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グランセルネールの遺産  作者: 佐田祐美子
酷似の仮面
7/22

休憩室で



「んー……っ、はあ、緊張した」


 休憩室に入るなり、リーンは大きく伸びをした。


「そうは見えなかったけどな。いつも通り、堂々としてた」


 まだ少し耳の赤いレオンがリーンの頭を撫でれば、くすぐったそうな笑い声が上がる。


「レオンがいてくれたからね。どんなに心強かったか」


「そうか? 単純に殴って解決できないああいう場じゃ、全く役に立てないしむしろ足手まといだと」


「そんなことないよ。いてくれるだけで十分さ。よっと」


 リーンは華麗にターンして、ソファーに腰掛けた。ドレスの隠しポケットから、こっそり回収していた『酷似の仮面』を取り出す。レオンは後ろから背もたれに手をついて、仮面を覗き込んだ。


「それも、グランセルネール家の遺産か?」


「ううん。今回はハズレ。ただの魔法道具みたい」


 古くからグラン七貴族に課せられている役割のうち、曰くつきの品の管理はグランセルネールの領分。リーンの父が担っていた役割を知らずに、リーン達は飢饉の時に売り払ってしまった。


「全部集めてもう一度封印するまで、どのくらいかかるのかなぁ……父様のバカ」


 なので、リーンはことあるごとに父に悪態をつく。そもそも父が変なお土産コレクターなせいだったと。完全な八つ当たりだが。


「まあ気長にだな。見つけ次第回収ということで」


 レオンがひょいと仮面を取り上げた。少し余剰に魔力を流してやれば粉々になる。リーンがこてんと頭を後ろに傾け、レオンを見上げる。


「ねえ、レオン。少し休憩したら会場に戻って一曲踊ろう?」


「うっ」


 レオンはあからさまに狼狽えた。運動神経は悪くないが、ダンスだけはどうしても苦手だった。リーンもわかって言っていて、にっこり笑う。


「大丈夫。僕を誰だと思ってるの? これでも名門貴族のお嬢様なんだ。完璧な角度で踊りきってみせるよ」


「っ、そ、それ。この間から気になってたんだが、その角度っていうのは一体なんなんだ?」


「そのこと? あのね、同じ動作でも見せる角度を気をつけることによって、綺麗に見せることができるのさ。例えば、あの中庭で花を愛でる時に、こう」


 リーンは立ち上がって背筋を伸ばし、首筋に気をつけて少し屈んだ。頬に落ちた髪を――まあ今はウィッグだが――中指に乗せ、耳を包むように手を動かしてかける。レオンがほうと息をつく。メイベルと比べると天地の差がある……と言うとリーンが怒りそうなので端的な感想を述べる。


「なんか、すげーな。いつもそんなこと考えながら生活してんのか」


「あっははー、やだなあ。そんな面倒なことしないよ」


 レオンの前でだけだよ、とは心の中でつけ足す。だってレオンにはいつだって可愛いと思ってもらいたいのだ。ただ、これはさりげなくやることに意味がある。だから絶対に言わない。レオンは気づかず「だよなぁ」と呑気に笑っている。


「それはもういいとして、気を逸らそうったってそうはいかないんだからね。僕と一曲踊ってもらいます!」


「だ、だめだったか……」


 リーンはふふんと笑ってみせた。


「大丈夫。どんな殺人ステップだって華麗にかわしてみせるよ」


「そ、そこまでひどくねぇよ!」


 たぶん、と小声でつけ足したのに少し笑って、二人は手を取ってホールへ戻っていった。




――――END

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