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3.さわやかな青年?と、リリシアの魔力の秘密

ようやく投稿できます。お話を書きつつ、そのまま投稿って難しい。



 あの後、すぐに羽を落とされたワイバーンは討伐され、結界は解除された。

 ノキアが事後処理に戻り、リリシアたちも護衛騎士と無事に合流することができ、予定より少し遅くなったが、日が暮れる前にティグナの町へ入ることができた。

 ちなみにティグナは、帝都から近いこともあり、中規模の町だ。しかし、帝都よりどこかのどかな雰囲気があり、リリシアは気に入って居る。




 そして一週間後。

 リリシアは、帝都にあるササラナイト家の別邸のテラスで、侍女の入れてくれた紅茶を一口飲み、ほうっと満足げな吐息をもらす。ほんのりと頬を染めたその姿もまた、少女の持つ危うい色気を感じさせるが、幸いここにいるのは、侍女頭のソニアと、エヴァンくらいなので大丈夫だ。

 ソニアはササラナイト家で一番紅茶をいれるのがうまく、普段ハンナの入れてくれる紅茶と同じ茶葉を使っているとはとても思えない。

 もちろん、ハンナの入れてくれる紅茶も美味しいのだが、やはり侍女頭のソニアは別格なのだろう。

 そのとき、勢いよく扉が開き、大股で背の高い紳士が部屋へと入ってきた。


「リリシア、待たせた」

 勢いのまま、リリシアに抱き着こうとした紳士の額に、ピトリと扇が突き付けられる。

「お帰りなさいませ、お父様。わたくし、紅茶を持っておりますわ。火傷したらどうしてくれますの?」

 父をけん制した扇を下ろし、優雅な仕草でリリシアはカップをソーサーに戻す。

「そんなの決まっているじゃないか! この父がふーふーして、なでなでして、ラディアの元まで抱っこで連れてってやるぞー」

 はっはっはっと笑いながら、リリシアの父、レイドは娘を抱き上げた。ちなみにラディアとは、ササラナイト家お抱えの医者だ。

 一見、近寄りがたいほどの美貌を持つレイドだが、リリシアの前では基本的に残念仕様だ。普段は怜悧な光をきらめかせているブルーグレイのその瞳も、今はでれでれと、とろけそうな様子で娘を見つめている。

「お父様、わたくしこれでも、もう14歳です。14の娘を抱き上げるのは、どうかと思いますわ」

 ほおずりされながら、淡々とリリシアは告げる。反応を返すほうが面倒なことになる。

 レイドに続いて入室した家令のロベルトも、ソファのわきに控えていたエヴァンも、何とも言えない微妙な瞳で主を見ている。ソニアはあきれたため息を一つ吐くが、無言のままレイド用の紅茶を用意している。

「もうすぐ魔術師長がいらっしゃるお時間ですわ。その前にわたくしからお話を聞きたいとおっしゃったのは、お父様でなくて?」

 ちろりと父を流し見たリリシアに、

「そんな色っぽい目をしたらダメだー!」

 などと叫びながらも、しぶしぶレイドは娘をソファに戻した。


「それなのだが…意味がわからぬ。私の可愛いリリシアは、確かに完璧に美しく素晴らしく育ったが、魔力はなかったはずでは? それとも、私の知らない間に、魔力と魔力回路が解放されたとでも?」

 リリシアの向かいのソファに座りながら、レイドは珍しく真面目に娘を見つめた。リリシアに魔力があり、魔術が使えるなれば、教育や貴族としての立場などが、大きく変わることになる。本人が知っていながらレイドに報告がないなど、愚の骨頂だ。


 基本的にこの世界の貴族は、3歳の誕生日に魔力や属性を測定する。それまでは爆発的に体も成長するし、正しい結果がでないことがあるからだ。

 ひとりで魔力測定の器具を握ることもできるようになり、大人の静止の言葉などが理解できる年齢が3歳。また、ほとんどの子どもがイヤイヤ期を脱した時期でもあるから、測定しやすいという理由もあって、3歳の誕生日に魔力測定をするのだ。

 この3歳の魔力測定で、リリシアは魔力がないと判断された。


 ちなみに庶民の場合は3歳になっても特に魔力を測ったりしないが、だいたい10歳になるころまでに、魔力を持つ子には兆候が表れる。

 兆候が表れた子は神殿に行って、どの程度の魔力か見てもらう。

 神殿で測定された魔力の大きさや属性によって、今まで通りちょっと便利に魔力を利用しながら生きるか、魔導具を制作して生きるか、魔術学校へ行って華々しい道を歩み始めるかに分かれる。

 こうして貴族も庶民もたいてい10歳くらいまでには魔力の有無はわかる。


 だが、ごくまれに、10歳を過ぎた後でも、後天的に魔力を発現する人もいる。最年長で52歳の女性に魔力が発現した記録がある。

 なぜ後天的に魔力が発現するのかは、ある程度解明されてきて、大きな理由はふたつあるとされている。

 ひとつは、大きすぎる魔力に本人が無意識に封じ込めている場合。無意識下で封じられていた魔力が、本人の体の成長で、人体(うつわ)が魔力に耐えられるようになったころ、突如として開放される。

 もうひとつは、魔力はあるのに魔力回路のどこかに不具合があり、魔力を使えなかった場合。そしてその魔力回路が、何らかのきっかけで正常に動き始めることがある。たいていは魔物に遭遇して命の危険を感じたり、魔導具が壊れた際にその衝撃で発現したりと、事故が多い。



「先日のワイバーンとの遭遇で後天的な魔力が発現した可能性もありますので、お嬢様には昨日、魔力測定器をお使いいただきました」

 エヴァンはレイドに告げる。

「で、結果は?」

「魔力測定器は壊れましたわ。これまでのように。()()()()()()()()()()()()

 レイドの疑問には、リリシア自身が淡々と答えた。

 そうなのだ。リリシアが魔導具を触ると、必ず壊れる。使えないだけなら不便はあっても、別に構わないのだが。

 触って問題がないのなら、リリシアが直接使う一部のもの…魔導ランプや魔導温水器などを、魔力のない庶民が良く使うものに入れ替えればいい。それらはスイッチ部分に魔石が組み込まれていて、かちりと押して魔石が触れ合うことで、魔力が触れたと判断されて作動するようにできている。

 しかし、そんなものですら、下手に触ると壊れてしまう。具体的には、魔石がむき出しになったスイッチだとか、スイッチ周辺が密閉式でない物はたいてい壊れる。 

 だから今では、身の回りの…リリシアが触れるようなものはすべて、結界の役割をする防護膜で可能な限り覆って、リリシアが直接触れないようにしている。

 この体質は意外とやっかいで、他の貴族の家へお邪魔するときなどは、基本的に防護膜を縫い付けた手袋をして出かけ、外すときは極力周囲の物に触らないようにしている。魔導具はただでさえ高価だ。それをよそで壊してしまうわけにはいかない。

「……3歳のころと変わらぬのか…。しかし、カレントス魔術師長がおっしゃるのなら、何か理由があるのだろう」

 レイドは思案顔でつぶやいた。こればっかりは、本日の約束を取り付けてきたノキアに会わないことには、どうにもならない。




「本日はお時間いただき、恐縮です」

 そう笑顔でレイドと握手しているさわやかな青年に、

「…誰っ?」

 思わず、といった様子でハンナが口走り、エヴァンとリリシアも顔を見合わせていた。

「先日はどうも、リリシア嬢」

「おいでいただき、光栄ですわ。………カレントス卿…ですわよね?」

 気負った様子もなく、気楽に挨拶をする青年に、ふわりと優雅なカーテシーで挨拶しつつも、慎重にリリシアは問う。

「あぁ、先日はあんな状況でしたからね。改めまして、一応、宮廷魔術師長のノキア・カレントスです。どうぞお二人とも、ノキアと」

 ははっと笑いながら、のんきにノキアは言うが、問題はそこではない。

 ぼさぼさだった髪がさっぱりとして、先日は見えにくかった顔が見える。髪型が変われば、こうも人が変わるのかと思うほど、柔和な印象のさわやかな青年になっているノキア。

 先日は何だか意外に思えた優雅な一礼も、今日は違和感なく板について見える。

 ぼさぼさな時は、何だか暗い印象だった髪も、撫でつけられている今は、美しい黒髪なのだとわかる。

「その髪型、よくお似合いですわね」

 思わずリリシアは微笑んだ。なぜ前回はそうしていなかった、という内心の思いもほんのちょっぴり込めて。

「いやぁ、面倒だったんですが、さすがに伯爵家に行くなら身なりを整えろと、部下たちに言われましてねぇ」

 あはは、と、気にする様子もなくノキアはこたえた。この分では普段は常に、あのぼさぼさなのだろう。

 ちなみに魔術の実力が何より優先されるこの国において、実力者と認められた人たちの社会的地位は、その辺の伯爵より上だ。だから、言葉遣いも含め、ノキアが礼儀にのっとった行動をしなくても、よほどでない限り許される。

 しかし、さすがに周囲の者が身なりくらいは整えておけと、忠告してくれたらしい。



 うながされるままソファに座るノキアに、「もったいない…」と、ハンナが小さくつぶやきつつ、部屋の隅へ行き、気配を消した。先日同行していたという理由から、今日のハンナはソニアの助手だ。必要な時以外は、侍女は気配を消して部屋の隅にいるのが常だった。

 ソニアとハンナの手によって、応接室のテーブルには目にも美しい菓子と紅茶が並ぶ。

 そのお茶を飲みながら、ふと、穏やかな会話が途切れた。

「ノキア魔術師長。娘と執事からうかがったのですが…娘を魔術省へお誘いになったとか…」

 今日の天候の話などでやんわりと会話をしていたレイドが、不意に雰囲気を変えて本題に入る。

「ええ、そうです。しかし、伯爵家のお嬢様ということで、陛下などにもご相談してみたんですが…何だか要領を得なくて」

 ポリポリと頭をかくと、ノキアはまた紅茶を一口飲んだ。どうやらソニアの入れる紅茶が気に入った様子。

「というと?」

 レイドがうながす。

「それがですね…私は社交には興味がなくて知らなかったのですが、リリシア嬢が『至高の魔力なし(コレクション)』だと認識されているようで。このリリシア嬢で()()()()なんて、あるわけないですよねぇ」

 まさかー、と笑うノキアに、レイドとリリシアは顔を見合わせる。

 控えていたロベルトとエヴァン、ソニアとハンナも思わず視線を交わしている。

「……え? まさか、()()()そんなこと思ってたりします?」

 その雰囲気に、さすがのノキアも気づいたようだ。

 父と視線を交わしてから、こほん、と、リリシアが小さな空咳をして、ノキアをまっすぐに見つめる。

「ノキア様、その件についてなのですが…わたくしは生まれてからこれまで、一度も魔術を使えたことがございませんの。3歳のころの測定でも、念のため昨日魔力量を測ってみたときも、魔力測定器で測ることはできませんでした」

 自分のことだから自分の口で、と、リリシアはノキアに告げると、

「えぇぇぇ? 魔術、使ってたじゃないですか、先日。まさか、無自覚?」

 目を丸くしたノキアは、まいったなぁ…とばかりに、ノキアは再び頭をかいた。

「……魔術を使()()()()()? ()()()()()?」

 レイドが真偽を見極めるような、どこかいぶかしげな表情で、ノキアを見た。

「うーん、まさか、こんな展開になるとはなぁ。これはこれで興味深いが…」

 ノキアはふうっと息をつくと、出されていた茶菓子のクッキーを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しつつ、何かを考えている様子。そして、紅茶を一口飲んで、レイドとリリシアを改めて見た。


「何だかおかしなことになっているので、確認させてください。まず、3歳のころと昨日、魔力量を測ったとおっしゃいましたね?」

 ノキアの確認に、リリシアは「ええ」と、頷く。

「その時、()()()()()()()()()()()()()()?」

 ノキアはリリシアを、そしてそのあとレイドを見た。

「壊れましたわ」

「リリシアが3歳の時も壊れたな。ちなみに3歳のころは、魔力量が測りきれないのかとも思い、最上位の測定器で測ったが、それも壊れた」

 リリシアとレイドの答えに、ノキアは頷く。

 魔力測定器は、その測定器の上限を大きく超えた魔力を感知すると、壊れてしまうことがある。だから、最上位の測定器で測りなおしたというのは、あながち間違っていない。

 二人の言葉を予測していたかのように、満足げなノキア。

「では、もう一つ質問を。なぜ、あそこにある魔道ランプには、全体に防護膜がされているのでしょう? こちらの応接室に案内されるまで見た魔導具にも、すべて、防護膜がかかっていましたよね」

 ノキアは部屋を明るくしていた魔道ランプを示した。どうやら応接室に来るまでの間も、室内を観察していたらしい。のほほんとして見えて、その辺りはさすが宮廷魔術師のトップだ。


「それは…万が一リリシアが触れてしまえば、壊れるからね。リリシアが気兼ねなく、不意に触れてもいいように、我が家の魔導具はすべて防護膜で巻いてある」

 レイドはこたえた。

()()()()

 ノキアは重々しく告げるが、レイドとリリシアは首を傾げる。

「普通、『魔力なし(ポンコツ)』と呼ばれる人が魔導具を触っても、何の問題もありませんよ。ただ、()()()()()だけで」

 ノキアの言葉に、部屋にいる全員が戸惑った表情になる。

「…ですが、わたくしが触ってしまうと……」

 戸惑いつつも、リリシアが己のほっそりとした手を見る。そうならば、楽だったのに、と。

「いや、だって、リリシア嬢、()()()()()()()()()()じゃないですか。話を聞く限り、無意識にでしょうけど」

「え…?」

 ノキアの言葉に、リリシアが心底困惑する。

「リリシア嬢の魔術は、『無効化の魔術』と呼ばれる種類のものです」

「『無効化』…」

 ノキアの言葉をリリシアが口の中で転がす。

「魔導具が壊れるのも、無意識に()()()()()()しているからです。魔石を取り換えれば使えるはずですよ」

「では、測定器は…」

 レイドがノキアの言葉に呆然とつぶやく。

「測ろうとしたと同時に、無効化されたんでしょうね。……ですが、それを3歳の時点で常に発動しているというのは、ちょっとおかしい」

 ノキアがゆっくりと、レイドに視線を定める。


「リリシア嬢が乳児や幼児のころ…要は最初の魔力測定を受ける3歳以前に、リリシア嬢の周囲で安定していない魔術をよく使っていたり、魔術のコントロールが悪かったりする人はいませんでしたか?」

「…………あ……」

 ノキアの言葉に目をみはり、レイドはリリシアを見る。部屋にいたロベルトとエヴァン、ソニアも思わず目線を交わす。

「……あー…、リリシアは3番目の子なのだが…この子の兄と姉が、常にリリシアにいいところを見せようと、幼いころからよくそばで魔術を使っていたような…」

 レイドは思い出しつつ告げる。むしろ競い合って激しく使いあっていた。子どもたちの魔術の練習になるので、特に止めた記憶もレイドにはない。

「あぁ、()()でしょうね。気づかないうちにリリシア嬢が本能で危ないと思う場面が何度もあったんでしょう。そのため自分を守るのに、無意識に無効化の魔術を使うようになり、それが3歳になるころには日常化したので、測定器も壊れたんでしょう。実際、そんな不安定なノーコンの魔術をそばで見せられながら、リリシア嬢は怪我ひとつしなかったんでしょうし」

 うん、うん、と、満足げにノキアは頷く。確かにその通り、リリシアが魔術でけがをした様子がなかったので、レイドは放っておいたのだ。実際は危ない場面があったというのか。

 たらりとレイドのほほに汗が伝う。いまさらながら、放っていたのはまずかったのか、と反省する。

「リリシア嬢の魔力量で、『無効化の魔術』がメインならば、宮廷魔術師でもトップレベルの鑑定眼を持つ人間にしか、魔力は見えないでしょうしねー」

 いやぁ、掘り出し物を見つけてよかった、とばかりに笑うノキアの一方で、

「……お父様、ちょっと、のちほどお時間いただいてお話いたしましょう。お兄様もお姉さまもぜひご一緒に」

 リリシアは素晴らしく輝く笑みを父に向けた。可憐なはずのその笑みに、なぜだかレイドは背筋が凍るのを感じた。


この後、どんな流れになるのか…まだ私にもわかりません。

ノープラン発進のお話ですので。

何だか寝不足で文章変なので、ちょっと改めて手を加えたいと思います…

とりあえずはご容赦を…( ;´Д`)

2019/11/5、数行ですが内容を修正しています。

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