結界魔法
「さて次は結界の基礎理論か……」
国語は得意科目で特に読書系が強い。けれども延々と説明だけが続く文章は苦手だ。
こういう文章を読むのは理数系が得意なんだろうな、と思う。
こんな時こそ竹宮さんのノートの出番。
早速ノートを開いてみる。するとそこには走り書きだが読みやすい文字で、余白すら埋める勢いで細かいところまでびっしりと書かれていた。
「はぁ……」
思わず声が出てしまう。
このノートの記述によると、竹宮さんは一昨年の四月から魔法の勉強を始めたらしい。一昨年の四月というと中学二年生になったばかりの頃だ。そんな頃から竹宮さんは高校受験を見据えていたのか?
僕が中学二年の頃なんて小学校の延長くらいな気持ちでバカなことばかりしていたり、厨二病に罹患していたりとある意味黒歴史だ。もちろんこの女の子になったことも将来黒歴史となるのか、それともこのまま成長してしまうのか……いや、怖い想像はよそう。
赤ちゃんを抱えた自分の姿を頭をぶんぶん振って吹き飛ばす。長い髪がそれにつれて振り回される。
竹宮さんのノートは日付や参照するテキストのページ数も記入されているので読みやすい。
基礎理論についてのまとめやポイントはあるかな……?
「ここだ」
探していた場所を見つけ、僕はテキストとノートを突き合わせてゆっくりと内容を噛み砕いていく。
結界魔法はいくつか種類があり、魔物を閉じ込めるものを封鎖結界と呼ぶらしい。
封鎖結界は魔物の出入りを禁じ人の出入りを禁じ、魔法少女以外の出入りを禁じる。封鎖結界は魔力を持つ者にしか探知されない。
それはまるで極小の別次元を作り出すようなもの、だそうだ。
基本的に行使者本体と結界は切り離されるが、結界と行使者を繋いだまま結界の維持や封印結界へ変化するものもあるらしい。
僕は昨日見た竹宮さんの作り出した封鎖結界を思い出す。
あの結界は見事だった。
全魔力を持っていかれたのが失敗だと竹宮さんは言っていたが、確かに込められた魔力量は僕ですら感知出来るほどすごかった。
結界の中からも外からも向こうが見えていたし、僕の全力の自爆でも傷一つつくことはなかった。
そして天まで届く結界の暖かな光。本当にキレイだった。
あんな見事な結界をいつか僕は作れるんだろうか……?
僕はテキストを読み進めて実践してみることにする。
まずは掌サイズの結界を作成すること、と書いてあった。
結界を作れるかどうか、ということだろう。
封鎖結界には決められた文言、呪文が記述されていた。
とても長い。長いけど僕は暗記は得意だ。
何度も口に出して暗記を繰り返す。
さて、実践だ。
僕は椅子を飛び降りリビングの床に座り込む。すると自然と女の子座りになってしまった。
さてさて。
掌サイズの正六面体をイメージする。
そして先ほど暗記した、テキストに記述されていた呪文をリズムに乗せて詠唱する。
掛け声はない。
静かに魔力を解き放つ。
イメージした場所に白く輝く結界が現出した。
深呼吸をする。
結界は消えない。
手を入れてみる。
手はすり抜けた。
これは成功じゃないだろうか?
そう安堵した時、悪意しか感じられない黒い波動が僕の背筋を凍らせた。
「魔物……っ!?」
立ち上がって辺りを見渡す。リビングの中で周囲は部屋の壁に囲まれていたけど、黒い波動が立ち上る方向は感じられた。
スマホが鳴る。かけてきたのは竹宮さんだ。
『葵ちゃん聞こえる!?感じた!?』
『感じた!』
『私今すぐ行くからー』
『僕が行く!』
『はあ!?結界まだ使えないでしょ!?』
『使える!!』
僕は思わずそう叫んだ。
『ほ、本当に!?』
『うん、だから必要なこと教えて!』
僕は竹宮さんに教えてもらった場所からこの家の鍵を取り出す。
『何?』
『いつ魔法少女になればいい?どう魔物のところまで行けばいい?』
『魔法少女になればレーダーとかには探知されないからそのまま私は空を飛んで行くけどまだあなた空飛べないー』
僕は取り出した家の鍵を元の場所に戻し、かけたままのスマホを無造作に寝間着の上着の大きなポケットに入れると
「マジカルガール イルミネーション メイクマイドリーム!」
僕は変身してベランダの窓を開け手すりに手をかけると、その場でジャンプして身を乗り出すとそのまま空へと飛び出した。




