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帰り道

「二人とも気をつけて帰ってね!」


 しゅたっと手を上げ、静香は軽やかに身を翻して部活動に向かっていった。走ったら危ないって。


「それじゃあ桃華ちゃん行こっか~」


 抱き付く体を離して智絵里が私の顔を覗き込む。

 智絵里の方が小さいので私を見上げる形だ。


 ああ、そういえば、エリィが違う車になった時点で私は智絵里と一緒に帰ることが決まってたんだった。


 ここまでしてもらった以上、今さらやっぱり一緒には帰れないと断りにくい。


 ……。

 葵ちゃんに隠れてもらえばいいか。エリィも来ないことだし、葵ちゃんの存在が見つかることはないだろう。

 そう決めてしまえば気持ちも楽になった。

 なんだかんだ考えすぎの私には友だちの存在が大きい。

 隠し事があるのは心苦しいけど、こればっかりはしょうがない。


「ちょっとメールしてから行くね。昇降口で待っててくれる?」


 私は智絵里にそう言付けする。

 智絵里は「分かった~先行ってるね~」と手を振りながら教室を出て行った。

 私はスマホを取り出すと葵ちゃんにRINEを送る。


『今から西園寺さんと一緒に家に帰るのでリビング片付けて客室に籠もっててね』


 すぐに既読がついて返信がきた。


『分かった、隠れとくね』


『ゴメンね、よろしく』


 私は返信とともにウサギさんスタンプを押してRINEを閉じた。

 これで一安心。

 私は改めて荷物を手に取り昇降口へ向かった。



 智絵里と一緒に校門まで歩いていくとそこには不思議な光景が広がっていた。

 下校する学生の人並みがざわざわと一部乱れていて、そこから文字通り頭が一つ、飛び出ているのが見える。

 その頭がこちらを見つけるとゆっくりと私たちのほうへ歩み出た。


「智絵里お嬢様お待ちしておりました。そして竹宮様、お久しぶりでございますな」


 スーツ姿に白髪オールバックの老紳士が丁寧なお辞儀でにこやかに私たちに挨拶をしてきた。

 西園寺家お抱え、智絵里の専属執事の長島さんだ。


「長島、お迎えありがとうね~」


「いえお嬢様これくらいは。車はすぐに……おや、来ましたな」


 交差点の影から黒いリムジンが姿を現した。

 運転席はスモークがかかっていて見えにくいが、私は誰が運転しているか見当はついている。


「どうぞ」


 校門前ということもあり、智絵里と私はそそくさとリムジンに乗り込んだ。

 最後に長島さんがドアを閉めながら乗り込むとリムジンは音を立てずに走り始めた。


「わたしも乗せていただきありがとうございます、長島さん、環さん」


 私は執事の長島さんと、運転席でハンドルを握っている智絵里専属メイドの環さんにお礼を言う。


「気にすることはないにゃあ!」


「環」


「長島」


 メイド服姿の環さんが元気良く返事をし、長島さんがたしなめ、智絵里がさらにそれをたしなめる。

 楽しそうな風景だと思う。


「智絵里さま、行く先は桃華さまのおうちでよろしいかにゃ?」


「それで~」


 智絵里と環さんは小さい頃から一緒に暮らしていてほぼ同い年らしい。智絵里のゆるふわ空気は環さんとの生活で培われたものだと思う。

 長島さんもかぶりを振ってはいるが、あれ以降たしなめることはない。いつものじゃれ合いのようだ。



 リムジンはすいすいと進み、うちへ到着した。


「智絵里、送ってくれてありがとね。長島さんも環さんもありがとうございました」


 私はお礼を言うと車を降りた。


「智絵里、家に寄ってく?」


 車の中の智絵里に聞いてみると、彼女はふるふると頭を振った。


「お大事に、だよ桃華ちゃん~!」


 走りゆくリムジンを見送りながら、本当に私の考えすぎ癖はよくないなと思った。

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