を果たしている”使用人を馬鹿にすることはないし、認めている。だから、使用人からも、その言動のわりにルディアは好かれているのだ。

「ひとつ、覚えておきなさい、リリシア。ああいう害獣は、刺激すると面倒なの。喚き声が聞こえない場所で封印して、じわじわと追い詰めるのが一番よ。ああいう()()は、どこにでもいる。有益な人間なのか、無益な人間なのか、それとも害獣か…きちんと見極めて使()()()()()のが、私たちの役目よ」

 鮮やかな赤に彩られた唇を笑みの形にして告げたルディアに、

「ええ、お姉様。よく、理解できましたわ。心にとめておきます」

 にっこりと満面の笑みで、リリシアはこたえた。

 リリシアは、教えたことをどんどん吸収して、身に着け、実践する。ルディアにとって、本当に育てがいのある、素晴らしい妹なのだ。

 妹が『魔力なし(ポンコツ)』だなんて、気にしたこともなかった。確かに、魔力があればこの国ではとても生きやすいけれど。

 妹はそんなのを関係なしに、高みを目指して、のし上がっている。可憐な笑みを浮かべながら、その芯は揺らがない。

 そんなルディアの可愛い妹リリシアから、使いが来た。

 急ぎで面会したいと。

 概要を確認すれば、『魔力なし(ポンコツ)』といわれたはずの妹に、魔力があるかもしれないと聞いた。

「あら、それはよかったわ。魔力がなければ今が最高峰だけど、あるのならまだ目指せる高みがあるじゃない」

 その報告を受けたとき、ルディアはこれからまた面白くなりそうだと笑んだ。

 しかし、続いて、最初に『魔力なし(ポンコツ)』だと判断されたのは、ルイスとルディアが幼いころにリリシアのすぐそばで魔力合戦をしていたからだと聞いて、珍しくルディアの表情はかたまった。

 これはまずいかもしれない、だって自分と母親が手に塩かけて育てた妹だから…と、ルディアは心なしかひきつった笑みを浮かべた。






2日に1回と思っていたのですが…3日目になってようやく投稿。

何も決めずに書きだしたので、さすがに生みの苦しみを味わっています、笑

まだ探り探りではありますが、どうぞお付き合いください。

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