プロローグ4 僕の初陣
「どっせーーーーい!!!」
光り輝く柱に跳び入るように突入し緑色のスライムに肉薄すると思いっきりの右ストレートを振り抜いた。
何が何だか分からないがこんな生き物は普段生活してて見たこともない。
こいつは化け物だ。
そして女の子に襲いかかろうとしている。
こいつはこの数分で次々に襲いかかる様々な情報でパニックになりかけた僕の鬱憤を晴らすにはちょうどいい。
ゴツ、と柔らかいものを殴りつけたにしてはしっかりとした感触が拳に伝わり、化け物はそのまま真横に吹っ飛び、ブロック塀に激突し、べちゃあと張り付くように打ち据えられ、しばらくしてずるずると地面に滑り落ちていった。
僕強いな。化け物を殴り飛ばしたよ。
真っ白いドレスみたいな服着た女の子になって殴り飛ばしたらこれはもうあれだ、格闘ゲームのキャラクターみたいなものだ。戦えるっぽい。
「大丈夫!?」
着地し、うずくまっていた髪の毛もドレスも青でまとめた青っぽい女の子に声をかける。
手には不思議な形状の杖をしっかりと握りしめている。
その子は今までテレビや雑誌でも見かけたことのないような、とてもキレイな女の子だった。
整った目鼻、吸い込まれそうなほどの赤い瞳。
肩まである少し外に跳ねた髪。
ただそんなステキな顔に今は笑顔はなく、ただ疲労と憔悴を滲ませていた。
あれ?
ふと突拍子もなく気付いたが、うずくまっている彼女と目線の高さ、案外変わらなくない?
今僕立っているんだけど?ヒール履いてるっぽいんだけど?
……この体小さい?
疑いようのないほど胸があるのはさっきしっかりと確認したので幼女ってことはないだろうけど……。
そんな葛藤をしている間、彼女はしばらく目を見開いて僕をじっと見つめていた。
うう、真っ正面から女の子と目を合わせるのは恥ずかしい……。
そんなに見てくるのはどこか変なのか、何か付いてるのだろうか、そういえば鏡とか見ていないので自分の顔を見ていない。
顔が元の僕のまま男だったら大事故だ。
視線を反らしたい思いを必死にこらえ、ぎこちない笑みを浮かべて彼女を見つめ返した。
「た、助かったわ……」
「よかった」
彼女の言葉は心からの本音だろう。
僕の見た目に慌てふためく様子は見られない。
それも本当に良かった。
彼女は未だに立ち上がられないようだ。
手を引いて立ち上がらせるのがいいと分かってはいるが……女の子の手を取るのは気恥ずかしい。
それに……
「待ってはくれないようね……」
彼女の視線が僕から離れ、とある一点を見据える。
それに合わせて僕も同じ方向、化け物が吹っ飛んでいった場所に目をやった。
化け物が緑色の半透明の体をぶるぶると震わせながら姿勢を取り戻しているのが見て取れた。
決まった形はないのにそう見えるのはアニメや漫画で鍛えた想像力の賜物だろう。
「……ふむ」
僕は両方の掌を握ったり広げたりしながら先ほど化け物を殴りつけた感触を思い出す。
今までの人生で人はもちろん物すら殴りつけたことはないけど、この分だと殴り負けることはなさそうだ。
それに未だ僕たちを取り囲むようにそびえる光り輝く柱。この柱からは彼女と同じ波動を感じる。
波動なんて生まれてこのかた感じたことはないが、この柱が発生した時に波動を感じてしまっている。
彼女はその装いからおそらく魔法使い、いや魔法少女なのだろう。
そしてこの光の柱を作り出した。
作り出した理由までは分からないけど、そのせいで彼女はおそらく体力だか魔力を消耗している。
彼女が回復するまで僕があの化け物の相手をしていれば、トドメは彼女が刺してくれるだろう。
そう思い込む。
色んな考えが頭の中に渦巻いているが、ごちゃごちゃ考えていてもどうせ何も分からないのだ。
よし。
「そこで待ってて」
そう彼女に一言告げると僕は化け物に立ち向かっていった。
「てりゃぁぁぁぁぁ!!!」
相変わらず可愛らしい声が自分の頭の中に響き渡るが極力気にしないようにする。
化け物を殴りつけるたびに当たった箇所から虹色の光が一瞬煌めいた。
そしてスライムの塊のような化け物がゴッポゴッポと音を立てて吹き飛んだ。
それを逃がさまいと反対の拳で同じように殴りつける。
「どりゃあ!!!」
「おらぁ!!!」
足を止めてとにかく連打連打連打。
化け物の体を右に左に振りながらとにかくひたすらに殴りまくった。