二人の出会い
ゆっくりとまぶたが開く。
最初に視界に飛び込んで来たのは暖かそうな光とそれに照らされた白く薄ぼんやりとした天井だった。
無意識に体が睡眠を求めタオルケットを首元まで上げようと体の上を手が滑り、不用意に胸の先端をこすってしまい慣れない刺激に体がぴくりと反応する。
「悪い夢を見た……」
完全に目が醒めていないものの、先ほどまで見ていた夢の内容をぼんやりと思い出して呟く。
女の子になって、化け物と戦って、化け物に取り込まれて、触手プレイを強制され、自爆。
何か欲求不満でもあったのだろうか?
とりあえず触手モノで遊ぶのはしばらく封印しよう。
そうむにゃむにゃと二度寝を決め込もうとした僕の横に
「気が付いた?」
人影が声と共に現れた。
「ひゃっ!?」
驚いて出た声にまた驚いてしまった。
急速に頭が動き出す。
あれは夢じゃない、のか?
「驚いちゃった?ごめんなさいね」
人影は女の子だった。
夢……じゃない、さっき会った青いドレス、青い髪の子だった。
首を彼女に向けると先ほどのドレス姿ではなく、手触りの良さそうなパジャマ姿に服装を替えていた。
化け物が居たあの場では全く余裕がなかったが、こうして見てみると元の僕と彼女はそんなに年が離れているわけではなさそうに思えた。
それでもこんな美人をこの目で見たのは生まれて初めてだけど。しかも青い髪とか。だけど外国人とは思えない顔立ちだし、コスプレにしてはしっくりとまとまっている。
彼女は抱えていた湯気の立つ洗面器を横に置いてぺたりと座り込む。
「あなた魔物に全身取り込まれちゃったじゃない?意識失ってる子をお風呂に入れられないから、体だけでも拭いてあげようかと思って」
そう言ってタオルを取り出す。
「でも意識が戻ったんだったら良かったわ。お風呂入ってさっぱりしてきたらどうかしら?」
「あの」
彼女の言葉を遮って。
「教えて欲しいことがあります」
僕は意を決して彼女に声をかけた。
お風呂より何より僕には聞きたいことがある。
「僕がどうして女の子になったのか、何か知りませんか?」
oooooooooo
「はい?」
助けられ助けた女の子が素っ頓狂な質問をしてきた。
彼女からの質問はただ一つ、何か知りませんか、だけどその前の前提、『どうして女の子になったのか』という言葉が分からない。
言葉通りだと、なったってことは以前は違ってて、つまり男の子……?
でもこの家に運ぶまでの間に彼女の股間は見ることなく視界に入っていて、ついている様には見えなかった。
…本物を見たことはないけど、さすがに見てわからないほど小さいモノではないはずだ。
「確認するんだけどあなた本当は男の子なの?」
「はい」
単純明快に彼女は返事をする。
これは面倒なことになってきたなぁ、と内心ため息をつく。
この子は魔法少女みたいだが、同時に中二病も発症しているようだ。
魔法なんてその手の患者さんには大好物だろう。舞い上がってしまう気持ちは分からなくもない。
私より頭一つ小さいこの子もどうやら立派にお年頃らしい。しかも男の娘とは業が深い。
こんな可愛い子が自分を男の子と思い込んで魔物を殴っていた?ドレスを纏っているのにね?
可哀想だがこんな質問をする子だ、ちゃんとお姉さんが教えてあげないと。
「魔法少女になったとしても、そういうオプションはないかなー?」
人差し指を立て、横に振る。
「それに」
「その可愛い顔と立派なお胸で男とか言われてもね?」
そのまま人差し指で彼女の双丘の間をつつく。
「ひゃん!」
彼女が可愛らしい悲鳴を上げて両腕で胸を隠そうとするが彼女の小さな腕では隠しきれずより肉感的になってしまう。
ああもう、こんな可愛い反応されたら困ってしまう。
別に女の子が恋愛対象というわけではないが、可愛い女の子はとことん愛でると私は心に誓っている。
「とりあえず男の子の設定からお話してみようか?」
oooooooooo
今のは質問が悪いのか。
彼女は何やら生温かい目でこちらを見下ろしている。
何か居心地の悪さを感じてしまう。
まずは説明、説明をしよう。
信じてもらえないかもしれないが、言葉を尽くせば何か彼女の琴線に触れる話があるかもしれない。
「僕は藤宮葵というこの辺りに住んでい」
「ちょっと待った」
彼女が僕の話を遮った。早い。
名前?
名前にひっかかったのか?
でもこんな美人は僕の知り合いにはいないし、こんな美人が気にかけるほど僕は有名でもない。
「んと、えーと」
いやでも、いきなり、ああもう……、彼女は独り言を言って少し逡巡したあと、額に手をやりー
彼女が光に包まれた。
「!?」
光ることが出来る人間が他にもいた!?
僕はいきなりのことにどうでもいいことに内心驚いたが、光が消えたあとにもっと驚くことになってしまった。
「竹宮さん……!?」
青い髪は黒髪に、顔も美人から愛嬌のある顔に、神秘のベールを脱いだ彼女は
僕のクラスメイト、竹宮桃華さんだった。