プロローグ2 私の初陣
「ふう……」
ようやく自分の家のリビングまで辿り着くと、お姫様抱っこで運んでいた銀髪の少女をゆっくりと床に降ろした。
そしてバスタオルを三枚洗面所から持ってくると一枚を床に敷き、少女をその上へと移動させ下ろした。
もう一枚を少女の裸体にかけ、最後の一枚を折り畳んで枕にして少女の頭の下に置く。
残暑厳しいこのご時世、エアコンはかけているが風邪はひかないだろう、おそらく。たぶん。
そうして私はようやく変身を解いた。
ふわふわの青いドレスが光に包まれるとその中からパジャマが現れ、パジャマ姿の私は力尽きその場にへたり込んでしまった。
正体不明の謎の魔法少女。
魔物に取り込まれていたこともあり自分のベッドに寝かせるのには抵抗があった。
しょうがないでしょう、この部屋に人を上げたのも初めてなら、それが知らない少女ときた。
助けてもらったことには感謝しかないが、さりとて一難去ってしまうとドライになってしまう自分が少しだけイヤになる。
「ホントに大変だった……」
oooooooooo
あの戦闘後。
私は少女の元に辿り着いたあと、脈を取り命に異常がないことを確かめた。
そっと彼女のそばにぺたりと座り込み、改めて顔を覗き込んでみる。
「……可愛い」
女の私をして少女はとても可愛らしかった。
体の割には小さな顔に整った目鼻がバランスよく配置されている。
あれだけ威勢のいい言葉を放っていたとは思えない温和な顔立ち。
目が覚めたら花開くようにその可愛らしさが輝くのだろう。
肌も白く透き通っていて、銀髪と合わせて白銀の妖精のようだ。
しばらく少女の顔に意識を奪われてしまった。
改めて精神を集中させ、少しだけ結界の大きさを縮小させる。
「くっ」
初めて魔物と遭遇して無我夢中で結界を張った結果、全ての魔力を結界に持っていかれたのは失敗だった。
張った結界を維持するだけで精一杯だった。
スライム状の魔物といきなり鉢合わせ、腰を抜かして動けなくなったのも大ピンチだった。
だから彼女が颯爽と現れてくれたのは本当に助かった。
雑念が入ったのか、結界が大きく変化していく。
「ととっ」
しばらく悪戦苦闘したのち、なんとか結界の大きさを安定させることに成功した。
縮小した結界から魔力を回収し、彼女の体を魔法で癒すことにする。
「プライマリーヒール」
私に扱える初歩の初歩の回復魔法だが、彼女の体は暖かい光に包まれていき、傷ついた銀髪が少しずつ輝きを取り戻していく。
彼女の体内の魔力には触ることが出来ないが、素人目線で見ても大きなダメージは感じられない。
まだ目を覚まさないが命に別状はないだろう。
プライマリーヒールを十分ほどかけ、治療を終える。
「さて、と」
ここからがまた一仕事である。
この少女をどうにかしなければならない。
彼女が目覚めるまでここに留まるのは問題がある。
結界で人や魔物は入って来れないが、時間は止まってくれない。このまま夜が明け、人が闊歩するようになると裸の少女を連れ歩く私は即補導されてしまう。
そんなのたまったものではない。
だからといって置いていくのは論外。
そして私の格好だって一般人に見られたらコスプレだ。何が悲しくて地元で一人コスプレで往来を歩き回らねばならないのか。
だからといってここで変身を解くのは不安しかない。
お風呂に入ってパジャマに着替えていたところで魔物発生を感知したのだ。
そして変身を解いたら私は非力な高校生だ。
手段は一つしか思いつかなかった。
彼女を家へ連れて帰る。
ただの高校生の私にとって隠れ家とか別荘とかそんな大層なものはない。
初陣魔法少女には秘密基地も当然ながらない。
彼女が目覚めるまで、一人暮らしの私の家に匿うのが一番だろう。
魔力で上がった腕力で少女を抱きかかえる。
さすがに裸の少女を背負うのは可哀想だ。なのでお姫様抱っこである。
私ですらまだされたことないのに。でも自分が同性にされたら複雑な気分になるだろうなと想像して苦笑してしまう。
夜が明けるまでまだ少し時間がある。
結界を保持したままゆっくりと移動する。
移動に合わせて結界を移動させることが出来るかどうかなんて聞いてはいない。だけど頭の中でそうイメージを明確に持つことで私の歩みに合わせて結界も動き出す。
瞬間、結界の維持と移動に体が持っていかれそうほどに魔力が私の中で暴れまわる。
「くぅ……!」
油汗が額ににじむ。
力が抜けそうになる。
体ががたがたと震える。
最初こそ失敗した。
結界の展開に全ての魔力を使い果たし、初めての魔物に腰を抜かした。
だけど諦めない。
私の腕の中で未だ目を覚まさない少女が全力で私を救ってくれた。
なら私もここからが再スタートだ。