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私の抱えごと

小説全体の揺れを少し修正しました。

 午後の授業は特に何もなく。

 ホームルームが終わり、私は荷物をまとめて席を立つ。

 智絵里と静香に帰りの挨拶をしようと二人の姿を探すと


「桃華ちゃん、一緒に帰ろ~」


 同じように立ち上がった智絵里が私に声をかけてきた。


「ごめんね智絵里。朝も言ったんだけど、今日私用事があるからスイーツは一緒に行けないの。それに」


「分かってるよ〜。それに体調も良くないんでしょ~?だから家の車で桃華ちゃんを送ってあげるよ~」


 私が改めて用事があることを告げると、智絵里はニコニコ嬉しそうに両手を上げて返事を返してきた。


 実は私の親友の智絵里、西園寺智絵里(さいおんじちえり)はお金持ちのご令嬢だ。

 大神市内に住んでいて普段は皆と同じように公共交通のバスを利用して登下校している。

 普段は実家がお金持ちであることを特に言うわけでもなく、またそんな素振りを見せないし鼻にもかけないので、私も遠慮なく話が出来るし、クラスメイトにも慕われている。



 朝、智絵里や静香に私が話していた用事。

 それは女の子になってしまった葵ちゃんー藤宮葵くんーの家に行くことだ。


 昨日は魔法少女のことを知ってもらうため、魔法のことを知る人が全くいない私の家に葵ちゃんを泊めた。


 でもそれはあくまで緊急手段であって、葵ちゃんの精神衛生上、実家で暮らせるのが良いことに変わりはない。


 銀髪の女の子をお宅の息子さんですよ、とご両親に説明するには、どこにも息子の面影がない可愛い女の子な本人やお兄ちゃんっ子な佳奈ちゃんの二人だけでは難しい。下手すれば佳奈ちゃんのイタズラだと思われてしまう可能性だってある。

 だから第三者の私が葵ちゃんとご両親の間に入って穏便に解決したいと考えている。

 まだ何も策はないけど、そこは話の流れに沿って考えるしかない。

 もちろんご両親の考えやご家族の意思が最優先なのは言うまでもない。



 だけど。

 もし私の用事が男の子の家に行くことだなんて智絵里に知れたら。


 この子だって花も恥じらう乙女、そして誰が好きだ誰々が付き合った別れた、そんな噂話が同年代と同じくらい好きな女の子。


 このまま智絵里に送ってもらって藤宮くんの家に直行した日には、翌日の朝には噂が広まり、私はクラス中の女子から静かに、だけど苛烈な質問責めに遭うことだろう。


 クラスの男子だって同じようなものだろう。私のような陰キャな女子ですら、休んでいる男子に会いに行くだけで大騒ぎする始末だ。

 そこから藤宮くんー葵ちゃんーの秘密の一端に触れられても困る。


 私がただ用事を済ませようとするだけでここまで予想出来てしまう。


 私の家には葵ちゃんが待っている。

 うちのマンション前で下ろしてもらったあと、そのまま別れたら良い話、なんだけど。

 普段、そもそも智絵里の車で送ってもらうこと自体滅多にないけど、そのときにはいつも家に上げている。なのに今日だけ上げないのも不自然だ。


 それに。

 智絵里の車にはおそらく双子の妹も一緒に乗るだろう。

 車があるのに乗らない、というもったいないことは彼女は選択しない。


 すると葵ちゃんと彼女の接近を許してしまうことになる。


 私だってこの学校内にいる魔法少女四人はここからでも識別出来る。

 彼女ならマンション前から魔法少女を認識出来るだろう。


 まだ魔法少女組織にすら連絡していないのだ。

 私が彼女と一緒に魔物と戦っていることがバレると、あることないこと言われそうだ。



 頭を抱えるように悩んでいた私を見ていた智絵里はスカートのポケットからスマホを取り出すとおもむろに電話をかけた。

 おそらく家に、だろう。


「長島さんこんにちは。今よろしいですか?ええ、私と友人を学校まで迎えに来てほしいの」


 大人の人と会話するときはいつものゆるふわな空気はどこへやら、しっかりとした口調で話す。


「ええ、そう。あとお願いがあるんだけど」


 そこで智絵里は私の顔を見てニッコリ笑う。


「エリィには別の車出してあげてね」


 不意打ちをくらってしまった。

 エリィには別の車、つまり一緒の車には乗らなくていいということだ。

 私はそこまで顔に出ていたのか?

 電話を終わらせた智絵里が私の顔を覗き込んで言う。


「桃華ちゃんたらす~ぐ一人で悩んじゃうからね~。体調悪いのにエリィと一緒だと気が休まらないだろうし~。だからほら、安心して一緒に帰ろ~」


 そう言って智絵里は私に抱きついてきた。

 ああ。

 昨日から今まで、たくさんのてんやわんやを私は一人で抱えていたことに気付く。

 気の許せる仲間に少し一緒にもってもらおう。


 部活動に行く準備をしていた静香は私たちを見て


「桃華はすぐ一人で抱え込むからね。少しは私たちに相談しなよ」


 心の中で思ってたことを言われて、私は笑ってしまった。

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