提案
短いです
「はあ……」
西園寺さんのリムジンの中。
車は竹宮さんの家を離れ何故か高速道路に乗っていた。
リムジンの中は普通の車と違って中はちょっとした部屋のようになっていた。
運転手のメイドさんー環さんーを除いた四人は窓を背にして向かい合って座っている。
西園寺さんがお金持ちのお嬢様とは聞いていたけど、それを実感するのは初めてだった。ああ、校門にリムジンが止まっていたのを教室の窓から眺めたことくらいはあるかも。
執事さんにメイドさん(語尾ににゃあ)を紹介されたときは本当にビックリした。こういう人たちってマンガやゲームの中だけの話じゃなかったのか……。
しゃべり終えた竹宮さんが、その隣にいる銀髪の女の子が僕こと藤宮葵であることを話すと、静かな車内に向かいに座っていた西園寺さんの小さなため息がよく聞こえた。
「ホントに藤宮さんなの~?」
西園寺さんが目を大きく見開きながら僕を見回す。その無遠慮な視線につい身が縮こまってしまう。僕はなんとか首を縦に何度も振る。
「短時間で男性が女性に性転換、しかも若返り。いやはやさすがに……にわかには信じられない話ですな」
その隣に座る執事さんー長島さんーも眉間を押さえて呟く。
「私が葵ちゃん……藤宮くんであることを確認しました。あと藤宮くんの妹の佳奈さんも、この子をお兄さんだと認識しました」
「ご家族さんがそう言ってるんならそうなんだにゃあ!」
竹宮さんの言葉に運転席の環さんがこちらを振り返らずに同意する。
竹宮さんが話した僕が女の子になった件は、西園寺さんと長島さんが半信半疑、環さんが信じてくれた感じだ。
「そのような不思議な話、旦那様も聞いたことはないのでは……」
「それだにゃあ!」
呟いていた長島さんの呟きの一つに、いきなり環さんが大声で食いつく。その勢いでリムジンがふらつく。怖い怖い怖い。
「環?」
西園寺さんが環さんの叫び声に驚きつつも話を促す。
「旦那様にお話してみるにゃあ!」
「ふむ」
「お父さまならもしかしたら~?」
環さんの提案に長島さんと西園寺さんが納得した風に頷く。
見ると竹宮さんですらはっとした表情で西園寺さんを見ている。
どうやらこの車内でピンと来ていないのは僕だけのようだ。
「あの……」
向かいの西園寺さんに話しかけてみる。
西園寺さんはそれに気づくと「ええと」と話をしてくれた。
「わたしの家は病院を経営しててね、お父様は医者なんです」
そうだったんだ……。
「お父様に相談してみてみるのはホントいいかもです」
そうなのかな……。
「そうそう、藤宮さん」
「はい?」
「わたしも葵ちゃんって呼んでいいですか~?わたしのことも智絵里と呼んで仲良くしましょ~!」
両手を合わせ顔の横に置いて、笑顔で言う西園寺さん……智絵里さんの顔は、竹宮さんが僕を見ておかしくなっているときと一緒だった。
大丈夫かな……。




