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分かったことと分からないこと

遅くなりました。

 竹宮桃華さんの家はコンビニから徒歩三分のマンションの七階建ての七階だった。

 当然僕たちの町では一番高い建物である。


 僕は自転車を自転車置き場に置くと、玄関の前で待っていてくれた竹宮さんとともにオートロックの入り口を抜け中に入った。


 初戦闘のあと気付いた時には彼女の家に運び込まれていたが、コンビニへ行くために外に出る時には何にも意識がいっていなかった。

 エレベーターに乗ったくらいしか覚えていない。

 出たことはあっても意識があるまま入るのは初めてだ。


「すごい……」


 空いた口が塞がらない。

 今まで友達の家はほとんどが一戸建てで、残りがアパートや団地だった。

 初めて入る(厳密には二回目だけど)豪華なマンションに一人テンションを上げていた。

 ついついキョロキョロしてしまう。


「行きましょ」


 エレベーターを呼び出していた竹宮さんがエレベーターが到着した合図を見て澄ました顔で僕のほうに振り返る。

 その声にはっと我に返り、慌てて竹宮さんのあとに付いてエレベーターに乗り込んだ。


 竹宮さんは家に帰り着くとさっさと上がって洗面所に行ってしまった。


 僕は入り口で立ち尽くしていた。

 改めてこんな夜遅くに女の子の家に入ることに意識してしまう。

 さっきコンビニに向かうため走り抜けた時には気付かなかったが、この家はかなり広そうだった。

 この広さで一人暮らしというわけはあるまい。

 ご両親に挨拶しなきゃ。

 僕はそう考えたが、家を出る際竹宮さんが何も言わず、そして戻ってからも何も言っていないことに気が付いた。

 改めて玄関を見ると靴はたった今竹宮さんが脱いだ一揃いだけだった。


 一人暮らしなのか?


 そう考えると違う意味で緊張してしまったが、とにもかくにも僕は借りていたサンダルを脱ぎ、彼女が履いていた靴とサンダルを出来るだけ丁寧に揃えると


「おじゃまします」


 そう言って明かりの付いている部屋に向かった。



「麦茶だけどどうぞ」


 入った部屋は広いリビングだった。

 うちのリビングとは比べ物にならない。

 僕が寝ていたバスタオルが畳まれて隅に置かれている。


 リビングに入ると竹宮さんはすでにテーブルの椅子に腰掛けていた。

 竹宮さんの手元には氷の入った透明なコップが置かれていた。

 そして竹宮さんの向かい側には同じコップがこちらは麦茶が入った状態で置かれていた。


「ど、どうも」


 なんとなく頭を下げて僕は椅子に座ろうとする。

 思ったよりも小さい体と低い目線で少し座り辛かったが、両脇の腕のせに両手を置いて飛び乗った。

 そして


「いただきます」


 目の前にあった麦茶を一息に飲んだ。

 冷たい喉越しが体をすっきりとさせてくる。


「とりあえず落ち着いた、ってことでいいかしら?」


 喉を潤したことで気持ちも少しだけ落ち着いた。

 彼女の問いに僕は首を縦に振った。

 女の子になった理由は依然不明だが、これは竹宮さんにも分からないことだ。彼女を問いつめても仕方がない。

 それよりも彼女が知っていることをまず教えてもらいたい。


 竹宮さんはポットから麦茶のお代わりを入れて一口、口の渇きを潤した。そして


「良かった。また何が起きるか分からないから、要点だけ言うね」


 竹宮さんは安堵した顔で笑ったあと、真剣な顔になった。


「私は魔法が使える。魔法少女名はブルームーン。魔法少女組織の一員として、魔物からこの地域を守るために配属されている。地域毎に登録されている魔法少女は一人。つまり」


 竹宮さんは続けた。


「藤宮くんは何故魔法少女になったのか?どうしてここにいるのか?それが私にも分からないの」


 再び僕の心が落ち着かなくなってきた。

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