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触診

※医療行為みたいなものです

 隣の部屋は普通の病院でもよく見るような、一般的な病室だった。

 小林さんは僕が部屋に入ったあと、後ろ手に鍵をかけた。


 カチャ


 診察室の、人が集まる場所特有のちょっとした騒がしさが、壁が厚いのか全く聞こえてこなくなったため、その鍵を掛ける音が妙に僕に響いた。


「みなさんを待たせてはいけないので簡潔に診ますね」


 小林さんは笑顔で僕に語りかける。


「藤宮さんが女性であるか確認しますので、下を全部脱いでベッドに腰掛けてもらえますか?」


 いきなりのことに僕がぎょっとして身をこわばらせていると


「肌や胸の有無でも分かるんですけど、やっぱり第二次性徴期を迎えた男女の差が一番分かるのは性器です。分かりますか?」


 小林さんは丁寧に説明してくれる。

 確かについてなかったら一目瞭然だろう。


「恥ずかしいかもしれないけど、私も女ですし、ね?男の先生に見られるよりいいと思いますよ」


「はい、分かりました」


 うだうだ言ってても仕方がない。

 僕は男らしく心を決めると、デニムのショーパンとパンツをまとめて一気に下に下ろした。そして片足ずつ抜いて脱いだパンツ類をベッドの上に置き、自分もベッドに両手をついて腰掛けた。


「はい、ありがとうございます」


 小林さんはそう言うと部屋の横にある銀色に光るステンレスのキャビネットから色々な道具を取り出して持ってきた。


「もう少し奥に座ってもらって……。はい、それでは両足を抱えて後ろに寝て下さい」


 言われた通りにころんと後ろに転がると、僕の股間が小林さんに丸見えになった。

 開いた股間が風もないのにスースーする。

 これは必要なこと、これは必要なこと……。

 何度も繰り返し心の中で呟く。


「それでは触診を行います。少し冷たいですけど我慢して下さいね」


 ぬるぬるした小林さんの手袋をした手が、そっと僕の股間に触れていく。最初は少し冷たかったが、すぐに気にならなくなる。

 静かな室内に小林さんが指を動かす音だけが響く。

 見えない分、触覚が敏感になる。


 太ももと肉の合わせ目の間を触られる。

 でもトイレに行ったとき拭いた部分だ。


 そしてゆっくりと肉の合わせ目が開かれていく。今まで閉じていた口が初めて開くように外気に触れていく。


「んっ」


 つい声がもれてしまった。

 小林さんの手は一瞬止まったが、また何事もなく動き始め、開いた部分に小林さんの指が置かれる。

 まるで口の中に指が入ってきたような、それよりも数倍数十倍の刺激が下半身に走る。


「声出してもいいですからね」


 そう前置きして小林さんはそっと上の方を撫でた。


「っ!?」


 あまりの刺激に下半身が飛び跳ねそうになるがなんとか抑えた。


「……」


 小林さんは黙って今度は先ほどよりも下のほうを触る。

 少し刺激があるが先ほどではない。


「少し痛いかもしれませんが我慢して下さい」


 小林さんの声は変わらず穏やかだが、少し怖い。痛いって何?


「んくっ、ぐっ、う、うそっ!?」


 何かが体の中にはいってきた。

 お尻じゃない。

 そこじゃない。

 そんなところに穴なんてー!


 あ。


「お疲れ様でした。これで診察は終了です。タオルどうぞ」


 僕が体の違和感の正体に気付いたとき、ちょうど触診は終わった。

 時計を見てみれば触診にかかった時間はおよそ三分ほどだろうか。

 たったそれだけの時間で僕はこの体が『女』だということを体感してしまった。


 少し落ち着けば遊んだゲームのアレなシーンが蘇ってくる。

 撫でられたのはあれ。

 入れられたのはあれ。


 立ち上がって股間をそっと拭く。

 怯えながら拭いたけど、特に問題はなかった。

 逆に恥ずかしくなってしまってパンツとショーパンを慌てて履いた。


「気分はどう?」


 道具を片づけ終えた小林さんがそっと僕に寄り添う。

 触診が始まる前より心持ち優しい声色な気がする。


「少し怖かったです」


「男の子の心に女の子の体は怖いよね」


 僕が正直にそう言うと小林さんはそっと僕を抱きしめた。


「私はあなたの力になるからね、葵ちゃん」


 またちゃん付けが増えた……。

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