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好きなゲームで人を知る

「私を知ってるってことは、あなた本当に?」


 藤宮葵くん。

 うちのクラスの図書委員。

 あまり話したことはないけど、休憩時間はいつもぼけーっとしているのを見たことがある。

 身長166cm、黒髪でショート。髪型に特にこだわりはなく散髪も近所の床屋さん。

 黒縁眼鏡をかけていてあまりファッションに興味がない。

 運動は平均、勉強は中の上。

 国語と英語が得意で理系科目が苦手。

 ゲームが好きだがスマホゲームはしていない。好きなゲームは据え置き型のアクションとPCゲーム。

 料理が趣味だが周囲には秘密にしているらしく、毎日のお弁当は自分で作っている。だがその腕も相まって誰も気付いておらず、皆彼の母親が作っているのだろうと思っている。

 両親は共働きで父親は商社に勤めるサラリーマン、母親は違う会社で働いている。

 中学一年の妹がいて名前は佳奈ちゃん。

 特に目立つこともない、悪い噂もない、女子から特に意識されていない普通のクラスメイト。

 こんな薄い印象しかない。


「……あなたが藤宮くんならRINE登録されてる藤宮くんの電話番号、分かるわよね?」

 RINEは国産製アプリで今の時代老若男女誰もが使っているソーシャルネットワーキングサービスだ。

 うちの学校ではこのアプリで連絡網を兼ねている。


「ええと」


 少し詰まりながらも彼女が口にした番号は、私の覚えている彼の番号と一致した。

 彼女……彼が本物の藤宮くんだと決めるには、今一つ決め手がない。

 妹の佳奈ちゃんでも答えられる問いでもあるからだ。もっとも佳奈ちゃんとこの子は似ても似つかないが。


 何かないか、彼が誰にも言わないであろう秘密は?

 となると……。


「藤宮くんの一番好きなアダルトゲームは?」


「ちょっと待って、それは誰も知らない!僕しか知らない!!何て質問してるの竹宮さん!!!」


 横になっていた体をバタバタと起こして真っ赤になってぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる少女藤宮くん。

 私だって恥ずかしいんだけどね、この質問。

 それにもう夜中の十時なんだからあんまり騒ぎ立てないでほしい。

 でも藤宮くんしか知らない質問だからこそ、価値がある質問のはず。


「うう…確かに僕しか知らない質問だから答えられたら僕が僕だって証明出来るけど」


「うん、だから」


「でも竹宮さんが答えを知ってなければ答え合わせのしようがないじゃないか!」


「大丈夫、知ってるから」


「竹宮さんがこわい!?」


「こわくないから言ってみて?」


 教室で聞こえてくる会話の断片を繋ぎ合わせれば、そして本人の趣味趣向や周りの反応を見ていれば、案外色々見えてくるものだ。

 ……見えてくるよね?


「……ぱんつぱんつれぼりゅ~しょん」


 見た目銀髪の裸の少女が、耳まで真っ赤にして小さな声で恥ずかしそうにアダルトゲームのタイトルを口にする。

 ドキドキする。興奮する。でも。


「はずれ」


「なんでだよっ!?」


「一番はそれじゃない、でしょ?」


 真っ赤な顔で私をにらんでくるが、私の一言で言い淀む。

 やがて何かを悟ったような表情で


「淫乱異世界ぱらだいす……」


 とだけ言うと彼女は再び倒れ込み胸元にあったバスタオルをひっぱり顔を隠した。


「正解、貴女は藤宮くんだわ」


「しばらく放っておいてくれないかな……」


「プライベートなことを質問してゴメンね」


 羞恥に顔を赤くし耳まで赤くしている。

 少しばかりいじめすぎたかな。

 でもこれは彼女が言っていることを信じるためには必要な措置だった。

 必要な措置だった。うん。


 男の子がえっちなもの好きなのは仕方がないし、藤宮くんはクラスの女子をいやらしい目つきで見ているわけではない。

 そういう目的のためのゲームで欲望を発散しているならそれはそれで健全なことだと私は思う。

 年齢制限の話は言い出すときりがない。女子たちも見てるものは見てたりするものだ。


 さて、次は何故藤宮くんは女の子になったのか。魔法少女になった理由もここに絡んでいるだろう。


「どうしてあの場所にいたの?」


 藤宮くんは自分が女の子になった理由を質問してきた。

 先ほどより何故か顔を真っ赤にして憔悴しているが、藤宮くんだって何かを知りたいはず。その何かを調べるためには藤宮くんの体験談が必要だ。


「コンビニにアイスを買いに来てて……あ」


 ぽつりとバスタオルから声が聞こえてきたが、あ、と言って言葉が止まる。

 そしてバスタオルを目の下まで持ってくると彼女は私に目線を合わせるとこう言った。


「どうやって家に帰ろう……?」

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