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初めてのお風呂4

「さすがに体くらいは自分で洗えるよっ」


 体を横に向け、ひっついてくる竹宮さんをはがしながら僕は言う。

 誰かに体を洗っているもらうなんてそれこそ小学校高学年くらいまで、佳奈と一緒にお風呂に入っていた頃までだ。


 それにだ。

 さっき髪を洗ってもらっていた時から、もっと言えばこの体になった時から、この体は敏感すぎる。

 時々自分の体に触れたり見たりしていたが、肌のキメも細やかでつるつるでさわり心地が良くて……触られ心地も……良い。

このままじゃこの心地良さに飢えてしまう。


「ただごしごし洗うだけじゃないんだよ、まぁまぁここは女の先輩である私にどーんと任せて」


 また胸が押し付けられる。

 大きい。

 ああもう。

 どうして僕の心に「羨ましい」という感情なんかがよぎるのだ。


 ああもう……。

今日はもういいや……。


「それじゃあお願いします……」


 僕は流されやすいのかもしれない。

 その間に竹宮さんはシャワーを取り外し僕の体にお湯をかけ始める。


「体全体にお湯をしっかりかけてー」


 お湯も気持ちいいんだよね。


「葵ちゃんはお風呂で体洗うときってタオル使う?」


 お湯をかけながら竹宮さんが聞いてくる。


「普通にボディタオルかな」


「ふむふむ。葵ちゃん用のウォッシュタオルは今日準備出来てないから、手洗いね」


 手洗い?

 シャワーを壁に掛け、おそらくボディソープのボトルを抜き取るとしばらくして


「くすぐったいかもしれないけどガマンしてね」


 と言う言葉とともに首すじに泡だらけの竹宮さんの手が添えられた。そしてゆっくりと泡を塗るように体が洗われていく。

 少しくすぐったいがこれくらいならガマン出来る。


「これだけでも汚れはちゃんと落ちるし、肌への刺激も少ないんだよ」


「そうなんだ」


 体の洗い方はマスター出来そうだ。

 あわあわの手は首から腕、指、脇へ、そして


「さすがに体の前は出来る!」


 お腹の脇からにゅっと現れた竹宮さんの泡だらけの腕を止める。

 未練たらしく僕のお腹のお肉をふにふにとさすってくるが、さすがにここで引けない。


「さすがに今はダメか」


小声で竹宮さんが怖いことを言う。


「いつでもダメだよ!?」


 後ろから回ってきたボディソープを受け取り、プッシュを一回。


「もっとたくさん出して。しっかり泡立てていっぱいの泡で体の表面を丸く撫でるような感じでね」


 僕は言われる通り何回かプッシュして泡立ててみる。

 しばらくしてきめ細かい泡が両手の中で作られた。


「こんな感じ?」


「上手上手」


 泡立てるのはメレンゲ作りで多少慣れている。

 しっかりと空気を取り込むことが重要だ。


 そっとお腹に手を当てて泡を回しながら伸ばしてみる。

 が、竹宮さんから指導が入る。


「体を洗うときは基本的に上から順番。首の下からね」


 そういう訳で首の下から洗う。

 そして鎖骨。

 そしてー


 僕の手は一瞬止まったがこれはやましいことではない。

 自分の体を洗うだけ、と意を決して胸を洗い始めた。

 他の部位を洗うときとは緊張感がまるで違う。

 しっかりと存在を主張する双丘。


 僕はなるべく平常心を保って体の前面を洗い終えた。

 だというのに


「ソコは最後ね、次は背中」


 右手の人差し指で告げられてしまった。

 その指にボディソープのボトルを当てると器用に握って回収された。

 背中はさすがに手が届かない。

 明日買い物に行くことが出来れば買ってこないと……。

 明日……。

 そういえば明日は平日、学校がある!?


「あ、明日学校どうしよう!?」


 僕は慌てて竹宮さんに振り向こうとしたがすんでのところで思い留まる。

肌色の暴力が目に入るところだった。 


「明日はさすがに休んだほうがいいと思う。まずは藤宮k……葵ちゃんのご両親にどう説明するのかも考えないと」


「説明……」


「佳奈ちゃんは納得してくれたけど、ご両親が納得されるかはまた別の話だし、戸籍とかの問題もあるし」


 それでも、と竹宮さんは続けて僕に立つようにジェスチャーで促す。


「今考えてもどうにもならないんだから心配しないで」


 そう言って僕のお尻と太ももの裏を洗い始めた。

 言葉と行動にギャップがあるよ……。

 されるがままにしておく。

 悪気はないのだから。


「今度は足ね」


 回ってくるボディソープ。

 泡立てて足を洗い始める。

 太ももはさわり心地がとても良い。毛なんて全く生えていなくて、足全体がツルツルしている。


 こうして体全体が泡に包まれた。

 ……一部を除いて。


「最後はデリケートゾーンなんだけど」


 単語は分からないが残ってる部位と語感で何となく察してしまう。

 そしてどうしても身構えてしまう。


「多分ぬるま湯で軽く手洗いして流してくれたらいいかな」


 ……僕はひたすら無感情でソコを洗い終えた。

 何も感じない。

 初めて触ったソコには、やはり僕の相棒は影も形もなかった。

ただ肉で出来た割れ目があるだけだった。


「洗い流すよー」


 シャワーで泡が流されていく。

 そっと指で二の腕を触ってみる。

 つるんつるんだ。


「いや本当葵ちゃん瑞々しいよ、ちょっと同い年とは思えないくらい」


 竹宮さんがそう言うが、僕も少しだけ若返ったのでは?という疑念が心にあった。


 あまりにも体が小さすぎる!!


「はい、おしまい」


 立って全身にお湯をかけてもらった僕に竹宮さんはそう宣言する。


「さあ湯船にゆっくりつかってね」


 そう言って竹宮さんが自分の体にシャワーをかけ始めた。


「竹宮さん寒くなかった?」


 浴室に入ってからずっと、裸で僕の髪や体を洗ってくれたのだ、体を冷やしてしまったのではないかと、僕は湯船につかって今更気付いて心配してしまう。

 背中を向けていても心配なものは心配なのだ。


「ん、大丈夫。時々自分にもシャワーかけてたし」


 すぐにシャワーの音が止まると、竹宮さんが湯船に入ってきた。

 背中を向けている僕の後ろ。僕の両脇から竹宮さんの足が伸びてくる。なんですと。


「ちょっと甘えさせてね」


 竹宮さんがそう言いながら僕の体を引き寄せる。あっというまに小さい僕の体は彼女に全身で抱き抱えられた。

 言い方がいちいちズルい。

 女の子ってズルい。

 そう思いながらも彼女のしたいように身を任せた。

 彼女が僕に覆い被さってくる気配を感じる。

 そう思ったのも束の間、彼女の胸の中に僕の後頭部は押し込まれた。

 耳に柔らかい感触が当たる。


「私一人っ子でさ、こういうの憧れてたんだ……」


 竹宮さんが僕をぎゅっと抱きしめながら呟く。


「ちっちゃい子好きだけど、本当は妹ほしかったんだ……」


 危険なワードは敢えて聞かなかったことにする。


「今日だけだから、ごめんね藤宮くん……」


 耳元でささやかれる言葉。



 ()()()



「今日だけだからね、お姉ちゃん」


 びくり!!


 彼女の体が震えた。


「あ、葵ちゃん……?」


「今日だけだからね、お姉ちゃん。そして今日はありがとう」


 ()()()は振り返ってお姉ちゃんと顔を会わせるとその首にぎゅっと抱きついた。


「!?!?」


 少しだけ混乱していたがすぐに落ち着くとお姉ちゃんは()()()の体を優しく抱きしめ返してくれた。




 oooooooooo




 藤宮くん……いや、葵ちゃんが私の背中を手洗いしてくれている。

 葵ちゃんが女の子として振る舞っている。

 さっきまで浴室での葵ちゃんの反応はとてもうぶで可愛かった。まるで女の子慣れしていない。佳奈ちゃんという妹がいるのにね。

 その反応が楽しくて私もついつい暴走してしまったかもしれない。

 普段なら言わないようにしている言葉やいたずら心がついこぼれてしまった。

 ……後で反撃を貰わないようにしないと。


 妹は欲しかった。これは嘘偽りない本心。そして今ではもう叶わない願い。憧れ。

 藤宮くんと佳奈ちゃんの遠慮のないやりとりが羨ましかった。


「終わったよ、お姉ちゃん」


「ありがとうね」


 背中と腰を洗い終えた葵ちゃんの手をシャワーで洗うと、葵ちゃんはまた湯船に入っていった。

 体を洗いながら横目で見ると、葵ちゃんは体を伸ばしたりほぐしたり。

 私や佳奈ちゃんのような女の子ならともかく、普段男の子が家の浴槽で体を目一杯伸ばせることなんてあまりないだろう。



 藤宮くん……葵ちゃんはしばらく妹として振る舞ってくれた。

 お風呂でのスキンケアも、お風呂から上がったあとの体のお手入れも任せてくれたし、髪を乾かすときもまるで妹のように私のするがままになっていた。


 私が自分の髪を乾かし終えたとき、葵ちゃんはテーブルの椅子についてカップアイスを食べていた。

 すると、突然スプーンでアイスをすくう手がぴたっと止まったかと思うと目を何回かしばたかせた。


「お姉ちゃん……竹宮さん?」


 どうやら姉妹ごっこはお終いらしい。

 お姉ちゃん呼びが終わってしまったのは残念だけど無理強いは出来ない。


「ありがとうね、藤宮くん」


「あー……こちらこそ?」


 藤宮くんはキョロキョロしたり何か考え込んだりし始めた。

 どうしたのかな?

 ああ。そういうことか。


「さっきのことは誰にも言わないから安心してね」


「さっき……ああああ!!」


 当たりだったらしい。

 私は笑いながら真っ赤になっている藤宮くんの口についているアイスをティッシュで拭い、自分もアイスを取りに台所へ向かった。

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