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SS 春は来た【ヴェロー目線】







 今日からクレセリアはお休みだ。

 クレセリアの休日といえば『鍛練! 鍛練! あーんど鍛練!』という感じなので、完全に油断していた。


「ヴェロー、少し出かけるぞ」


 王都のグランヴェロー邸、クレセリアの問いに返事をしようとして驚いた。一応オレも紳士の端くれではあるから着替えの時などは絶対に見ない。今日もいつも通り着替えが終わった頃に戻ってきたら、クレセリアはドレスを着ていた。


 もう一度言おう、ドレスだ。


 動きにくいという理由でクレセリアは貴族の癖にほとんどドレスを着ない。なのにドレスでも問題なく動けるように訓練もしている。いや、今問題なのはそこじゃない。深い青の落ち着いた生地で、中に見える重ねたレースのドレープスカート。ワンピースに近いタイプのものだが、よく似合っている。


「ヴェロー?」


「あ、いや。ちょっと見とれていただけ。で、どこに行くの?」


 天井からひらりと降りてみれば、クレセリアはちょっと目を逸らした。


「せっかく休みをもらったから、遊びに……」


「あ、そういうことならオレは木を渡って、ついて……」


 オレはなにか間違えたことをすぐに悟った。クレセリアの目が徐々に据わっていき、発せられる冷気がじわじわと強くなっていた。


「あ、やっぱりクレセリアの隣を歩こっかなぁ……」


 ふ、とクレセリアの青い目が和らいだ。


「じゃあ舟のところで待っている」


 クレセリアはそう言うとつかつかと部屋を出て行った。オレは天井裏に戻って隠し通路を駆使し、地下の舟を目指していたのだが。


「ちょっと、お嬢様の格好見た!?」

「なにが起きたの!? ドレスよ!?」

「尾けるべきかしら!?」


 ……………まずい。

 使用人達がざわついている。気づかれないように、でも最速で地下に向かう。クレセリアが舟に乗ると同時、その背後に飛び降りた。


「ヴェロー?」


「ごめん、急ぐよ!」


 舟の縄を解いて魔法を使って加速した。よろけたクレセリアを抱えて支える。グランヴェロー邸が見えなくなってからようやく魔法を解いた。徐々に普通のスピードに戻る。


「屋敷の人達に尾けられそうになってたんだ」


「そういうことは先に言って欲しい……」


 思ったより至近距離で声がして驚いた。ぽかぽか陽気にクレセリアのひんやりした体が気持ちいい。それになんだかいい匂いがした。なんの香りか気になって髪を嗅ぐと、べちんと顔面を叩かれた。


「痛っ」


「公衆の面前でなんてことをしてくれる」


「え、それは公衆の面前でなければいいという」


「そういうのは思っても口にするな。嫌われたいのか」


 またべちんと顔面を叩かれた。渋々手放すと顔面を叩いていたそれが目に入る。付箋がたっぷりはみ出ている、ガイドブック。視線に気づいたのか得意げな顔をする。


「リーンに色々訊いておいたんだ。お前はほら、あまり人に見られるのは良くないと思ったから穴場スポットというやつを色々と」


「……オレの為に?」


「訊かれて肯定するのは癪だが、そうだな。どこに行きたい? 私はお前のことを知らなさすぎる。リーンと話していて痛感した。自業自得とはいえ」


 もう我慢できずにクレセリアを抱きしめた。嫌ならいっそ投げ飛ばしてくれというくらいの捨て身の行動だったが、クレセリアは身動ぎして非難するに留めた。


「ちょっと、ヴェロー」


「どうしよう。オレ幸せすぎて死にそう」


「死ぬな。とりあえず離れろ」


 警告を受けたので、僅かに体を離した。手は細い両肩に乗せたままだ。


「え? クレセリアが、オレの為に休日使ってくれて、オシャレもして、事前にすげー調べてくれて、オレのこと知りたいって言ってくれてるの? 夢? 夢なら覚めて? 痛っ!?」


 クレセリアに足の甲を踏まれた。夢ではないらしい。クレセリアはこほんと咳払いをした。


「まとめると、そうなる。が、これは私がしたくてしたことであって、別にお前の為じゃない。休日はどう過ごそうが私の勝手だし、服は私なりの気合いの入れ方だ。更にお前を無視し続けていたせいで、好きなものをなにひとつ知らない私が悪いのだから色々調べておくのは当然のことだ」


 キリッとした顔で言われるが、そういう努力をする人は一般的に尽くすタイプに分類される。オレの中ではカラカラの砂漠に突如大海が出現したくらいの『供給過多によるオーバーヒート』が発生していた。


「オレはね、クレセリアが好きだよ」


 一番大好きなものを一番最初に伝えてみた。するとクレセリアは目を細めて、ゆるりと口角を上げた。


「ありがとう」


 思えば、クレセリアの笑顔を見るのは初めてだった。雪の下に咲いた花のような笑顔。武人ではなく少女の顔で幸せそうに笑っていた。


 以来、オレの中にはクレセリアを『泣かせたい』よりも『笑わせたい』という気持ちがずっとずっと強く根づいた。









SSもこれでおしまいです。

女の子キャラが積極的でないのを最近書いている為に、男キャラ視点にするとめっちゃ積極的にしてしまいますね。大惨事にはならないよう気をつけたいところです。




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