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再会

 佳奈とは家を出る前に顔を合わせて以来だったが、佳奈が身に纏う服が見たときと違っていた。

 短パンにTシャツ。

 あれは佳奈が風呂に入った後、寝るまでによく着ている服装だ。

 おそらく風呂に入って出てきても僕が帰って来ていないので、不審に思ってコンビニまで様子を見に来たのだろう。いい妹だ。こんな時間に1人で外に出るのはダメだけど。


「あなた誰?」


 だがそう言って佳奈は腰に両手をあてて僕を睨みつけた。

 また自分を証明しなければならないのか。しかも自分の家族に。

 分かってはいたことだが気が滅入ってくる。


「こんばんは、佳奈ちゃん」


 僕の後ろから竹宮さんが佳奈に挨拶をした。

 竹宮さんは佳奈を知っているのか?


「竹宮さんこんばんは」


 佳奈も竹宮さんを知っているらしい。


「えっ、二人はどういう関係?」


 思わず尋ねるも


「あなたは黙って」

「ちょっと私に任せて」


 止められてしまった。


「竹宮さん、そこの荷物からコスプレした女の子をどかしてもらえませんか?」


 僕が普段聞かないような抑揚のない声で竹宮さんにお願いする。

 コスプレって。

 言われて自分の視界に入ってきた白髪に気付く。確かにこんな髪色は普段の生活では滅多に見ない。

 そおーっと背後の竹宮さんに振り向くと、竹宮さんは僕の目を見て何も言わずに首を縦に振った。


 この場は竹宮さんに任せておいたほうがいいかもしれない、僕は佳奈の方を向き、何も持っていない両手を上げたまま後ろ足で離れようとした。


「あ」


 暗かったからか、足元を見ていなかったからか、それともその両方からか僕はうっかり転んでしまった。腰を打ち付けるとそのままコロコロと後ろに転がってしまい、ぺたりと座り込む形になってようやく止まった。

 幸いあんまり痛くなかったけど素肌にアスファルトは辛いね。


「「……」」


 二人の視線が僕に突き刺さる。主に僕の下半身に。慌てて僕はTシャツを掴んで下まで下ろした。

 ごめんって……。


「色々言いたいことはあるけど、離れてくれたから良しとします」


「この子は今自分の体を持て余しているから」


「竹宮さんありがとうございます。教えてほしいことがあるんですけど」


「質問されてばっかりね、私」


「何か言いました?」


「ううん。で教えてほしいことって何かな?」


「うちの兄が行方不明なんですけど、何か知りませんか?」


 いやいやいや、ちょっと家を空けたくらいで行方不明とか!?

 いや、佳奈は案外そそっかしい子だ、今夜はうちの両親が家にいないから誰にも頼れなくて、まさかもう警察にー


「うちの兄はそそっかしいのでこんな時間になっても帰って来ないってことは何かあったに違いありません。さっきここで兄のスマホと財布、それに自転車を見つけました。コンビニの中にもお客さん誰もいないし、トイレも誰も使ってなかったし、このコンビニをぐるっと回ってきたら」


 そこまで一気に言葉を吐き出すと、佳奈は再び僕を睨みつけてきた。

 お前も僕をそそっかしいとか思ってたのか……。


「そこの残念な子が兄の持ち物を持って帰ろうとしていました」


 残念な子って……。

 ちょっと体が小さくて白髪でパンツ履いてないだけじゃないか……。


 うわあ。

 残念すぎる。

 頭の中でその光景を組み立て、あまりに可哀想な絵に僕も心の中でため息をついた。


「ねえ、とりあえず貴女」


 竹宮さんが僕に声をかける。

 今の状況で僕の名前を呼ぶのはまずいと判断したのか、代名詞で呼びかけてきた。


「コンビニ袋の中身知ってる?」


 当たり前だ、僕が買ったのだから。

 そうか。

 僕は気付く。

 竹宮さんは持ち物の詳細を僕に答えさせることで佳奈に僕の正体を推測させる気だ。


「カップアイス二個。どちらも種別アイスクリームのバニラ」


 佳奈が驚いた顔で僕を見る。


「な、なんでそれを?」


「財布の中身は空」


「……どうして財布の中身は空なの?」


 佳奈から質問が出てきた。

 この質問の答えは僕ら兄妹しか分からないことだ。

 少なくとも今この瞬間なら。


「ゲームに負けて佳奈にお金巻き上げられた挙げ句、アイス分だけ渡されて買いに走らされたからな!」


「もしかして……お兄ちゃん?」


「そうだよ僕だよ、お前のお兄ちゃんの藤宮葵だ!」


「お兄ちゃん!!」


 佳奈が駆け寄ってきて僕を抱きしめる。

 佳奈より今の僕は小さい。佳奈のなすがままにされてしまう。


「何やってんのよぉ!」


 涙声で佳奈が叫ぶ。

 そんな佳奈の頭をぽんぽんとたたく。


「僕も何が何やら分からなくて……」


 兄妹、見ただけなら姉妹か、二人がひっしと抱き合う素敵な場面がコンビニの駐輪場で展開された。


「感動……はないかなぁ」


 呆れたような竹宮さんの言葉は誰の耳にも入らなかった。

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