親の承認
それからリビングに戻った僕たちは、全員揃って改めてこれからの詳細を練る。
「葵ちゃんはもうしばらく学校はお休みしたほうがいいですね」
小林さんは僕を見ながら言う。
先ほどうちの両親と了解が取れたばかりだ。どれくらいの間学校を休むんだろう?
「あ、あの!」
竹宮さんが声を上げて会話に参加してくる。
「もしよろしければ、葵ちゃんが学校を休んでいる間、私の家にいてもらうことは出来ませんか?」
「竹宮さん、それはどういう?」
竹宮さんの提案に母さんが当たり前の質問をする。
「まだ葵ちゃんの立場が決まってないのにこちらに出入りしているとご近所の方に皆さんとの関係が疑われてしまいます。ご家族の皆さんにはご迷惑をおかけしますが、短い期間ですしいかがでしょうか?」
竹宮さんが少し早口で説明する。
僕の新しい立場が決まるまで例えば1ヶ月だとして、その間僕がこの家を出入りしているとこの見た目だ、ご近所の話題の的になってしまうのは避けられないだろう。
みんなが知っている男の僕と今の女の僕は、女の子姿のまま戻ってくるにしてもしばらくこの家の周囲をうろつかない必要がある。
そして竹宮さんが喋っていない理由がある。
魔法少女としての勉強だろう。
昨日、今日と魔物と戦ってきて、僕はもちろん課題だらけだ。
一人では倒しきれなかった。
実戦ではなんとかなっても、基礎となる知識は絶対に必要だ。
「ふむ、それなら竹宮さんのご両親と相談しないといけないな」
「実は私の両親はすでに亡くなっています」
「あら……ごめんなさいね」
「いえ、もう慣れてますので」
父さんの言葉に竹宮さんが驚きの発言をする。
あのマンションには一人暮らしだと推測していたけど、まさかご両親が亡くなっていたなんて。
頭を下げた母さんの謝罪に竹宮さんは首を振って気にしてないとでもいうような仕草をする。
「竹宮さんは今どうやって暮らしているんだい?」
父さんの言葉が少し和らぐ。
「両親が私が生きていくのに十分な資産を残してくれました。今は私名義のマンションに住んでいます」
そうだったのか……。僕は自分のことで頭がいっぱいで竹宮さんのことなんて全然考えていなかった。
あの過剰なスキンシップも誰かに甘えたいという無意識の気持ちの現れなんだろうか。
それなら僕ももう少し歩み寄って……。
いや。明らかに竹宮さんは僕のこの小さくて可愛い体を狙っている。ロリコンだ。間違いない。気をつけなくては。
「葵」
父さんが僕に話を振る。
「竹宮さんは学校生活で今までご両親がいらっしゃらないような素振りは見せていたか?」
「ううん」
僕は父さんの質問に首を振る。
「今こうやって話を聞くまで全然知らなかったよ。学校でもそんな話は出ていなかったよ」
「竹宮さんも苦労されてるのね」
母さんが納得したように深く頷く。
「そんなことはありません」
と言うと続けて
「私名義のマンションですので多少融通が利きますし、ご近所の噂にもなりにくいと思います」
ダメ押しとばかりに竹宮さんがアピールする。
「葵はどうだ?女の子と二人暮らしは問題はないか?」
「父さん、今は僕も女の子だよ。何かしたりしないし、するとしても……」
言い淀むがここは勇気を出して言わないと!
これを言えば障害がなくなるはず!
「じ、自分の体があるし……」
予想通りリビングの空気が凍る。
「葵……」
僕を見る母さんの視線がしんどい。
父さんの目が妙に優しいのは何故だろう。
「まあ……間違いはなさそうだ」
父さんがそう結論付ける。
僕も竹宮さんも小林さんも佳奈も『女性同士というのもあるんですよ』とは言わなかった。父さんは頭が固い。
「竹宮さん、家の子をよろしくお願いします」
母さんが竹宮さんの顔をじっと見つめて言う。
「女での生活の仕方や体の手入れとか知らないと思うので、どうぞビシバシ言ってやって下さい」
ちょっと待って!
ロリコン竹宮さんにその言葉はマズい!!!
免罪符与えちゃダメだ!!!
「母さんそれはー」
僕の口がむぎゅっと塞がれた。
この手は!
「があ!?(佳奈!?」)」
佳奈が両手で僕の口を塞いでいた。
「はい、頑張ります、お母様」
二人の間で交わされる両手での握手。
僕は竹宮さんの家では封鎖結界を張ろうと心の中で誓った。




