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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幻想世界短文記

魔導人形の創造主の話

作者: 狼さん

北方の魔導都市アルドア。

山脈地帯にも関わらず一年を通して過ごしやすい気温に保たれており

魔物避けの結界に加えて撃退用の設備に到るまでが魔導具によって補われている、

魔導具の製造が非常に盛んな都市である。

その都市の防衛組織・アルディラの魔道具開発部門に勤める一人の男が今回の話の主人公である。

―――生きる目的すら見失いそうなほど働き詰めの毎日。

ある日、男は思い立つ。癒しがないならば自分で作ればいいのだと。

それが当面の目的となり、作った後は正式採用されれば満たされるだろう、と。

思い立ったが吉日、軍の上層部に具申する文章を考える。

「魔導人形達が偶像崇拝めいて兵士達の士気を高めている。

・・・その辺は脳まで腐った上の連中だろうと知っているはずだ。

ならば更にその士気を引き上げる為・・・などと言っておけばいいだろう。」

適当に理由をでっちあげてしまえば保身と女の事しか考えていない軍の上層部などポンとハンコを押してくれる事だろう。

何せ自分が作るのは極めて精巧な美少女魔導人形だ。

尚、男の名誉のために言っておくとそんな風に作った方ががウケがよく、

何かと便宜を図って貰い易くなる為である。

「駄目ならその日が俺の命日だろうな。」

あるいはその結末の日だろうか?自嘲気味に笑いながら彼は文章をしたためた。

かくして、一月の後に彼の提案は承認された。


それから数か月後・・・―――

光を反射して輝く銀髪、雪のように白い肌に海のような青い瞳を持つ少女が扉を開く。

トンカチやノミ、ヤスリなどがそこかしこに置かれ、

鉄くずなどが散らばる作業場とは場違いに美しい少女が中年の男性に呼びかける。

「マスター・・・いえ、ただいま父さん。第3回目の試験運用より戻りました。」

「おぉ、誰かと思えばお前か。お帰り、フィア。」

フィア・・・正式名称・Fake Idea Automata model Balista。通称・フィアリスタ。

彼女はここで作られた偽人格搭載型魔導人形試作一番機だ。

会話や反応の調整もほぼ終わり、試験運用が何度か済めば正式採用へと到れる。

だが、当の製作者は娘との触れ合いを唯一癒しの時間として過ごすのみである。


「いやぁ、お前を作ったのは俺の癒しとなる為だったが・・・何と言うかなぁ。

お前とゆっくり過ごす為に今の俺は働いているよ。」

「父さん、でも、私は魔導人形です。試験運用が終われば正式採用されるでしょう。

つまり・・・」

言い淀む少女。父親は笑って答えた。

「ははっ!お前はそんな事心配しなくっていいんだよ。全部、父さんに任せておきなさい。

いつも何もできない俺だがね、お前を守る為ならばなんでもするとも。」

立ち上がり、少女に歩み寄って頭を撫でる。すると少女は俯きがちに頬を緩めた。

「父さん、私は・・・父さんの為に作られたんでしょう?なら、試験に失敗してしまえば、と何度も思いました。

でも、そうすると父さんに迷惑がかかる。それだけじゃない。私は処分されてしまう。だから、進むしかない。」

そうでしょ?と首を傾げると苦い顔で父親は頷いた。だが、肩を竦めながら

「フィアはいい子過ぎて、一度くらい迷惑をかけてくれた方が嬉しいくらいさ。」

などと冗談を口にした。今度は少女が苦い顔をするのだった。



そして、それから3カ月ほどが立ち。最後の試験運用の際、事件は起きた。

父親が娘の事を考えながら魔導具を作っていると勢いよく扉が開く。

「お父さんッ!!!」

勢いそのままに飛び込んで来る娘を抱き留め・・・切れずに父親は尻餅をついた。

「な、なんだぁ!?俺が急に押し倒されるという事は遂に恋愛感情すらも芽生えた・・・訳じゃないな!?

いやそもそも俺に対して抱いていい感情でもないだろう!?

ってそうだ!そうだな!今は確か試験の真っ最中の時間だったはずだ・・・その、さ。何があったんだい?」

人形でありながらも涙を流す娘の頭を撫でる。しばらく撫でていると落ち着いて来たのか、ポツリポツリと口を開きだした。

「お父さん、あのね・・・試験は成功したの。でも、その、偉い人が、私の方をジッと見て、嫌な笑顔を浮かべて、手を掴んで来て、」

部屋に来いと言われたので振り解いて逃げてきたのだと、少女は父親の胸に顔を埋めながらそう言った。

ギリッ、と妙な音に顔を上げれば父親が今まで見た事もないような表情で口の端から血を流していた。

「ごめんなさい、お父さん・・・迷惑、だよね。」

離れようとする娘の腕を掴み、再び抱き寄せる。

「お前は悪くない。大丈夫だ、全部父さんに任せてろ。」

口癖になりつつある台詞を吐きながら頭を何度も何度も優しく撫でる。

「私、父さんと離れたくない。戦場になんて行きたくない・・・」

「あぁ、父さんも同じさ。今回の事でよく分かった。」

恐らくフィアは相当な速度で逃げて来た事から兵たちがこの部屋に来るまで時間はまだあるだろうが、

悠長にはしていられない。父親は立ち上がり、扉を開く。

「しばらく部屋に居ろ。父さんは話しを付けて来る。父さんが声をかけるまで鍵は開けるな、いいね?」

少女が頷くのを見て、笑顔を浮かべ。

「大丈夫だ、父さんに任せておけ。」

サムズアップをして出て行った。


・・・―――

上官のもとへと向かいながら苛立たし気に男は呟く。

「あのエロタヌキめ・・・愛玩用なら人形じゃなくとも生身の女がいくらでもいるだろうがよ・・・」

事実、その上官は権力を盾に街の人間を好き放題にしていた。

守っているのだから見返りを貰って当然とばかりに。

「それよか、どう転んでも結末なんざ分かり切ってただろうが!」

そんな街でなまじ可愛らしく作り、その上命令には忠実に動く人形など作ればどうなるか。

火を見るよりも明らかであった。

「だが・・・コレは俺の怠惰が招いた事で、アイツは関係ねぇんだ。

なら・・・テメェのケツくらいテメェで拭かねぇとな。」

上官の部屋に近付くにつれて、段々と理性を取り戻していく。

程なくして、部屋の前。ノックを4回。

「フィアリスタの失態の件で相談したい事があって来ました。失礼します――」



次の日の夕方、男は疲れた様子で部屋に戻って来た。

「お帰り!お父さんッ!!」

飛びついてくる娘を今度は抱き留める。

「あぁ、フィア。ただいま。寂しかったろう?ごめんな。」

「ううん!お父さん、絶対に帰ってくるって思ってたから!私、我慢できたよ!」

褒めて褒めて、と言わんばかりに父親の胸に顔を擦り付ける。

「あぁ、いい子だ。俺なんかには勿体のないくらい良い子だなぁ、フィアは。」

「勿体なくなんてない!お父さんは一番凄いんだから!」

「そうか、そうか。ありがとうなぁ。そんな良い子のフィアに聞かなきゃならない事があるんだ。」

「なぁに?お父さん。」

不意に笑顔が消え、真剣な口調で語り出す父親の顔を不安げに見上げる。

そんな娘の頭に手を置きながら父親は告げる。

「しばらく、離れ離れになるかも知れない。

だけど、いつか必ずお前の所に帰ってくるから、待っててくれるか?」

信じられない事を聞いたと言わんばかりに見開かれる娘の目を見て、父親は締め付けられる程に胸が痛んだ。

だが、数秒の後に娘の口が開く。

「・・・うん、私、待ってるよ。父さんの帰りを、待ってるから。」

「その答えが聞けて良かったよ・・・ごめんな・・・フィア・・・

俺にはもうこれくらいしか方法が思いつかなくってさ・・・」

遂に涙があふれてしまった。二人の鳴き声が静かに響いた。


しばらくして、娘の涙をハンカチで拭いながら告げる。

「フィア。弾薬と金貨はありったけこのカバンに詰め込んだ。無駄遣いするんじゃないぞ?」

「うん、父さん。お金を使う時は人がよく出入りするお店で使って、なるべく銀貨に壊してから使う、でしょ?」

「あぁ、それから知らない人にはついていかない。優しくしてくれる相手はよく観察すること――」

と、幾つも幾つも確認と説明を繰り返して。日は暮れ往く・・・


「荷物はちゃんと持ったね?」

「持ったよ、父さん。」

「じゃあ、父さんは父さんの戦いに行ってくるよ。お前は、お前の戦いをしっかりやるんだよ?」

「うん、『大丈夫だよ、全部任せて。』・・・父さん。いってきます。それから、いってらっしゃい。」

いつもならば父親が言っていた台詞を、娘が奪う。

「いつの間にか成長したんだなぁ・・・」

窓から飛び降りる娘の姿を見詰めながら父親は微笑む。

「さーて・・・娘の旅路の景気づけに・・・派手にやるか。」

父親は白く大きな鎧を身に着けていた・・・両手の甲には横長の穴が開いており、背中は箱でも背負っているかのように突き出し、腰の両側には細長い筒のような物体。

異様の一言に尽きる歪な鎧であった。


『兵装名・Fair ista (フィアーガード) gardian起動・・・全システムオールグリーン・・・』

無機質な音声が言葉をつむぐ。

「行くぞオラァァァァァッ!腐れタヌキ共を狩り尽くしてくれるわぁぁぁぁっ!!!」

腰の両側についた筒が青白い火を噴き出し、鎧が宙に飛んだ―――



―――黒い夜空に逆に()()()()れ星を見た。

建物から爆発(あかいはな)が幾度も散った。

不謹慎な事だとは分かっているけど、綺麗だと思った。

だって、父さんが、私の為だけに頑張ってくれているのが分かったから。

でも・・・その間に、私は出来る限り遠くへ。

・・・魔導人形フィアリスタ。その名すら知らない遠くへ行かねばならない。

そして、父さんが来るまでそこで待つのだ。寂しいけれど、そう約束したから。

だけど・・・

「来る日も来る日も無理難題の残業放題!!!挙句に愛する娘すらも奪おうとした脳までクソの詰まった肉袋にはお似合いの結末だなァ!?ひゃーはははははぁっーーー!!!」

という父さんの楽しそうな雄叫びが聞こえて少しだけ、寂しさが薄れた気がした。

その分だけ沸いたこの気持ちはなんなんだろうな・・・

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