対決
鏡の中でリリアンヌが笑っている。ラメの入った深い青と白がグラデーションになったドレス。ダイヤの首飾り。大ぶりのトパーズのバレッタ。それらは全部おねだりして買ってもらったプレゼント。偽者と知らずに機嫌を取ろうと皆必死になって。
さとはどこかの貴族様と結婚してしまえばいい。既成事実さえ作ってしまえばこっちのものだし、偽者と結婚したなんて言えるはずないだろう。
本物のリリアンヌがどんな顔をするか、想像しただけで笑い声が漏れる。
「リリアンヌ・グランセルネール様。お時間です」
呼びに来た近衛兵に促され、控室を出た。すぐそこには幼い国王と無表情の王妃が座っている。
「――本来であれば、一貴族の令嬢のためにこのような場を設けるのは不公平となるであろう。しかし、古くから我が王家に忠義を尽くし――」
まだ子どもだというのに生意気な言葉遣いをする。それよりも、さっさとこのおかしなパーティーを始めてくれ。
「では、リリアンヌ・グランセルネール嬢よ、ここへ」
王がこちらへ視線を向けた。それを受けてゆっくりと歩みを進めた。壇上でにこりと微笑めば、視線が一斉に注がれる。お辞儀をしようと僅かに膝を曲げた。
「遅れて申し訳ありません」
凛とした声がした。開いた扉に注目が集まる。人混みの向こうに見えたのは茶髪の男。王がニヤリと笑う。
「遅刻ギリギリ、といったところか。だが、このように華やかな場所は苦手ではなかったか? レオン・グランヌーヴェ」
その名を聞いて会場がどよめく。「元平民の」「図々しい」というような内容が耳に飛び込んでくる。レオンも聞こえているはずなのに全く表情を変えず、優雅に一礼してみせた。
「どうしてもこのタイミングで陛下に、皆様にご報告しなければならないことがありまして」
「いいだろう。許す」
王の許しを得てレオンが動いた。扉の向こうに手を差し出せば、カツン、とヒールが床を打つ音がした。群衆がどよめいてわっと割れた。
やっと見えた。お辞儀をしている白いドレスの少女。
「はじめまして、カルロヒューレン国王陛下、並びにマリサ王妃様。リリアンヌ・グランヌーヴェ……旧姓、グランセルネール。どうぞよろしくお願いいたします」
「面を上げよ」
王の命令で顔を上げた。彼女は、確かにリリアンヌであった。
「ほう、リリアンヌ嬢が二人いるな。マリサ、これはどういうことだろうな」
王妃がオーバーな仕草で肩を竦めた。わかりきっている、とでもいうように。
「我がグランセルネール家の失態でお騒がせしてしまったこと、お詫び申し上げます」
白いドレスを摘まんで優雅に腰を折る。それだけであちこちから溜息が漏れた。そしてしゃんと背筋を伸ばしこう続けた。
「その顔、やめてくださらない? メイベル・リン」
カーン、と仮面が床を跳ねる音が響いた。