表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

15.ポンコツとコレクション(前編)

お待たせしました。

今回も前編・後編にわけます!



 オヴェリア・ナナ・マゼンダは、今朝届いた招待状を手に、じっと考え込んでいた。

 オヴェリアがどんな行動をしようと、マゼンダ子爵家(この家)の人たちは気にしないので、オヴェリアもいまさら気にしない。


 オヴェリアはもともと、旧貴族と呼ばれる伯爵家の出身だ。

 しかし、3歳の魔力測定の時に、『魔力なし(ポンコツ)』と判断されてすぐに、この家に養女に出された。

 いじめられるわけでもない。

 ただ、使用人を含めてすべての人は、オヴェリアに無関心。

 なぜなら、オヴェリアが旧貴族とのコネクションを得るために引き取られただけの、ただの不用品(ポンコツ)だったから。


 マゼンダ子爵家は、オヴェリアを引き取ったことで、オヴェリアの実家である旧貴族から支援を受け、絶大な格と誇り(プライド)を持つ旧貴族へのコネクションを得て、宝飾品の販路を拡大して、経営を波に乗せることができた。


 マゼンダ子爵領は、狭く、不便な土地にある田舎だ。寄親でもある隣の領地から手に入れた貴金属を宝飾品(アクセサリー)に加工して、売ることで領地の経営を立ててきた。

 なにせ、狭くて不便な土地。作物は作ったところで、領外に運ぶには山を越える立地。時間がかかるため、貴金属の入手先で山と反対側にある隣の領地に運ぶのがせいぜい。それ以上の距離になると、作物が傷む。山で魔物に襲われでもすれば、苦労して運んでいる作物も無駄になる。

 だから、小さくて、たくさん運べて腐らない。魔物も食べない。なおかつ高い値段で売れる宝飾品(アクセサリー)の加工という産業に行きついた。

 隣の領地に貴金属の鉱山があるのも幸いし、彫金技術が発達して、今では領地の特産となっている。


 しかし、当初はなかなか高額で取引できなかった。

 近くに運んでも、貴金属の鉱脈がある領地の近く。ほかにも同じような宝飾品(アクセサリー)を扱う店は、山とある。

 だからと言って、都会に運んでも、今度は競争に競り負ける。

 無名の田舎領地で加工された品よりも、帝都の流行の宝飾品(アクセサリー)を手に入れたがる者は多い。


 だから、物に自信はあっても、それまでの顧客は庶民。

 しかも、婚約記念や結婚記念、奥さんの誕生日など、奮発して買うときだけ。


 だが、旧貴族の血を持つオヴェリアを引き取ることでコネクションを得たマゼンダ子爵家は、旧貴族へ宝飾品(アクセサリー)を売る権利を得た。

 “王都で貴族がつけている”という宝飾品は――実際にどのくらい王都の貴族がつけているかは別として――地方の豪商などにもよく売れるようになった。


 当然、お金をあまり持たない庶民より富裕層に売る方が、実入りがいい。

 しかも、娘の“可愛い”の一言や、“こっちの形も美しいわ”の一言で、ぽんっと宝飾品(アクセサリー)を買ってくれる富裕層が相手だと、商売の機会も増える。

 要望に合わせて細工を加工する余裕ができたことで、技術も向上し、さらに売れる。


 その循環を生み出すのに必要な犠牲は、たった一人の『魔力なし(ポンコツ)』を養女として迎え、責任もって育てることだけ。

 だから、オヴェリアは丁重に扱われる。

 専属の侍女がいるし、ドレスも宝飾品(アクセサリー)も、望むだけ手に入る。


 だが、その実、時間になればメイドが食事を準備して、死なないように生かされ、淡々と生活しているだけなのだ。

 オヴェリアが勉強をしようが、音楽をたしなもうが無関心。

“死なずに家にいるだけ”

“ときどき公の場に出て、ちゃんと着飾って、令嬢としてふるまう”

 それが、オヴェリアの役目。


魔力なし(オヴェリア)』の存在を恥と感じた旧貴族によって、その家ではオヴェリアは死亡扱いだが、“血”の行方は管理されるという。

 引き取られたときに、名前も変えられたらしいが、すでにオヴェリアは3歳まで名乗っていた自分の名前を忘れていた。

 そして、オヴェリアのルーツであるその旧貴族がどこの家であるのか、それすらもオヴェリアは知らない。


 オヴェリアのすべてに無関心なマゼンダ子爵家の人たちだったが、唯一の例外がある。

 それは、オヴェリアが外の貴族から受け取る手紙だ。

 マゼンダ家当主に送られる縁談もそのひとつと言える。


 茶会や夜会(パーティ)は、婚約者を探す場でもある。

 つまり“いつまでオヴェリアを育てればいいのか”、そして、“どんな家とコネクションを結べるか”というのが、わかる指標が手紙なのだ。

 だから、こうしてオヴェリアに届けられる茶会や夜会の招待状は、異様な関心を持たれた。

 その中でも特にマゼンダ子爵家が注意深く関心を寄せるのは、格上の伯爵家であり、『至高の魔力なし令嬢(コレクション)』と名高いリリシア・フォン・ササラナイトからの招待状だった。



◇◇◇◇



 オヴェリアがリリシアに初めて出会ったのは、初お披露目(デビュタント)を控えた10歳の時。

 イルファン伯爵家が定期的に開催する、小さな夜会(パーティ)でのことだった。

 小さな夜会(パーティ)とはいえ、招待客は優に200人は超えている。


 招待客は貴族だけでなく、豪商と呼ばれる力を持つ商人や、有名な民間の魔術師、魔導具師、ギルド職員などもいる。

 主に商売上のつながりを大きくする目的で開催されるものだった。

 そのため、酒や料理を楽しみながら、雑談をしつつ、新しい縁を探すのがメイン。


 しかし会の第一部は、陽がオレンジ色に輝き始める時間から始まり、どちらかというと子供たちの発表会という雰囲気だ。

 第一部ではちゃんとダンスの時間も設けられ、なおかつ貴族ならば一家丸ごと招待される。

 正式なお披露目(デビュタント)を控えた子どもに雰囲気を教えるためや、年若い貴族の子息や令嬢に場数を踏ませるための会でもあった。

 本格的な夜会は第二部で、こちらが大人たちの本来の参加目的だ。

 子どもたちは10代後半の嫡男や後継者、実務に携わる予定の者を残し、実務にかかわっていない場合は母親に、そうでないなら使用人に付き添われて帰宅する。



 会の開会が宣言され、間もなくダンスが始まる時間になると、オヴェリアは固く手を握り締め、唇をきゅっと結んだ。

 『魔力なし(ポンコツ)』のオヴェリアにとって、耐えがたい時間が始まる。

 “きちんと育てられた令嬢”をアピールする練習として、毎回この夜会(パーティ)に連れてこられる。

 だが、何度経験しても、慣れることはなかった。


 次々と10代半ばから4.5歳の子まで、それぞれに背伸びをして着飾って手を取り合い、ダンスフロアに出ていく令息や令嬢たち。

 兄弟、あるいは父親や親族にエスコートされる子も多い。

 それと同じくらい多いのは、壁の花となっている小さな淑女(レディ)たちを、同じくエスコートする相手のいない小さな紳士(ジェントルマン)たちがお誘いをする練習。

 あちらこちらで、可愛らしいお誘いに、笑い声が広がる。


 オヴェリアにも、義理の兄たちはいた。

 しかし、マゼンダ家の長男は19歳。婚約者を伴って、離れた場所で談笑している。16歳の次男は、まだこのダンスを楽しみにしている14歳の長女の手を取り、ダンスフロアへ。

 義理の両親は、その次男と長女を見て、くすくすと何やら話し合っている。

 当然、義理の父にも期待できない。


「…お嬢様も、さあ、ダンスを」

 オヴェリア付きの侍女が小声で促すが、相手がいないのに、どうしろというのか。

 ちらりと周囲を見回しても、残っているのは、幼い姉妹がいない”子どもの発表会“を苦笑と共に眺めている初お披露目(デビュタント)を終え、ある程度場慣れもしている13から19くらいの年上の男。

 もしくは、親のそばを離れることができない、3.4歳の子。

歳ができるだけ近い13くらいの子と目が合っても、スッと視線を外される。


“あの子も、イルファン伯の長女と同じなんだろう?”

“『魔力なし(ポンコツ)』か”

 聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの声で囁かれている。


 名前の挙がった、ひとつ年上のイルファン伯の長女セラスティナは、この夜会(パーティ)主催者(ホスト)の令嬢。おまけに伯爵家。

 “義理”でダンスの相手には事欠かない。

 そうこうしている内に、一度目のダンスは始まり、今更ダンスフロアには行けない雰囲気。


「おや、オヴェリア。どうして踊らないんだい?」

「いつものことよ。ダンスが苦手なんでしょう」

 いまさら気づいたように、親し気に声をかけるマゼンダ家の当主と、仕方ないという表情の妻。

 邸内ではほとんど言葉を交わすこともないが、こうして夜会(パーティ)になると、いつもよりも話しかけてくる。


(どこから私を預けた旧貴族に話が行くかわからないものね)

 表情を変えることはないが、オヴェリアにだって、そのくらいはわかるようになった。


「ん…あれは…」

 ふと、ダンスフロアに視線を戻したマゼンダ家の当主が軽く目をみはった。

「どうなさったの?」

「あぁ…あのひと際背の高い、質のいい服を着た方がいるだろう?」

「…あの、緑がかった黒…というのかしら、そんな髪の方かしら?」

「ああ。あれは、ササラナイト伯爵家の嫡男、ルイス様だ」

「まぁ! あのササラナイト家!」

 奥方が驚く声を上げるのもわかる。ササラナイト家と言えば、先代で位上がりをしている。

 その上、旧貴族の血も取り入れ、海運業も拡大し、格も富も、今ではほかの伯爵家で並ぶものがいない家にのし上がった家の名だ。

 子爵家としては、目指すべき理想の家。


 オヴェリアも、その家名だけは知っている。

 なぜなら、ササラナイト家の下の令嬢は、この夜会(パーティ)の主催者の令嬢と同じ。

 つまり、伯爵家の『魔力なし(ポンコツ)』でありながら、養女に出されなかったと噂になっていたから。

 つまりは、境遇は違えど、オヴェリアの“同類”。

 無意識にアンテナを張ってしまっていた。


「ということは、あの空色のドレスを着ている令嬢は…」

「ササラナイトのリリシア嬢でしょうね」

 夫婦がひそひそとささやく。


 オヴェリアは、ダンスフロアの中央付近で、長身の男性と笑い合いながら踊る令嬢を見た。

 完全に大人と子供。

 圧倒的な身長差をものともせずに、大胆にステップを刻み、可愛らしくハーフアップにしたミルクティ色の髪と、淡い空色のドレスをふわりと広げる。


 何より、この会の主催者の長女・セラスティナ嬢にさえある、どこか気後れした、遠慮がちなものを一切感じない。

 凛と伸ばした背筋と、可愛らしく無邪気でありながら、優雅さを損なわない笑顔。

 全身でダンスを楽しんでいるその雰囲気。

 あれが、自分と同じ『魔力なし(ポンコツ)』の令嬢だと、オヴェリアにはとても思えなかった。


 周囲でも、ざわざわとオヴェリアの思いと同じようなささやきが広がっている。

 信じられないのだ。

 『魔力なし(ポンコツ)』として生まれながら、あれほど堂々とした令嬢が。

 リリシア嬢が『魔力なし(ポンコツ)』だと知らなければ、どこぞの公爵家令嬢や、むしろ王族と言われても納得の立派な振る舞い。


 何人もダンスをしている人たちがいる。

 その中には主催者の娘であるセラスティナもいるが、全員がそれを忘れ、ササラナイト兄妹のダンスに注目していた。

 やがて、ダンスが終ると、向かい合って礼をし合い、スッとダンスフロアの外へ。


 待ち構えていたらしい深みのあるブルーグレーの髪をした男性が、にこやかに迎えていた。

 意外と近くにササラナイト家当主のレイドがいたらしい。

 隣には、光を照り返すローズブロンドの髪の女性と、ワインのような味わいのある色合いの髪をした女性。どちらも女性としてはうらやましい豊満な身体付きで、なおかつ珍しい褐色の肌で目立っている。

 二人もゆったりとした笑みでリリシアたちを迎えていた。


 オヴェリアの視線がすっと地面に落ちる。

 つややかなヒールの靴を履いた女性。ぴかぴかと光る革靴の男性。

 ここにいる着飾った人たちは、こうして足元までも磨き上げた靴を履いている。

 赤、黒、白、金、銀。

 様々な色合いの靴。

 そのどれもがオヴェリアには見慣れた景色。

 毎年こうして、夜会では、周囲の足元ばかりを見ているから。

 はぁっと、小さなため息を吐いたオヴェリアは、ふと、何故だか周囲がざわめいているのを感じた。


「…つ、次は、ぜひぼく…じゃなくて、私とダンスを…」

「あの、お、踊ってください…」

 すぐ後ろで聞こえる声に振り返れば、いつの間に移動していたのか、先ほど素敵なダンスを披露したリリシアと、それをめがけてやってきたらしい小さな紳士たち。

 リリシアと、すぐ後ろに護るように立つ兄のルイスの手に、グラスがあることから、どうやら飲み物を取りにすぐ後ろまでやって来ていたらしい。


「おや。紳士(ジェントルマン)ならば、私の妹がジュースを飲む間だけ、お誘いを待ってくれないかい? ダンスの後だからね」

 クスリと笑うルイスの言葉に、周囲の男の子たちがハッとしたように差し出していた手を引っ込める。

「ありがとうございます」

 くすくすと可憐な笑みをこぼしたリリシアは、軽くひざを曲げて周囲に会釈すると、兄とグラスを合わせてから、こくこくと可愛らしくジュースを飲んだ。

 その様子を、真っ赤な顔で周囲の男の子たちが見守っている。

 しぐさのひとつまで洗練され、目を奪われる。


 飲み干してリリシアがほうっと小さな吐息を漏らすと、その手からすっとルイスがグラスを取って、侍従に渡している。

 リリシアは侍女から渡されたハンカチで、そっと口元をぬぐっていた。

 そんな些細な仕草でさえ、流麗。


「お待ちくださり、感謝いたしますわ」

 リリシアが侍女にハンカチを渡すと、ドレスをつまんで軽く腰を落とす。

 その仕草に見とれていた男の子たちは、ハッとしたように自分の身なりをもう一度整え、一斉に手を差し出した。

「一緒にダンスしてください」

「今度は私とダンス、いかがですか?」

「私と、踊っていただけますか?」

 口々にリリシアをダンスに誘う。


 その人数に少し困った顔をしたリリシアは、ふいに何かを思いついたのか、にっこりと笑った。

「では、こうしませんこと? 皆様とダンスをしたいのですが…流石にこの人数ですと、難しいですわ。ですから…」

 そうしてリリシアが提案したのは、年齢の下の順に、順番にダンスを。

 合間の休憩は、年齢が上から順に共におしゃべり。

 そうすれば、この人数でも、全員と時間を持てるから、と。


 にこにこと微笑むリリシアの提案に、とっさに全員が頷いた。

 そして、早速1番年齢の下の子が、真っ赤になりながらリリシアの手を引いて、ダンスフロアへ。


 その様子を、オヴェリアは呆然と見送った。

(あの子も、私と同じ『魔力なし(ポンコツ)』なのに…)

 きゅっと唇を噛み締める。


 何が違うのだろうか、と。

 自分は『魔力なし(ポンコツ)』だからと、毎回遠巻きにされ、誘ってくれる子はいない。

 それなのに、同じ『魔力なし(ポンコツ)』のリリシアは、あんなにみんなに誘われて、順番待ちまでされている。


 今まで、『魔力なし(ポンコツ)』だからと、諦めてきたのに。

 リリシアを見ていると、それさえも関係なく、まるでオヴェリア自身に全く魅力がないから、誘われないみたいじゃないか。

 それとも、伯爵家ならば違うのだろうか…。




他の人から見たリリシアって、なんだかすごい令嬢、笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ