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家に帰るために

 最初の質問は

『どうやったら元の姿に戻れますか?』

 にするべきだったかもしれない。

 どうして女の子になったかはとても重大な疑問だ。

 化け物がいることだって本来なら有り得ない。

 クラスメイトが変身してるのだって不可解だ。


 けれども。


 この格好(裸のことではなく女の子の体)では僕は家に帰れない。

 ここまで落ち着かない窮状に陥って、本当の意味で心安らげるホームに帰れないのは僕の心をみしみしと軋ませた。


 竹宮さんはさっき体を光らせ、とても美人な青髪の女性から見慣れたクラスメイトの姿に戻していた。

 なんとなく僕と竹宮さんは同じ種類の不思議体験をしている。なら。


「竹宮さん、どうやったら元に戻ることが出来るの!?」


 僕は体を起こし彼女と真っ正面から向き合った。

 バスタオルが滑り落ち上半身をさらけ出してしまうが今はそんなこと気にしていられない。

 相手も女の子だし気にすまい。


 竹宮さんの視線が下に行き、しばらくして顔に戻る。

 少し寒気がした。

 視線がどこ見てるかってよく分かるね。

 何か羽織りたいかも。改めてバスタオルを胸にあてる。

 竹宮さんは訝しむように言葉を紡ぐ。


「魔法で女の子に変身してるってこと?ならそんなに慌てなくても」


「分からないけどただそうだったらいいなっていう希望的観測だよ!」


「んーと」


 僕に詰め寄られた竹宮さんは特に慌てる様子もなく、右手の人差し指を頬に当てて少し考え込む。

 人差し指を立てるのは彼女のクセなのだろうか。


「変身の解き方は自分の中の魔力を知覚して、自分にかかっている魔力を取り込むイメージかな?でも」


 よし。

 魔法、魔力。

 ゲームの中では聞き飽きた言葉だ。

 先ほど体の中で感じた白く煌めく光、あの波動が竹宮さんの言う魔力、なのだろう。


 魔力を感じることならさっきも出来たことだ。

 どうしようもない閉塞感から一筋の光明を見出した僕はすぐさま目を閉じ姿勢を正し自分の心臓に集まっている光を確認する。周囲から音が消える。

 そして自分にかかっている魔力をー


「あれ?」


 自分にかかっている波動は何も感じなかった。そして


「私の話聞こえてる?ねえってば」


 竹宮さんが僕の顔をのぞき込むようにして話しかけていた。


「うひひゃう!」


 驚いて顔を仰け反らせる。


「藤宮くん、私の話途中から聞いていなかったみたいだけど」


「う、うん、ごめん。でも何も感じなかったんだ」


「だから言ってたのに。貴女から変身してるっていう魔力感じないもの」


 と少し呆れるような口調でそうつぶやいた。


「じゃあ僕は変身してるんじゃなくて」


 変身さえ解ければ、という期待が泡沫のように消え去る。上げて落とされる。

 竹宮さんが口を開くのが見える。


「その姿が藤宮くんってこと」


 結局何も救われなかった。




 oooooooooo




 アイスを買いに家を出たのが午後八時過ぎ。

 今が午後十時過ぎ。


「とりあえず藤宮くんが行ったコンビニに一緒に戻ってみる?」


 うつむく僕に対し竹宮さんがそう提案する。


「あの場所から藤宮くんを運んだ時には周囲に何もなかったけど、スマホや財布は手元にあった方がいいよ」


 確かにその通りかもしれない。

 竹宮さんは僕の言葉を信用して僕を藤宮葵と認識してくれているが、他の人はそうもいかないだろう。

 そう、家族すら。

 そうなればスマホはとても重要な心強いアイテムだ。

 RINEやメールなら声も姿も見せずに会話が出来る。

 調べ物だって出来る。


「今の藤宮くんが着れる服とか下着、私の手持ちにはないから、あのコンビニで買いましょう」


 ……何でも売ってるなあのコンビニ。


「さっき戻ってきたばかりだけど体のほうは大丈夫?」


「特に問題ない……と思う」


 全身から光を放射したはずなんだけど、特に見える範囲に傷はなく、突っ張る様子も痛みを感じることもない。


「私の回復魔法、ちゃんと効いたみたいね」


「そうだったんだ…竹宮さんありがとう」


 竹宮さんすごいな。

 僕は素直に彼女を賞賛した。

 化け物と相対し、僕をここまで運んでくれて、回復魔法まで使ってくれた。

 そして僕を認識してくれた。……認識方法に少し悪意を感じたが。


「これで全身隠れないかな」


 そう言って竹宮さんがタンスから大きなTシャツを取り出し手渡してきた。

 体にあてがってみると太腿まで隠れるようだ。

 下半身が心許ないが今はしょうがない。


「ちょっと待っててね」


 竹宮さんはそう言って着替えを持って部屋を出て行った。パジャマで外は出ないよな、うん。


 すぐに着替えて部屋に戻った竹宮さんは上下ジャージ姿だった。


「走っていくならこれでいいかなって」


 髪をゴムで纏めながら竹宮さんは笑った。

 靴はサンダルを貸してもらった。




 oooooooooo




「あったあった!」


 僕たちはコンビニに戻り、自転車置き場に回ると倒れた自転車を見つけた。その周囲にはスマホと財布、そしてコンビニ袋が落ちていた。


「良かった~」


 今の僕にとって身分を証明出来るアイテムの数々。

 それらを見つけて僕は浮かれていたのかもしれない。


「あなた誰?」


 だから気づかなかった。

 コンビニの裏手に隠れていた人影に。


「それあなたの物じゃないよ」


 そう言って現れたのは妹の佳奈だった。

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