兄妹
僕は自分の部屋に戻ると、まず竹宮さんの家に持っていくものをまとめることにする。
まずは勉強道具。学生だからね。
そしてノートPC。これだけは絶対に持っていかなくてはいけないものだ。
この中には僕の大事な大事なコレクションだったりエロゲーが入っている。
もちろん他にも必要な料理に資料も入っている。
スマホのバックアップなんかもこの中だ。
そして衣類。
ひとまずパンツとシャツをあるだけ放り込む。
これがなければ、女の物の下着を着なければいけない……!
あとはこの小さな体でも着れるものを探そう。
コンコン
部屋のドアがノックされた。
僕は部屋の床に座り込みながら返事をする。
「お兄ちゃんどんな感じ?」
入ってきたのは佳奈だった。
風呂に入ったあとなのか、パジャマ姿で僕の部屋に入ってくる。
僕は作業の手を止めない。
「とりあえず勉強道具とノートPCと衣類かな」
「衣類なんていらないでしょ」
「いるよ」
「でも葵ちゃんの体に合う衣類ないでしょ?下着なんて新しく買ったほうがいいよ?」
佳奈の言葉にまたケンカ売りに来たかとムッとしながら顔を上げて佳奈の顔を見ると、いたって真面目に佳奈は喋っていた。
「お兄ちゃん」
「わたしだって女の子だよ」
佳奈は部屋に入ってくると衣類が散らばった床の空いた場所に腰を下ろす。
「わたしの胸は葵ちゃんのより小さいけどさ、それでもブラないと揺れたり擦れたりして辛いよ」
「佳奈……」
佳奈とこんな話をしたことはない。
佳奈がいつ初潮を迎えたりしたのかはさすがに知らないけど、僕は漠然とそれを受け入れていた。
佳奈の胸が膨らんできたりしてもそれは当然といった感じで受け流していた。
「お母さんにいろいろ教えてもらったりしてさ。これでも女の子の辛さは体験してる先輩なんだよ」
佳奈がずずっと僕のほうに顔を近づけてくる。
「昨日のコンビニではちょっと遊んじゃったけど、今は女の子なんだから女の子の格好してもいいじゃない。ただでさえ女の子生活は辛いんだから、楽しめることは楽しまないとね」
「楽しむ……」
「葵ちゃんはホントに可愛いんだからさ、オシャレしてもいいと思うけどなぁ。例えばわたしが男の子になったらカッコいい格好したいと思うけど、それっておかしいかな?」
「いや、おかしくはないけど……」
佳奈が男になったとして、ずっと女装してたら僕だって苦言を呈するだろう。
ふむ、そういうことか。
「僕の意識だけってことかな?」
「そう」
佳奈は人差し指を一本立てると僕に突きつけてくる。
「可愛い女の子が可愛い格好してて、何が問題あるのか!お兄ちゃんだって嬉しいでしょ!」
「う、うん」
佳奈の勢いに押されてしまう。
「まあ、出来るだけ善処してみるよ」
「うん!」
佳奈は満足したように頷くと立ち上がった。
「それじゃあお兄ちゃんおやすみなさい」
「佳奈おやすみ」
そう言って佳奈は部屋を出ようとドアに手をかけて、小さな声で早い口調で
「わたしもどんな姿になってもお兄ちゃんはお兄ちゃんだと思ってるからね」
「え?」
僕がよく聞き取れずに佳奈に聞き返そうとしたときには、もうドアは閉まっていた。
「ありがとう」
僕はそう言うとパンパンになったバッグから衣類を大方取り出したのだった。




