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19. リリシアとポーション

今回は長いです。9000字超えてます…




「…何をやってるんだい? リリシア」

 久々にリリシアのお休みの日。

 妹と久々にお茶でもしようと部屋を訪ねたのだが……目の前の光景に、ルイスは首をかしげる。


 リリシアの目の前のテーブルーーいつもリリシアの部屋にある可愛らしい丸テーブルではなく、作業用の長机ーーには、明らかに飲みきれない量の数種類の紅茶、数種類のジュース、そしてコーヒーが並べられ、リリシアが覚えたての魔術で魔力を注いでいる。


「あら、見つかってしまったわ。でも、ちょうどよかった。お兄さま、頼んでいたものは持ってきていただけたかしら?」

 リリシアの問いに、ルイスは自らの侍従、マルクを振り返る。

「どちらにお置きいたしましょうか?」

「あちらの机にお願い」

「かしこまりました」

 リリシアの指示に、マルクが壁際にある勉強机兼、最近は執務机にもなった机に、小さな箱を置いた。


「…それで? 魔力回復ポーションなんて、どうするんだい? それに、この作業は一体…」

 問いかけるルイスだが、その間にもハンナは次々とリリシアが魔力を注ぎ終えた飲み物を小瓶に移して、蓋をしている。

「お兄さま、こちらね」

 疑問に答えてもらえないままだが、ルイスはリリシアに指示されるままの場所へ移動する。

「ハンナ、封をしたのを、そのままどんどんお兄さまの前へ。お兄さまは、全ての瓶に保存魔法をかけて下さいませ」

 当然のように指示され、ルイスはとりあえずどんどん保存魔法をかけていく。

 保存魔法は無属性で、なおかつ学園に通った者なら使えて当然だ。


「これは…ポーションかい?」

 それにしては、薬草も見当たらないし、飲み物とリリシアの魔力だけしかこの場にないが…と、ルイスは首をかしげる。

「あとでお兄さまにもいくつか差し上げますわ。こちらのポーションは、今のところ、これだけの効果は確認されていますわ」


 リリシアに渡されたメモを見るルイス。

『毒・麻痺・魅了・混乱・暗示・呪・石化・沈黙・忘却・異常睡眠・幻覚・暗黒・スロー・恐怖・恐慌・能力低下(ステータスダウン)・氷結(氷状態は解除される。ただし、凍傷にまでなっていた場合、痛みはなくなるが、傷の回復はしない)・火傷(痛みはなくなるが、傷の回復はしない)・出血(ただし、傷は回復しない)・欠損(痛みはなくなり、止血するが、欠損部位の回復は見られない。上位の神聖回復魔法をかける、あるいは上級ポーションによる欠損回復は問題なく使用可能)の、無効化。 ※拘束や、欠損に対する効果はなし。体内能力低下や、神経系には対応できるが、物理(傷や欠損など)は、痛みは除けるものの、回復する効果はない』


「……ん?」

 ルイスは、眉根をもみほぐし、もう一度まじまじと紙を見る。

 やがて、天井を見上げると、無言のまま、マルクにその紙を回す。

 マルクも珍しく驚愕の表情で紙を見て、リリシアを見て、再び紙を見る。


「しかも、材料は液体とわたくしの魔力だけ。何味だってできますわ」

 ふふっと微笑んだリリシアに、ルイスとマルクは呆然とする。

「いや、そんなもの…」

「できるんですわ」

「……そんなものができてしまえば…これはポーション革命が起きるぞ!」

 ルイスがおののく。


「こういった状態異常の無効化のみしか、作れませんけどね。今、魔術省で、最終の安全性試験と、効果試験が行われていますわ。わたくしの魔力が特殊型だからできたもので、他の方が無効化の魔術を使っても、ただの魔力水になりましたの」

 リリシアが最後の液体に魔力を込め終わり、にっこりと微笑む。

「魔術省の認証がおりたら、売り出せますわ。ですが、わたくししか作れないので、魔術省で規定量作る以外では、ササラナイトで独占販売をしてしまおうかと」

 リリシアの言葉に、ルイスは絶句する。


「これ一本に、どれだけの価値があると…」

 ルイスは、ちょうど先ほど話を聞くまで保存魔法をかけていたオレンジジュース味を手に、言葉を失う。

「手が止まっていますわ。…だから、たくさん認証が下りる前から、作りだめしていますのよ」

 何でもないことのように、リリシアは微笑む。

 呆然としつつも、ルイスは保存魔法を再びかけ始めた。


 ちなみにマルクは、リリシアの“手が止まっている”という言葉に、サッと動き始めている。

 何の指示もないまま、先ほどから自然とハンナからルイスへ、ルイスから部屋の隅に置かれた別の長机へと、ポーションをひたすら運んでいる。

 手が空けば、ハンナの作業も手伝うあたり、さすがはササラナイト家の使用人だ。


「今後、これは貴族にとっては、当然の持ち物になりますわ。冒険者も、求めるかもしれませんわね」

 リリシアは、作り終えた箱ごとに、「ハンナの紅茶味」「りんごジュース味」などと書いたメモを貼っていく。

 瓶には触らないように、慎重に。


「材料の茶葉やジュースは、ササラナイトのものですから、()()、お父さまの私費から出していただきますわ。こちらは例のペナルティということで」

 リリシアが『魔力なし(ポンコツ)』だと認識される、ルイスとルディアの行動を止めなかったツケだ。


「今のこの作業も、魔力回復ポーションも、お兄さまのペナルティですわね。でも、マルクは巻き込まれたのですから、今回の分、ちゃんとお手当をお兄さまの私費から、出してくださいませ。ハンナは、利益の数パーセントのお手当ね」

「「いえ、私は…」」

 驚いたように手を止めたハンナとマルクが、リリシアを見る。

「あら、ダメよ。明らかに侍従や侍女のお仕事の範疇を超えてますもの。ハンナへのお手当の支給は、実際売りに出してからになるので、まだ後になってしまうけど…。マルクはすぐにでも、お兄さまから頂くといいわ」

「…あぁ、そうだな。確かに通常業務から逸脱しすぎている。今月の給金に足しておこう。私の私費で」

 ルイスが苦笑と共に告げる。


「わたくしにしか作れないから、流通量は増やせませんし、希少価値もありますわ。原価も瓶代と各種飲み物代くらいで安くすみますし、利益を考えたら、ポケットマネーから材料費を出しても、販売委託料で、お父さまには十分プラスよね」

 リリシアの言葉に、そこまで考えてたのか…と、ルイスは驚きつつも頷く。

「委託料の割合と、わたくしの取り分、ハンナや、そのうちきっとエヴァン、できればソニアへのお手当の割合もお話しなくては…。お兄さまにご相談でもよろしくて?」

「いや…影響がありすぎるから、さすがに一度父上も通さないと。しかも、リリシアの事業ならば、余計にね」

「では、お兄さまから一度、お話しておいて下さいませ。追加で、適正な値段帯のご相談もしたいですわ。紅茶味でしたら、茶葉ごとに値段がほんの少し上下するでしょうし。それからソニアに紅茶を入れてもらえれば、より高く売ることもできると思いますの。その辺りも含めて」

「わかったよ」

 ルイスは頷く。




◇◇◇◇◇◇




「リリシア。魔術省に呼ばれたんだけど、何か知ってるかい? 例のポーションの件?」

 レイドがリリシアの元を訪れ、熱烈な親バカを発揮した後、首をかしげる。

「…ええ。ちょっと面倒なことになりましたのよ…」

 レイドの腕から逃れながら、リリシアは頷く。


「面倒?」

「…詳細は、魔術省にてお知らせいたしますわ」

「……わかったよ」

 口外できないことを理解したレイドは、頷いた。




 そして、その翌週。

 レイドが魔術省を訪れると、魔術師長のノキアと、副魔術師長のテイラーと共に、リリシアが迎えてくれる。

 それだけでレイドは、重大な事態だと悟る。


「お久しぶりです、レイド殿」

「お呼び立てして申し訳ございません、ササラナイト伯爵。魔術省宮廷魔術師副長のテイラー・ブルーノと申します。どうぞ、テイラーと」

「レイド・ヴィクター・ササラナイトです。どうぞレイドと。お久しぶりです、ノキア魔術師長。お会いできて光栄です、テイラー副長」

 ノキアとレイド、そしてテイラーとレイドが握手する。

 ちなみにノキアは昨日、テイラーに捕まって、無理やり髪を切られていた。


「実は、商業ギルドと冒険者ギルドのギルド長もお呼びしています。同席でも大丈夫でしょうか?」

「ええ。構いませんよ」

 テイラーの問いに、レイドは「ますますただごとではないな…」と思いつつ、答えた。


 商業ギルド長のトゥエンダル・ヨーグ・マナーザート伯爵は、レイドも馴染みなので、軽く挨拶する。

 冒険者ギルド長のオージー・バート・カラーザ子爵とも、互いに挨拶し合う。

 オージーは、さすがに元Sランクの冒険者だったこともあり、壮年ながら、がっしりとした体格は衰えていない。

 オージーは庶民出身だが、その業績によって男爵に、そして子爵へと位上がりしたほどの人物だ。


「さて、皆さまにお集まり頂いたのは、こちらのポーションについて、皆さまにご意見をたまわりたいからです」

 ノキアがズラリと様々な色のポーションを並べる。

「あとの説明はテイラーから」

 ノキアらテイラーに丸投げする。


「レイド殿はご存知でしょうが、お付き合い下さい」

 テイラーは一言断り、説明を始める。

 これらのポーションは、リリシアが作ったこと。

 作り方については、今のところ秘匿するが、作れるのはリリシアしかいないこと。

 どんな味でもできること。

 無味、りんごジュース、オレンジジュース、コーヒー、紅茶などを見せる。

 その時点で、「すごい…」「画期的だ…」とつぶやいていたトゥエンダルとオージーは、続いて紹介されたポーションの効果に驚愕する。


「ひとまず、ここまでの効果を実感していただきましょうか。こちらは、痺れ薬入りの紅茶と、医療用の塗る麻酔薬です」

 テイラーとリリシア、ノキアが手分けして、小皿に入れた麻酔薬と、小さなカップに入れた紅茶をそれぞれに配る。

 人払いをしてあるため、侍従や侍女は部屋に居ない。

 当然のようにリリシアに配膳され、レイドはデレっとしそうな顔を、無理やり引き締めた。


「我々自身も同じ実験済みなので、安全性は保証します。防毒などの魔道具をお持ちでしたら外してください。そして…まずは、紅茶を半分だけ飲んで下さい」

 テイラーの言葉に従い、3人はそれぞれ魔道具を外し、紅茶を半分飲む。リリシアが砂時計をひっくり返した。

「この砂時計が落ちきる頃に、効果が出てくるでしょう。その間に、お好きな味をお選び下さい」

 テイラーに言われ、レイドが紅茶、トゥエンダルとオージーがコーヒーを選ぶ。

「痺れてくると開けにくいので、今のうちに蓋を開けておいて下さい」

 テイラーの言葉に3人がポーションの蓋をあけると、ポンッという音と共に、コーヒーと紅茶のいい香りが広がる。


「まさかコーヒーがこんな形で飲めるとは。先日、レストランでいただきましたよ」

 トゥエンダルが瓶をまじまじと見ながら、レイドに告げる。

「おや、ありがとうございます。今度、豆をお贈りしますよ」

「それは嬉しい」

「私は初めて飲みます。実験だというのに楽しみですな」

「すこし苦味があるので、苦手な方もいますが…お気に召すようでしたら、オージー殿にもお贈りしますよ」

 そんな会話をしているうちに、砂時計がほとんど落ち、3人は痺れてくるのを感じた。


「恐らく、痺れて動きにくくなっているかと思いますが、ご自分で飲めますか?」

 砂時計が落ちきると、テイラーが確認する。

 3人は頷き、何とかポーションを飲み干す。

 効果はすぐに現れ、3人は感嘆した。


 続いて塗る麻酔薬を無効化、ついで、ミルクやシロップをポーションにして、先に痺れ薬入りの紅茶に入れて飲む実験、同じく塗る麻酔薬にポーションを混ぜて指をひたす実験をして、効果を確認した。

 

 感心しきりのトゥエンダルとオージー。だが、レイドはじっとテイラーを見る。

 これだけなら、確かにすごいが、レイドたちを呼ぶほどではない。

「ここまでは、レイド殿もご存知でしたね?」

 テイラーの確認に、レイドは頷く。

「実はその後の最終試験で…さらなる効果が発見されました。その効果をご覧いただくために、模擬空間へ移動しましょう」


 そうして皆が、模擬空間へ移動した。

「追加で確認された効果なんですが…まずはオージー殿、こちらの箱を」

 テイラーに渡された小さな小物入れを、オージーは受け取る。

「中身入っていません。今回関係ないので。ちなみにその箱、あきますか?」

 テイラーに問われ、オージーは箱を開ける。何の変哲もない、ちょっと小洒落た小物入れ。


「ではその箱に、初級の保護魔法をかけてみてください」

 テイラーに言われるままに、オージーが魔力を込める。

「トゥエンダル殿、レイド殿、開かないことを確認していただけますか?」

 2人が確認すると、初級とはいえ、きちんと保護魔法がかかり、開かない。

「では、レイド殿。こちらのポーションをかけてください」

「まさか…」

 ポーションを渡されたレイドは、目を見張る。


 さらさらと小物入れにレイドがかけると、薄い氷が割れるような、小さなパリンという音がした。

 顔を見合わせ、トゥエンダルが小物入れをあけると、何の抵抗もなく、小物入れは開いた。

「…ということは、結界も…」

 オージーがつぶやく。保護魔法は、結界の簡単な応用だからだ。

「はい。初級でしたら。中級になると、酒樽3杯分ほど。上級では、酒樽250杯ほどかければ、結界を破ることができました。結界石を利用したものは、さすがに実験していませんが」


「…なるほど、これは確かに問題になりそうですね」

 トゥエンダルが、納得の面持ちで頷いた。

 結界や保護魔法は、大切なものを守るためにかけられることも多い。

 ポーションを多く手に入れることができれば、誰にでもそれを破ることができるとなれば、問題だ。


「実は、その実験中、他にもわかったことがありまして…」

 テイラーがオージーから小物入れを受け取りながら、苦笑する。

 まだあるのか、と、3人は顔を見合わせる。


「申し訳ありませんが、お三方、初級か中級でよろしいので、何か魔術をあの的に向かって放っていただけますか?」

 テイラーの要請に、3人はそれぞれ火弾(ファイヤーボール)と、水槍(ウォーターランス)氷弾(アイスバレット)を的に向かって放つ。

「では、失礼して」

 テイラーが3人の手にそれぞれ、ポーションをかける。


「先ほどと同じ威力で、同じ魔術を発動してください」

 テイラーの要請に、まさか…という表情で、3人は魔術を発動する。

 だが、3人とも不発に終わった。

「では、3倍ほどの魔力で、先ほどと同じ魔術を」

 続く言葉に、3人が魔術を発動すると、最初に放った時と同じ威力で、魔術が発動された。


「およそ、5分程度効果が持続します」

「つまり、その間は魔術の発動に、3倍の魔力が必要だと」

「はい」

 レイドの質問に、テイラーが頷く。

「ただ、ポーションで濡れた手を拭った場合は、3分ほどに短縮します」

「いや…戦闘中だとしたら、3分は致命的だ…」

 思わずオージーが己の手を見つめる。


「あとは…」

 テイラーがノキアを振り返れば、ノキアをは即座に自分の黒髪黒目を、金髪碧眼に変え、さらに顔の造作を彫りを深くし、そのあと体格が一気に大きくなる。

「変色と、擬態、幻術の重ねがけです」

 そこに、ためらいもなくテイラーがポーションをかけると、テイラーは元の黒髪黒目、いつもの顔立ちと体格に。

「ここまでか…」

 オージーがうなる。

 ノキアはふっと腕の一振りで、かけられたポーションを乾かした。


「ちなみに認識阻害の魔道具は、先ほどの魔力発動と同じ5分程度で、拭ってしまえば3分ほど解除できます。あとは…」

 テイラーが顔を横に向ければ、模擬空間で控えていたマグナイトとコロナが、何かを持ちやってくる。

 まだあるのか…と、全員いささか驚き疲れてきた様子。

「宮廷魔術師、研究部隊長の、マグナイト・ヨーグ・キールです」

「同じく副隊長のコロナ・エリス・ティーナです。どうぞコロナと」

 簡単に自己紹介したマグナイトとコロナ。

 まずは、コロナが手に持っていたものを、ノキアの出した机に載せる。


「…罠、ですか」

「小型の魔獣を狩るためのものですね」

 トゥエンダルのつぶやきに、オージーが答える。

「とりあえず、やってみましょう」

 リリシアが、3つある罠にポーションをかける。

 すると、同じ形に見えた罠のうち1つが消えてなくなった。その場に魔石が転がっている。


 テイラーが木の棒を罠に突っ込めば、1つはバチンッと音を立てて木の枝を挟んだが、もう1つは作動しない。

「先ほど消えた罠は、魔力で作られたもの。作動しない罠は、魔力を動力に発動する魔道具、もう1つの正常に作用したものは、普通の罠です」

「…ダンジョンにある罠は魔素でできている」

「簡単なものは作動しません。大掛かりな罠は、威力を弱めると思われます」


 それから、テイラーは、マグナイトの運んできた檻に入った、角兎(ホーンラビット)に、ポーションをかける。

 すると、動き回って騒いでいた魔獣が、ぐったりとする。

 かろうじて生きている感じだ。

 あまりのことに、ガシガシっとオージーが頭をかきむしる。


「ご覧の通り、弱い魔獣ならば瀕死の状態に。もちろん強い魔獣には、申し訳程度でしょうが。それから…」

 テイラーがノキアを振り返れば、ノキアは頷いて、ふわりと飛ぶと、10メートルほど離れた位置に。

 そこからノキアか火弾(ファイヤーボール)水槍(ウォーターランス)を放つ。

「えーい」

「ほーい」

 気の抜けた声を出しながら、その魔術に、蓋を開けたポーションを瓶ごとマグナイトとコロナが放る。

 見事に命中したそれは、火弾(ファイヤーボール)を火の粉に、水槍(ウォーターランス)を小雨程度に変えた。

「「「…………」」」

 あまりのことに、呼ばれた3人は絶句する。

「初級程度ですと、攻撃力はなくなります。中級以上は、弱める程度です」

 テイラーが淡々と告げる。

 すでに実験段階で驚きすぎ、3人の気持ちもわかるので、あえてこうしている。


「確認された効果は、以上です。魔獣への追試と、罠についてダンジョンでの追試、そして、魔術の発動の追試を、極秘で冒険者ギルドでしていただきたいのです」

「…なるほどね」

 オージーはひとつ息をつくと、 頭を振る。

「俺が呼ばれるわけだ。だが、このポーションが出回れば、駆け出し冒険者の死亡率を減らせるだろうな。…すげーもん作ったな」

「恐れ入ります」

 ニヤリとオージーに笑いかけられ、ふふっとリリシアは微笑んだ。


「なるほど…。とすれば、私は規制と価格帯調整ですか…」

「はい。ご覧の効果ですので、悪用しようとする者が出てきては困ります」

「特に結界や魔力制限の目的で使うなら、この無色透明、無味のポーションが好まれるでしょうね。こちらは医療用の麻酔などと同じく、流通業者全てを認可制にして、購入者にも記名してもらった方がいいでしょう」

 トゥエンダルが頷く。

「元締めは、ササラナイトで?」

「そのつもりです。あとは、魔術省でも…ですよね?」

「はい。主に魔術省、騎士省など、国家関連用は。…ひとまず皆さま、会議室へ戻りましょう」



 その後、会議室で、今後問題となりそうな点、対策、金額、追試などについて話し合われた。

 そこでできた草案は以下の通りだ。


1.回復ポーションなどと同じように、特級・上級・中級・下級ポーションを製作すること。それぞれの効果は、上級が特級の5分の3、中級が上級の半分、下級が上級の3分の1に抑えること。


2.下級ポーションは、防毒や防混乱などのポーションの2.5倍の値段である、銀貨2枚と青銅貨5枚。

中級は金貨1枚、上級は白金貨1枚、特級は購入制限付きで白金貨5枚。素材ランクや味により、多少の変動は可能。

素材の金額から、無味無臭、無色透明のポーションが1番安いが、1番管理を徹底すること。



 1と2は、盗賊に悪用されたり、皇居への侵入などへの対策で、金額を引き上げ、質のいいものを大量に購入させないためだ。

 特級のポーションをたくさん集める方が、破りたい結界の中身より価値が高くなるよう配慮すると、この値段が妥当だ。

 また、味付きより、透明の無味無臭ポーションの管理を厳しくするのは、そちらの方が結界解除やデバフ効果を狙った使用の可能性が高いからだ。


3.製作者を伏せ、発明は魔術省とする。また、魔術省の指定業者としてササラナイトが選ばれたことにする。


 もちろんこれは、リリシアの誘拐・監禁などへの対策。


4.流通業者、小売業者は認可制で、取り扱いについては、魔術省と魔術契約を交わすこと。


5.購入者の記名義務。また、下級ポーションは誰でも買うことができるが、中級以上は冒険者ギルドのランク、及び身分により、制限される。


6.転売や譲渡の原則禁止。

※ただし、家族・親族間では、あらかじめ使用者を申請することで可能。


7.特級ポーションは、魔術省で認証を受けた者しか、購入できない。また、使用時は、報告の義務を負う。


 4〜7は、ポーションの行方を管理し、悪用を阻止するためだ。


8.小売は初級は道具屋や、薬師も販売可能とする。ただし、中級以上は、魔術省関連施設や冒険者ギルドでの購入に限定。

引き渡し時点で、ギルドカードとポーションを魔術で紐付けし、購入数と使用数がギルドカードでわかるようにする。


9.戦闘中や、緊急時、その場ですぐ使用する場合のみ、転売や譲渡が可能。緊急対応以外が見つかったら、今後の購入に制限がかかる。


 これらは、オージーからの要望だ。貴族を除けば、ポーションをかなり必要とするのは、冒険者。

 購入機会が減らされる可能性を排除すること。

 さらに、ポーションを本当に必要とする人がいるのに、転売や譲渡禁止に引っかかり、危険にさらされることがないように…との配慮だ。




 昼1番で集まった面々が帰途についたのは、すでに夕食には遅いほどの時間だった。

 トゥエンダルとオージーはそれぞれ持ち帰り、ダンジョンでの追試を待ってから10日後に再び集まることになっている。

 それまでにトゥエンダルは、ポーションの規制に関して、草案を正式にまとめることになった。




「想定以上の大ごとになったね…」

「ですがその分、利益も期待できますわ」

「そうだね。今から反響が怖いくらいだ。……どこかで食事をして帰ろう」

「ええ。ぜひ」

 帰りの馬車の中、レイドとリリシアはポツリポツリと言葉を交わしていた。







※補足※

マルフェデート帝国の通貨(日本円)は、だいたいこのくらいのイメージです。

白金貨1枚(10万)

金貨1枚(1万)

銀貨1枚(1000円)

青銅貨1枚(100円)

銅貨1枚(10円)

鉄貨1枚(5円)

※これ以上小さいコインを作ると割りに合わないので、ここだけ5円の想定です。



リリシアがポーションを作るなんて、本気で想定していませんでした。

おまけに、それがいろんなところを巻き込んで、大事業になりそうな予感…


本当は、もっと別のことを書こうと思ってたんです。本気で。

でも、何故かリリシア様、勝手に動いてやらかしてくれました、汗

制御不能です…

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